8・反省会
凄く。もの凄く。反省。
もしわたしがいなかったら、リラは即時に離脱して撤退しただろうというのは、どう考えてもそう。わたしという不確定要素があったから、交戦を選んだ。ひとりだったらリラは撤退しただろうし、実際その手腕もあった。わたしが足を引っ張った。
明らかにそこは分かるので、申し訳なさで落ち込む。
「あの。リラ、ごめん」つい口に出してしまう。
「え、なにが?」
ラビの解体しながら心底不思議そうにリラが返して、逆にその答えかたに戸惑った。
「だってわたしが音を立てちゃったからボアの注意を引いたよね?」
手早く捌きながらリラは少し考えるような表情。
「もしあれがひとりでの狩りならすぐ撤退してた。確かにエリカが居たから引けないと思ったけど」
ゆっくり言葉を探しながらリラが言葉を紡ぐ。
「でも。二人だからもしかしたらいけるんじゃないかと思ったのは、そう。」
言葉を吟味しながら話しているのが分かる。
「そしてそれはわたしの油断」
思いもかけない言葉にわたしは一瞬、息を止めた。
「油断したのも慢心したのもわたしの判断。だからエリカは」
こちらを向いて目を合わせて、
「エリカは悪くないよ」
止めていた息を吐き出して、その瞬間、頭が整理されて、わかった。これはきっと本心。もちろん、わたしの油断や甘えがあるのも全部含んで。
リラはとても自立しているんだなと、わかった。年齢とかそういうのではなくて、しっかりと足元を固めて生きている、そう理解できた。
「ごめんなさい。わたしが未熟で足を引っ張ったと知ってる。……でも」
一生懸命言葉を考えて、精一杯伝えたい。
「学んで、もっと、生きていきたい」
リラが目を見開いて、そしてその目の光がやんわりと滲んだ。
「そうだね。反省は必要だけど、後悔は時間の無駄だもんね」
うわ、なにこの娘。めっちゃ深いことさらっと言うし。
リラが解体して、それに水袋から水をかけていて気がついた。あれ?もしかしていけるんじゃない?
「ちょっと待ってて」水袋をそっと置いてわたしは向きを変えた。罠でもリラでもない方向に体を向けて、念のためそっと。
「ウォーター」
水差しを傾けるイメージで。
杖から水が出る。
「うまくいった!」
リラが目を見開いた。
「イメージと集中が大事なんだよね?確か」でももっと検証しなきゃ。他のももっと。
「やっぱり魔力制御がすごいよ、エリカ」
「ありがとう。でもこれで飲み水以外の水袋は持たなくて済みそう。それだけで動きやすいよね?」
「もちろんだよ。水袋重いし、すっごく助かる」
毎回、罠から少し離れたところに水袋を置いていたけど、これで効率が上がるし、単純に重いものを持って歩くことが少なくなるのはわたしも嬉しい。
反省点はちゃんと反省して。次に繋げるのなら、一度しっかりいろんなことを考えたり練習したりするべきよね。今更だけどやはりわたし、ちょっと焦って行動してたみたい。これはこれで反省するべきところだな。
解体の手伝いをして肉を葉に包んで、魔石を取って収納。
「あんまり収穫はなかったけど、もうひとつ罠を仕掛けたら帰ろうか」
リラがそう言うので、頷いて動き出した時に見上げた木、ちらりと赤い色が見えたので焦点を合わせると、何かの実みたい。
「ねえ、リラ。あれってなに?」指をさして聞く。
「あ、あれ、ウリだ」
顔を上げて確認した途端にぱあっと明るい顔になったリラが教えてくれた。
「もしかして食べられるの?」
「うん、あれは美味しい。なぜかわからないけど森にしか成らない実、とても美味しいよ」
にこにこしてる。
「ここの森でこの季節に入るのは初めてだから考えてなかったけど、エリカ大収穫だ」
とっても嬉しそうな顔でリラが言う。
そうか、一年近くになるって言ってたけど、この実の成る季節の後からだったんだ。
少し歩いてその木を確認すると、クロスボウを一旦置いてリラが言う。
「わたしが木に登るからエリカは下で布を広げてて」
「わかった」
器用に木に登っていくリラを見ながら周囲も警戒する。
ゆっくり、ウリの実を落としながら二人で収穫。拳くらいの大きさで赤い実、つやつやしてて甘い香りがした。
空にした水袋に収納してお互いに分けて腰紐に掛ける。
「この重さはいいね」笑顔でリラが呟いて、ウリの実をひとつ差し出した。
「このまま齧っても美味しいし、煮詰めてジャムにしたり、パンに練り込んだり実を絞ったりして使うんだけど、食べてみる?」
「食べる!」
二人で歩きながら齧り付く。口に広がるいっぱいの水分と甘み、少しの酸味。あれだわ、スモモに似た味なんだ。でもきっとこれも魔力がある。何かが少しだけど体に浸透していくような感覚。
「これも二人いたから収穫できたんだよね」しみじみリラが言うのに驚いて顔を見た。
「だってひとりなら幾つか捥いでおしまいでしょ。落としたら身が割れちゃうし」
そう言われて納得した。この実の大きさならそうだよね。なんだか少し嬉しい。
「帰りに市に寄ってこれも売ろう。この量ならラビの肉一匹より少し高く売れるかも。まだ店には出てないから今なら人気あるんじゃないかな」
「なるほど、初物入荷状態か!」
「うん。ハツモノ?は分からないけど季節のみのりの最初」
わたしたちは森を抜けて、また農家の荷馬車のお尻に腰掛けて魔獣を警戒しながら街に帰った。
今日は荷馬車を降りるのは大門の手前。お礼を言って、ウリの実を少し分けて農家さんと別れる。
市だ!
小さな天幕が道の脇にたくさん並んでる。肉の焼ける匂い、店に呼び込む声。リラの知り合いの人の店に向かっていく。
あ、この人、以前荷馬車に乗せてくれた人だ。痩せた四十代くらいの男性。確か牛だか羊だかの放牧をしている農家さん。今日は肉の串を売っている。
「ラビの肉と、おやこっちはウリの実か!こりゃあ女房が喜ぶ。ありがたいねえ、全部買うよ」
驚きの全部買いだ。
目尻に皺を作りながら肉と実を引き取って、男性は実だけ袋に詰めていく。肉は側に見えている刃物で小分けしてこっちも串で売るんだろうなと思えた。
「串も食べていってくれ、おまけだよ」
肉の串を二本渡しながら話してくれる。
「ドメスが一頭、こないだ怪我してさあ。そのまま売ると値が下がるから家族で捌いたんだ。半分は干し肉にしたんだが、塩を山ほど使うだろ?だから残りは串にして売ろうって。この漬け汁は女房秘伝のタレだよ」
受け取った銅貨をいそいそとリラが皮袋に収めているので、串はわたしが受け取った。香ばしい匂い。
一本をリラに渡して早速串をいただく。ちょっと癖のある匂いだけど、多分このタレで中和されているんだろうなと思える。硬めの牛の赤身肉みたいな味。ジューシーさはそんなにないけど、しっかりした噛みごたえと深い旨み。これは美味しい。
醤油とも味醂とも塩とも違うタレ、ソースに近いけどもっとさっぱりした味わい。
「美味しい!」
思わず声が出た。
「そりゃ嬉しいね。明日もやってるから良かったら顔出してくれ」
目尻の皺を一層深くして男性が言ってくれた。
まだ夕方には早い時間だけど、わたしたちはギルドへ向かった。魔石を買い取ってもらうためと、わたしの魔法の検証のため。光の魔法と水の魔法、まず最低これをもう少し使えるものにしないといけない。そうじゃないと生存率が下がる。これはもう絶対そう。わたしひとりならまだしも、リラの生存率まで下げてはいけない。ここは本来わたしの方がお姉さんなんだし。
決意も固く改めてギルドに入った。
「たのもー!」
ゲイルさんが変なものを見る目でこっちを見た。




