第四話 コンビニと折れたヒール
コンビニの駐車場に停めると、小春はドレスの裾をまとめて器用に降りてきた。折れたヒールのせいで、アスファルトの上を歩くたびに微妙にバランスを崩している。
「待ってろ」
トランクを開けて、ビニール袋に入ったままの作業用スニーカーを取り出した。サイズは二十七センチ。大きすぎるが、ないよりはましだろう。
「これ履け」
小春はスニーカーを見て、それから俺を見た。
「いいんですか」
「どうせ使ってない」
素直に受け取って、外壁に手をついてヒールを脱いだ。ドレスの裾から覗く足は、長時間ヒールを履いていたせいで赤くなっていた。指の付け根に、小さな血豆ができていた。
スニーカーは予想通り大きすぎて、小春はぺたぺたと音を立てながら店内に入った。他の客が一瞬目を丸くして、すぐにスマホに視線を戻した。師走のコンビニは忙しい。
店内は蛍光灯が白々《しらじら》と明るかった。クリスマスソングが天井から流れていて、歌詞の意味を考える気にもなれない陽気さだった。揚げ物の油の匂いと、温められたまんじゅうの甘い匂いが混ざり合っていた。
俺はおにぎりを二つと緑茶を買った。小春はホットスナックのコーナーで少し迷ってから、「一つもらっていいですか」と俺に訊いた。
「金ならある」
「財布、式場に置いてきてしまって」
「好きなだけ取れ」
小春はフランクフルトを一本、チョコレートを一つ手に取った。好きなだけと言ったのに、律儀に最小限にしている。
駐車場の隅でエンジンをかけたまま食べた。フランクフルトの湯気が、冬の車内でゆっくりと広がった。小春はフランクフルトを半分食べてから、急に黙った。
「どうした」
「今頃、父がどんな顔してるかなって」
俺は何も言わなかった。
しばらくして、小春は「食べます」と言って残り半分を口に入れた。
——店内の窓越しに、駐車場の入口が見えた。黒いセダンが一台、エンジンをかけたまま停まっていた。ヘッドライトは消えていた。俺たちが出てくるまで、ずっとそこにいた。
出発するとき、セダンはゆっくりと国道に戻っていった。
偶然かもしれない。
そうじゃないかもしれない。
完




