8・初めての遠征
ベッドに横になりながら考える。
確かにここに来てからユーザーインターフェースみたいなログは流れてた。そして多分、これはわたしにだけ。ほとんど意味はわからない。よくある、アニメやゲームで見たことがあるような、転生ですって言う女神と話したり、転移だよと神様が出てきて希望聞いてくれたり、そんなのは無かったのは確か。
でもあの駅での出来事を思い返せば、あの階段を登り切ったところから後ろ向きに落ちたら。
高確率で、助からなさそう。それはわかる。そして万が一、あの状態のまま帰れたとしてもきっと同じ。
〝事故死〟
その言葉がぐるぐる回る。
わたしは何にこだわってるんだろう。
頭に流れるログの意味を知りたい。そして多分、ここに居ていい、と言う実感が欲しいんだ。
日本にいた時は何も考えなくても、知らなくても。家族とか、学校、社会、それらが秩序を持って存在していて、無知でも理解してなくても、はっきりと〝存在〟出来た。それ自体が基本は否定されていなかった。今のここではどうだろう。わたしは存在していいのか、意義は何か。足元が不安定なんだ。だから。
「屁理屈でもなんでもいいから、自分で納得できるための理屈が欲しいんだ」
口に出したら、なんだかその言葉が気持ちのどこかに収まった気がした。
「なら、その意味を、意義を探さないとわたし、納得できないんだ」きっとそういうこと。
生きるのは大事、第一。それとは別に大きな目標として掲げるべきこと。ゲームじゃない。怪我もするし焦るし怖いけど。
ゆっくり息を吐いて、ゆっくり息を吸い込む。干した藁の匂い。
人生で藁の匂いを吸い込むことがあるなんて想像したこともなかったな、と思って、ちょっと笑った。これはこれで、いいよね。
どう進めばいいのかを考えていたら、いつの間にか眠っていた。
「リラ、あのね。わたし昨日見た調査依頼、やってみたいんだけど、どう思う?」
朝起きて朝食を食べて一息ついた時に、リラに話しかけた。なんだかつるっと出た言葉だけど。半分は無意識、半分は昨夜考えていたことの延長線。すぐに否定されるかと思っていたけど、意外にリラは考える顔をして押し黙った。
「実は少し考えていたんだけど」慎重にリラが話し出す。
「今は灰晶級だけど、そろそろ青晶級を目指すのもいいかなって」
わたしは思わず目を見開いた。
「それ、ギルドでの階級上げってこと?」
「そう。等級が上がれば報酬が高くなりやすいし、引かれる手数料も低くなる。何よりまわりに認められるから舐められにくい」
それはとても実感のある言葉だった。
元々少ない女性冒険者で、若い女の子。舐められやすいし突け込まれやすい。今まで一人だったから余計に嫌な思いもしたんだろうなと容易に想像が出来た。
「青晶級になれたら少しはマシなの?」
「そりゃあだいぶん違う」
少し鼻息を荒くしてリラが言う。
「灰晶級は初心者からそこそこ慣れた冒険者だけど、青晶級ならちょっとした中級者。緑晶級になるとギルドから依頼が来る。さすがにその上の赤晶級になったらギルドに何人かってなるし、指名依頼も入ってくるけど。そこまで行かなくても青晶級や緑晶級は目指してるよ」
意外にリラも上昇志向が強かったらしい。
ゲームとかでよくあった設定、多分だけど灰晶級はいわゆるF〜Eランク、青晶級がD〜C、緑晶級が B〜A、みたいなものかな?
「そっかー。じゃあ今日ギルドを覗いて、まだ依頼が貼ってあったら挑戦しようか」
もちろん事前に準備したり計画立てたりするけどね。挑戦と無謀は別ですから。
二人で揃ってギルドの掲示物を確認に行く。
まじまじと見たのは初めてかも知れない。ああ、そうか。リラがあまり文字を読めないからなんとなくここ、スルーしてたんだなと思い至った。
張り紙はまだそこにあったのでギルドの受付窓口に聞きに行く。今日はゲイルさんじゃなくてもう少し若い細い目のお兄さんだ。30そこそこかなと思える痩せぎすの人。
「ああ、その依頼受けて貰えるのなら依頼書は剥がしますね。リラさん達なら要件は満たしてますので安心です」
要件を満たしてるって何?
思わずリラの顔を見た。
「今までの狩りの獲物の数、納めた魔石、そして規約違反無し」ふふん、みたいな顔をしてリラが言ってる。ちょっと珍しいけど、これはこれで可愛い。
「はい。しかも今はお二人で組んでらっしゃるので問題無いですね」
ちゃんとギルドでは個々の情報がまとめて管理されてるんだと納得して、それはそれで凄いことだと驚いた。どっかの役所職員の対応とは違うな!母数が違うから一概には言えないけど!
「いつから出発がいいんですか?」恐る恐る聞いてみる。
「今日すぐでも良いですけど、準備もあるでしょうし。決まったら村にもこちらから先ぶれを出しますよ」
リラと話し合って今日は食料や野営の準備をする事にして、出発は明日の朝に決めた。そう伝えたら、出発し次第ギルド職員の人が件の村へ魔道具で通信してくれると言う。
通信の魔道具なんてあるんだ?
「簡単な内容だけですよ。村、12番、了承、程度です」なんだか昔聞いた手旗信号とかモールス信号みたいなモノ?当然その魔道具を見せてはもらえなかったけど、有る、と知れたのは少し安心。
ギルドを出たらリラが歩き出した。
「じゃあ道具屋と錬金術工房へ行こう」
「錬金術工房?」
「念のため薬瓶買う」
「薬瓶」ポーション?「回復薬ってこと?」
「回復?うーん……薬」
あれ?やっぱりちょっと違うのかな?
今日はギルド前の大通りに出て、大門を後ろに反対の方角へ進む。こちらの道は石畳になってるから、砂埃は少なくて歩きやすい。でも荷馬車も行き交うので、注意して端の方を歩く。
しばらく進んだらまた大きい通りと交差していて、そこを右手に曲がったら職人街だった。看板に木工とか鍛冶屋とか書いてある。
〝錬金・薬〟と刻んである焦茶色の看板が下がっている。リラは迷いなくそこの扉を開けた。
「王都に最初に来た時にゲイルさんに教えてもらったんだ」と説明してくれた。
ギルド職員紹介なら安心だね。
室内に入ると薬草の匂い。でも調剤薬局とかもこんな感じの匂いしてたなと思い出す。あれよりもっと独特だけど。
奥の棚に小瓶がたくさん並んでいる。何種類かあるみたい。軟膏みたいなのと液体と。
「毒用と怪我用。怪我用は三つ欲しい」お店の奥に向かってリラが言うと、布幕の向こうから中年の女性が出てきた。少しふっくらした体つきに優しげな目元。
「はいはい、解毒用は何の毒?」
「ラト用。あります?……念のため二本あったほうがいいかなぁ」リラがこちらを見て言ったのでわたしも答えた。
「はい。二本お願いします」ラトがなんなのかは知らないけど、魔窟に居るかも知れないんだよね?確か。
「あと怪我用三本ね」棚の瓶を確認して選びながら女性が言葉を引き取った。
「ラトに噛まれて、噛み跡が紫色になるようならこっちをすぐ飲んで。紫にならなければ飲まなくていいから、この薬を塗ってね」
卓にコトリと幾つかの瓶を置いて説明してくれた。
コレはポーションとはチガウ……掛けたり飲んだりしたら怪我が瞬時に治るとか……ナイヨネ……うん……。
なぜだか頭の中でカタコトになりながら反省。
「光魔法使える人がいたら、まず洗浄、抗菌、回復補助の魔法使ってもらったら一番なんだけど」頬に手を当てて女性が何気なく言った。
「えっ」
「えっ?」
リラとわたし同時に声が出た。
ちょっとそこ詳しく!




