3・冒険者ギルド
「今日、早いな」
門番の大柄な男性がリラに話しかけた。
こちらの方の門はほとんど人が並んでいない。
「今日はたくさん、獲物」明るい色の大きな目を得意げにきらきらさせてリラが答える。
「あと、迷子、ツレてキタ」
「迷子?」
門番の人がこっちを見る。体格は大きいけど目尻の皺が優しそう。
「あ、こンニチワ、でございます」
一応挨拶してみる。
「あれ? アンタ、ナハル 出身か?」
「あ、そうか」リラが納得した声を出す。
門番さんは訳知り顔で続けた。「知り合い、ナハル 奴がいて、言葉 音、似てる」
どこかの辺境の出身者の発音と似ているらしい。
自分でも不思議なんだけど、喋ろうと思うと、日本語から脳内で英語に変換しているような感覚になっているみたい。完全に無意識だったけど。あと、この世界?の言葉って、昔おばあちゃんの地元に行った時みたいな感じに近いんだというのにも気がついた。
訛りがすごくて外国語聞いているみたいな気分になるけど、ちゃんと日本語なのはわかってるし、ところどころは聞き取れている、あの感じ。
もうなんでもいいや。
ぺこりと頭を下げたらそのまま門を通れた。
よかった、入るのに税とか取られなくて。…いいんだよね?
そっとリラに聞いてみる。
「門、入る、金額、大丈夫?」
「冒険者専用ノ、門、問題無い」
「了承、ありがとう」
よかった〜。多分これ、リラが一緒だからだよね。わたし一人だったらきっとダメだったと思う。
門から入るとそのまま道になっていて、左手側にしっかりした建物があった。大きな扉が開いている。そこへリラは慣れた様子でずんずん入っていく。
今更だけどわたしの格好、風体ってちょっと浮いてるよね?不安感が募るけど、こういう時って堂々としてた方がいいのかな。多分そう。
一瞬だけ下を向いて、密かにフンッと息を吐いて、気合いを入れた。背筋を伸ばしてしっかりと前を向く。
ざわめきが耳に入ってくる。たまに単語だけ聞き取れたりする。「フェラルラビット」あ、それはわかる。
左側にカウンターらしきもの、男性が数名。目の前には掲示板のような板がある。その奥にも何枚か板があるようだ。あれかな、よくアニメとかで見た、依頼書が貼ってあったりするアレかな。そういえばこういうところの受付って若い女性とかのイメージなんだけど、カウンターの向こう側にいるのはほとんど男性だし、特に若そうでもないな、なんてぼんやり見てたらリラがわたしの手を引っ張ってカウンターに寄って行った。
カウンター内の男性と喋っている。やり取りが早口だからはっきりはわからないけれど、多分さっきの獲物の肉とか魔石とかの報告と買取をお願いしているんだと思う。ニュアンス的に。
金額を提示されて、リラが喜んでいる。わたしは金銭価値が全くわからないので口は出さない。ううむ。と思っていたらひょいっと肩を軽く押された。
「冒険者登録!」リラがはっきり伝えた。
あ、そうだった、それ重要。やっぱりわたし混乱しているんだわ。さっき話してたこと忘れてるなんて。
カウンターの人が紙を出してきた。多分簡単な身上書みたいなものなんだろう。紙はあるのね、ちょっとわたしの知っているものとは質が違うみたいだし厚みもあるけど。というか読めるの?書けるの?わたし。
本当はさっきからずっと内心冷や汗ダラダラだけれど、まずしっかり見てみよう。と思ったら。
……意外に読めた。
感覚としては、旧漢字とか中国の看板読んでるような?おおよその意味はわかる。いや、どうやら文字は日本の漢字とかとは全く違うんだけど。ローマ数字に似ている形、だけどなんとなくわかる。なんで?
内心ちょっとパニック起こしそうになったけど、まず目の前のことからやっていかねば。お腹も空いているし!
何とか、エリカという名前と年齢18と(ううぅ)出身地はさっき聞いた「ナハル」と書いた。本当のことなんて言えないし、まず自分が状況を把握できていないし、この言葉の状態で伝わるとも思えない。
「あとは魔力の測定だな」カウンターの中の人が言う。あら、これははっきり聞こえたわ。というか、え、魔力?そんなもんあるわけないじゃない、どうしよう。
「村、神殿、測ったこと、ない?」リラが言うので、「神殿、無い」と答えたらなんだかカウンターの人と二人で納得したみたいな顔をした。
きっとめちゃめちゃ田舎とかなら無くても不思議ではないとか?よほどわたしが不安そうな顔をしてたようで、リラが言い添えてくれた。「魔力、少なくても冒険者、問題ない」
そうなんだ、よかった。…いや、少なくても、って言ったよね。ゼロとかだとそれはいいのか、まずいんじゃないだろうか?普通の日本人は魔力なんて無いと思います〜。
青くなるわたしをよそに、さっさとカウンターの人が後ろから不思議な道具を出してきた。
「魔道具。見るの、はじめて?」にこにこしてリラが言う。
「はい。初めて」
プレート皿くらいの大きさの六角形の台座中央に透明なガラスみたいな面があって、その奥に文字。周りにいくつか刻印の入った魔石?が配置されている。台座にも何か彫ってあるな、あれ?
これ…「共鳴…と読取…?」
「あんた、これ 読める?」急にカウンターの男性が声を上げ、その声に思わずビクッとした。
え?なんか読めたけどだめなのかな?
「ゲイルさん、大きい声、驚く」リラが慌てたように言う。ゲイルさんっていうのか。
「あ、悪い」とその人も謝ってくれた。「古語、読める人 少ないんだ。」
古語って古い言葉ということなのかな?
そして気がついた。
さっきの書類に書いてあった文字と、この刻印の文字は、似ているけれど少し違う。なんで読めてるのわたし。
今度は別な意味で背筋が冷たくなる気がした。
混乱がひどくなりそう。
いや、これ、もしかして転移特典とかチートとか、そういう?
「ま、ともかく、この上。手 乗せてくれ。魔力量書き込んだら登録できる」
そうゲイルさんから言われたのでおっかなびっくり、そろりと手を乗せた。
冷たいかなと思った透明な面は意外とそうでもなく、ふわっと光ったと思ったら手前の枠に数値が出た。
「魔力量35。まずまず、だな」ゲイルさんが告げる。
わぁ…魔力あるんだ。
リラが交渉したらしくて、さっきの買取額から登録料を引いてもらえて、無事冒険者タグを手に入れた。革紐で括ってある小さなプレート。カウンターの後ろにどうやら専門の職員さんが居るようで、名前と階級を彫り込んでくれた。
首から掛ける。
ギルドの隣に灰晶級用の宿が併設してあるらしい。
今までリラもそこの個室を利用してたそうだが、二人部屋に移ることにしていいかと聞かれた。その方が一人あたりの金額負担が減ると。なるほど。
ギルドから出たらあたりはすっかり夕方。
夕日の色は日本とあまり変わらないんだなと、ふと感傷がよぎった。
これからどんどん冒険者たちが帰ってくるらしいので、混雑する前に食事を摂ることにして隣の宿屋に入る。一階の半分が食堂になっているらしい。
メニューも何もなく、リラが注文するのに任せた。
ゴロンと肉の入ったスープに、黒っぽいパン。パンはやや硬いが噛めないほどの硬さではない。当たり前だけどイースト菌の匂いではなくて、嗅ぎ慣れない酸味のある香り。スープと肉はまあまあ美味しかった。そして宿にはお風呂があるらしい。
お風呂!
リラに着いていく。
石鹸らしきものもあった。それはもちろん日本のものみたいにいい香りな訳ではなく、むしろほぼ無臭だけど、浴槽には魔石が取り付けてあって、どうやらそれが水を出したり温めたり、循環させたりしているらしい。よかった。ここが風呂に入る文化で。
さすがに今日は色々ありすぎて疲れたので、早々に休むことにして部屋へ上がった。二人部屋は二階にある。
ベッドはふたつ、マットレスは無いけれど、木のフレームに皮が張ってあって、藁が重なってる上にしっかりシーツが掛けてあった。硬い…。でも清潔そうではある。
ベッドに座ったら、ほっとしたせいか、ものすごい疲労感がどっと押し寄せてきた。
でも!寝る前にあれだけは確認したい!
そう、お約束の例のアレ。
リラがお手洗いに行った隙に口に出してみる。
「ステータス・オープン!」




