6・冒険者見習い
鐘の音で起きて身支度を整える。
簡単に食事を摂ったらギルドで討伐依頼書を一通りチェックしてリラと冒険者門に向かった。
討伐書は、依頼ごとに個人が請け負うものは実は少なく、この種の魔獣何匹、またはこの肉何頭分などとなっていて、素材が必要な分に応じての供給や、魔獣を一定数間引くとか、そういうシステムらしい。つまり〝わたしは今日これを何匹狩りました〟と申請して数を確認していく方式。
確かにその方が確実だし効率はいいよね。
そしてわくわくする気持ちが一割。残りは不安と緊張というのが正直なところ。
戦闘とかできるのかなわたし。できると思えないけど。
冒険者門から出たら牧草地が広がっていた。普段は放牧しているらしく羊だの牛だのが自由に草を喰んでいる。
いやほんとは牛でも羊でもないんだろうけど。見るからに違うし。雰囲気的にそう思えるだけで。
「この間はいなかったよね?」とリラに聞いたら、夕方の鐘が鳴ったら畜舎に入れるそうだ。
教えてもらって改めて見ると、石造りの畜舎が見えたし、そばには見張り台らしき尖塔のある細長い建物もあった。鐘もついてる。「獣の急襲や異常があったらあそこの鐘を鳴らすの」
鐘の音で外壁内や門番に知らせるわけか。
そう言いながら大門に続く大きな石畳の道に入っていって商人の馬車にリラが話しかけてる。
「おはよう!途中まで乗せて。その間は警護するよ」
「そりゃ助かる。冒険者だね、森から離れるまでは後ろに乗ってくれ」
交渉成立したらしい。
荷馬車の後ろに腰掛けて移動する。
「いつも行きと帰りは商人や農家、放牧家の荷車に乗せてもらうの。その方がどちらも利がある」リラが笑う。
確かに。少しの間でも冒険者という護衛がつくことで相手は安心感を得るし、こちらはその分、狩りに体力を使いやすい。相互関係か。
「放牧してる人や農家は夕方には塀の中に帰るの?」
「そう。家畜は石の畜舎へ入れるけど、魔獣が出ないとは限らないから人間は壁の内側で暮らしてるよ」
なるほどー。そりゃそうか。
道が森から離れる地点で、挨拶をして荷馬車から降りた。リラと森の方へ進む。
「まずはこの間張った罠を確認するね。そのあいだエリカは周囲を見張ってて。何か出たら石を投げるか、余裕があったら杖で攻撃して」
基本の狩は罠らしい。ちょっとホッとする。
そうよね、ゲームではないんだから地道が一番。あと魔法か?魔法ね。水流カッター使えば良いんだよね。
二人で慎重に森に入る。
「わたしの足跡をなぞるように移動して」リラが言う。
これはなるべく臭いを残さないとか、人の足跡を残さないため?罠周辺を荒らさないためか。言われた通り、足跡を重ねるようになるべくそっと移動する。
しばらくすると向こうから何かの動く音が聞こえた。何かの鳴き声も。
「ラズカ、掛かってる」
ククリ罠というのだろうか、金属紐で輪を作ってあってそれに鳥がかかっている。結構大きい。見た目、青い羽が雉っぽいと感じたけど七面鳥より少し大きいかも。足にかかっているもので宙吊りになって、もがいて羽をバタバタしてた音が聞こえてたらしい。
「抑えとくから、血抜き用に切って」
昨日読んだ資料にあった。首の血管を切って血を落とすんだったはず。心理的にもちろん抵抗はあるけど、これは狩り。必要なことだと心を無にして首筋に杖を向けた。シュッと一瞬音がしてなんの抵抗もなく深く切り込みが入る。途端に血液が流れ出す。うわぁ…。
先日のラビ解体で少しは抵抗力がついたと思ったけどこっちは血液量多いわ。ムッと血の匂いがする。
ある程度血が抜けて、動かなくなったのを確認してからリラが罠を外した。
「すごい助かる!ありがとう」
リラがにこにこして本当に嬉しそう。
「これ、一人でやるともっと時間かかるし、危ないんだよねえ」
……ああそうか、こんなことを毎日リラは一人でこなしていたんだ。生きるために。
怖いとか気持ち悪いとか、そんな思いが急にすとんと抜けた気がした。だって血抜きしないと美味しく食べられないし。生きるには食べ物もお金も必要だもの。
わたし、もっとしっかりしなきゃ。
血抜きには少し時間がかかるからと、この獲物は一旦ここに吊り下げておいて、罠だけ回収した。近くにもうひとつ罠を置いていたらしいのでその間そちらを見に行くことに。
「血の匂いで他の獣が寄ってきたりとかはしない?」
ちょっとそれが気になって聞いてみた。
「ラビはもしかしたら寄ってくるかもだけど、吊ってあるから獲物に届かないし。あとは屍肉食べる魔獣はこの森にはいないから大丈夫」
「そうなの?」
「あんまり長くは危ないけどね、でもちゃんと魔石は抜いたし、血抜きが済んだら内臓は落として埋めるから」
この森に主にいるのはラビや、さっきのラズカのように地面を走るあまり飛ばない鳥類、あと危険なのがボアという猪系とガウルという狼系だそうだ。
ガウルは毛皮と牙が、ボアは肉も毛皮も爪も、素材になるらしい。
「でもあれらはわたしたちじゃ危ないからね、普通は何人かの隊を組んで狩をする」
「そうね。安全性を第一に、だね」
だってわたしも、冒険者になりました!即戦って獲物バンバン狩りますよ!とか、そんなのどう考えても無理じゃない、現実的に。だって怖いし、怪我したくないし。当然だけど戦闘経験があるわけでもないもの。
少し移動したら、もうひとつリラが罠を仕掛けていた場所に着いた。こちらも同じようなククリ罠らしい。ラビが一匹。
「ラビの頭を布で覆うからその隙にとどめ刺して」
「わ、わかった」
罠にかかってしばらく経っていたらしく、最初はぐったりしていたが、こちらを確認したら牙を剥き出しにしている。これは確かに危ない。
先ほどと同じように首元の血管を狙って杖を構えた。
「いくよ」
「うん!」
合図とともにリラが革の布を被せる。
わたしは狙った位置に水流カッターを飛ばす。
動かなくなった獲物の足部分をすかさず縄で括り、逆さ吊りにした。
これはこの間と同じ。心臓の横から魔石を取り出して、そのまま内臓を抜き、血抜きをしたら肉を葉で包む。先日と同じ植物みたい。いつの間に採取してたんだろう。
「その葉がいいの?」
手際よく肉を包みながらリラが教えてくれた。
「この辺だとこの葉が良いんだよね。腐りにくいし虫が寄り付かない」
生活の知恵というか、これは冒険者や狩人の基礎なんだろうな。
「わかった。わたしも覚えておく」
蕗の葉みたいな形、覚えたよ。
リラが罠を回収しながら言った。
「ちょっと土掘って内臓埋めてて。わたしはこの罠をまた仕掛けておくから」
「了解。気をつけてね」
軽く手を上げてリラは茂みの中を足音を立てずに歩いていく。
その間にわたしは石で地面を軽く掘って、取り出した内臓や血が染みた土を埋めた。
やはりこの匂いにも作業も、好きにはなれない。でも慣れなきゃ。
そうこうしているうちにリラが帰ってきた。先ほどの鳥は血抜きが済んだかな。
帰りは多少重くなったけど、葉で包んで上から縄で縛って、二人で持てばなんとかなった。これは一人だとちょっと辛いかも。
森から出て街道の方へ歩き、来た時と同じような荷馬車に乗せてもらって帰る。
「ラズカの魔石ね、割と良い色だったし、ちょっと大きいから少し高く売れそう」こそこそとリラが教えてくれた。
ああ、成果物の良し悪しは大きな声で言わない方がいいのか。そりゃ若い女性二人だとまわり全部に警戒しすぎるくらいがちょうど良いよね。この荷馬車のおじさんが悪い人だとは思わないけど。
空はそろそろ夕方の気配。風が少し冷たくなって、街の方から鐘の音が聞こえてきた。
放牧されていた生き物たちが畜舎に入って行く。荷物を持った畜産農家らしき人や商人が大門の前に並び始めてる。
わたしとリラはお礼を言って荷馬車を降り、また重たい肉を抱えながら冒険者門へ向かった。
門番さんに挨拶をしたらリラと顔を寄せて二人で少し笑う。
「ちょっとだけ今日も期待できるかな」えへへ。




