12・商人馬車と依頼出発
女性はパチパチと瞬きしてこちらを改めて見て、教えてくれた。
「光の魔法、使える人が少ないから知らない人は多いんだけど」まあ、貴女方若いからねぇと呟きながら続けた。
「魔力が多ければ使える魔法も多くなるし、魔力制御が上手ければ細かい魔法を何度も使えるのは知ってるでしょう?」
うんうんと二人で頷く。
「光の魔法、灯替わりに使うのも一般的だけれど、制御が上手ければ炎症を抑えたり、傷が早く塞がるよう手助けしたり出来るのよ」
思わず〝ヒールじゃないんかい!〟って心で突っ込みながら考える。
いやいや、よく考えてみたら確かに。資料に書いてあったじゃない、炎症抑制とか!殺菌とか!紫外線って免疫力向上とかビタミンD生成とか、あったような気がする。うろ覚えだけど。
練習した時の〝ライト〟とかボアとの遭遇でなんとなく思い込んで固定してたけど。
「ぅわぁ……」反省……。
逆にリラが嬉しそう。
「エリカすごい!」
ありがとう。まだ何の役にも立ってませんが。
ふと女性がわたしの左手首に嵌っているミサンガのようなブレスレットを見た。
「あら、小さいけど魔石が入っているね。光魔法を使えるのなら光の魔法刻印、刻むかい?」
「え?これですか?」手首を上げてわたしは答えた。
これは最初にリラと行った中古装備屋さんでオマケに付けて貰ったあれか。リラが選んだもの。
「夫が錬金術やっててね、刻印も請け負ってるの。薬とそれまで合わせて1銀でどうだい?」
「お願いします」すかさずリラが言う。
「お願いします」わたしも重ねて伝えた。
支払いをして薬を腰の袋に納めたら、見学させてもらう事になった。何よりわたしが見たいと希望したからなんだけど。工房は店の奥にあった。
錬金術師の男性は少し腰が曲がった、こちらも柔和そうな人で、丁寧に教えてくれた。
「魔石液って言ってね、ある種の魔石を細かく砕いた物を混ぜてあるんだ。これをこの先に付けて刻むんだよ」
ペン状の小さな器具を頑丈な手袋の先に嵌めて手を動かしてる。以前見たCNC工作機械の手動版みたい。コンピュータ制御で材料を削り出す機械、電動の彫刻刀。あれの規模をうんと小さくして、多分魔力を流して制御しながら刻んでいく。
刻まれた文字は多分「光・浸透」
なるほど、これで応急処置くらいは出来そう。
「あの、そういった道具も売ってるんですか?」
つい聞いてしまった。
だってもしこれ自分で書き込めたら選択肢が広がる気がする。
刻印の終わった石をこちらに戻してくれながら男性はにこりと笑った。
「売ってるけど高いよ。これ一式でニ金貨ちょっとだねぇ」
そりゃそうかー。デスヨネー。工作機械ほどじゃないにしても専門用具って高いもんね。CAD用PCだってわたしが使ってたのも確か40万くらいはしてたはず。後々の選択肢として覚えておこう。
錬金術工房を出たら次は野営用の食料かな?
「あ、天幕とかはいらないの?」リラに聞いたら不思議そうな顔をしたあとに答えてくれた。
「野営と言ってもギルド施設の点在屋は有るよ」
「点在屋?」
聞けば、冒険者ギルドは国の設立より古く、各地の街道沿いに四阿のように屋根だけあったり、簡易な天幕広場みたいな場所が一定距離ごとにあるそうだ。魔獣に襲われたりして設備が壊れたら、次に使う旅人や冒険者が少しずつ修理して再建するらしく、冒険者が移動しやすいようになっている、らしい。
すごいな、この世界のインフラ。冒険者特化してる。
「じゃあ保存のできる食べ物を準備すればいいのね」
「そう。干し肉と乾燥野菜買いに行こう」
そういう事で今度は店を出て更に通りを進むと、食料品を扱っている屋台が並ぶ場所に出た。
地面や小卓に布を敷いて色々なものが売られている。
見たことのない野菜や果物、吊り下げられた肉の塊や干した肉、干した、何だかわからないものも。リラと二人で選んで幾つか購入。わたしはちょっと目移りしてキョロキョロしてしまう。だって!異世界って感じで、物珍しいんだもの!仕方がないと思います。
そういえばわたし、ナハル出身ってことになってるけどそろそろリラにはちゃんと言ったほうがいいのかなぁ、なんてぼんやり考えてしまった。
うん、一度きちんと話そう。依頼がちゃんと終わったら。
そう決めた。
あ、小鍋も買っておかないと。お湯は欲しいもんね。
翌朝、ギルドに寄って出発の旨を伝える。今日はゲイルさんが居た。
「気をつけて行けよ。村には連絡しとく。あとエリカ」
「はい?」
「せっかく賢しげな頭を持ってるんなら、読み取った資料から応用をもっと考えろ」
「……はい……」
ちょっときつい言い方だけどこれは多分心配から来る忠告で助言。ありがたいなあ。
「今日はハル商会があっち方面に向けて出るから、護衛兼で乗せて貰え」
「ありがとうございます!」
リラと二人で答えてわたしたちは大門へ向かった。
大門の横、商人馬車止め広場でハル商会さんを探す。
ハル商会さんは薬や服、加工食品を小さな村に卸して、村からは細工物や布を買い取って行商しているとのことで、馬車二台で王都を中心に回っているらしい。今回は王都での販売と仕入れが終わったのでデルマ砦村を経由して冬が来る前に北東をまわるそうだ。荷主は五十がらみの初老の男性と、娘さんだという二十代に見える女性の二人。
「護衛を雇う手間が省けて助かったよ」荷を括りながら言う商人さんはオルヴァンさん。
「いつもは手代のテオが一緒なんだけど、こないだ怪我しちゃってさ、今回は王都に置いていくんだ。冬前にここに戻るからそれまで療養させるのよ」そう話すのは娘さんのセイリアさん。「ここに着く直前に魔獣に襲われちゃって」
「えええ?」声がつい出てしまった。それに答えて笑いながらセイリアさんが言うには「襲われたっていうか、ガウルの群れの移動に馬が驚いて落馬しただけ。直接荷馬車を狙われたんじゃないよ」らしい。
ガウルもハグレだったり、縄張りに侵入しない限り、そうそう人の集団を襲うことはないそうで。なるほど。
「ただ、今の季節だと移動の荷馬車が少なくなるからねえ。普段は商人何組かで動くんだけど、今回北方面に行くのはわたしたちだけだから。テオが居なくて二人だとちょっと心配だって父さんと話して、護衛依頼出そうかってギルドに行ったらさ、ちょうどあんた達が行くって言うんで。助かったよ。そっちのお嬢さんは狩人の冒険者なんだろう?」
リラを見やってそう言ってくれた。
「前の方の馬車に乗って警戒してくれたら助かるよ」
そういうことで、リラは前の馬車にオルヴァンさんと、わたしは後ろの馬車にセイリアさんと乗って後方支援という形で出発した。初めて外壁の外、遠くに行くんだなとどきどきする。
それぞれの御者代の近くに分かれて乗っているとセイリアさんが話しかけてきた。
「エリカちゃんは魔法使いなの?」
「はい、一応」魔法使いって言って良いのかな、区分けがよくわからない。
「水の魔法と光の魔法を少し使えます」正直に申告する。他はまだ練習していないから実質、使えますとは言えないし。
外壁の外は風が強い。砂埃も舞い上がってる。
「街道で出るのは主にガウル。でも大抵は移動してるだけだから良いんだけど、ハグレのガウルと、たまに出るベアに気をつけててね。今の季節だと冬籠り前で、場所によっては食べ物が足りなくて迷い出てくるのも居るから」
「はい」答えながら一応聞いてみる。
「仕留めたほうがいいですか?回避できればそれで良いんでしょうか?」
朗らかに笑ってセイリアさんが言うには、通常は回避できた方がいい、場合によっては仕留めることもあるけど、それは臨機応変で任せるとのこと。
最優先は荷と商人の安全、だそう。
そうだよね。生きて、仕事を遂行できるのが一番。
そんなことを話しながら半日ほど進んだところで右手前方に砂煙が立っているのが見えた。
何かいる。




