7.そして再び繰り返す
瞼を閉じてもわかるほどに燃え盛る赤い炎を最後に意識を手放したーー
「それでは誓いの口づけを」
はずだった。体の中に炎を入れてしまったような生々しい感覚を残したまま、気がついたら再び式場に立っていた。
「はぁっ! はぁ……はぁ……」
「……大丈夫ですか?」
突然、息が吸いやすくなった。なのに、呼吸が乱れる。会場のざわめきが耳を掠める。
胸元を抑えながら、目の前に立つ人物にしがみついた。
……今のは、いったい……。
「コホン……誓いの口づけを」
わたくしが戸惑っていると、大司教様が咳払いをし、小声で先を促した。
……どういうことですの?
「何か問題でも?」
声のする方に目を向けると、アドリアン様がわたくしを見下ろしていた。
……そうだわ。今は、わたくしとこの方の結婚式の最中なのだわ。
「……大丈夫ですわ」
「あなたも不本意でしょうが、お互い様です。少し我慢してください」
アドリアン様は、全く同じ言葉を口にし、顔を近づけてきた。
「たった今より、アドリアン・マルクスとレティシア・アウローラ・ヴァルモンが夫婦となったことを宣言する」
式場から去る時、きっとわたくしの顔色は、今までで一番酷いものだったのではないかしら。
……あれは夢だったのかしら? 夢にしてはあまりにも生々しい痛み、熱気。そして怖いと思う感情もまた、はっきりと覚えているわ。ゆっくりと死に近づいていったあの感覚が夢ですって? そんなことあるのかしら?
そもそもこれで三度目ではありませんこと?
毒殺。
刺殺。
そして、火災ーー
わたくしは本当に、同じ時を繰り返しておりますの……?
式場を出た途端、アドリアン様は手を離そうとした。……それは一度目の時と同じように。
咄嗟にその腕を強く引いた。
「人目がございます。馬車まではこのままで」
早口でそう伝えたわたくしに、少し驚かれたような顔をした。それでも小さく頷き、馬車へ向かった。
馬車へ乗る時のエスコートの姿勢も、座る位置も同じ。
……やはりあれは、ただの夢ではないのでは……。で、あるならば、わたくしは一体何のために、このようなことを経験させられているのかしら。
共通点は、わたくしの死……ですわよね。死ぬことからの回避を目的として、繰り返しの時を過ごしている……?
そのような奇跡と言えるほどのことなど、女神ウルキスにしかできないのではありませんこと? 本当にそうだとしても、なぜ女神ウルキスはそのようなことをなさっているのか……。
「……体調は落ち着きましたか?」
わたくしが考え事をしていたら、アドリアン様が心配そうにこちらを見ていた。
「はい、ありがとう存じます。アドリアン様にもご迷惑おかけ致しましたわ」
そう言ったわたくしに、目を見開いた。
「どうされました?」
「あ、いえ……。令嬢は、そういうことは徹底されている方に思えたので、いきなり名前を呼ばれ驚いてしまいました」
アドリアン様の言葉に、今度はわたくしが目を見開いた。
……今この瞬間が、繰り返されているものであるなら、アドリアン様にとってわたくしは、今初めてまともに会話している令嬢にすぎない。
馬車内でのあの会話も、暗殺者を退けたあの時のことも、全てなかったことになっているのだわ……。
「大変失礼致しました。形式上はそうなったとはいえ、少々気が早すぎましたわね」
「いえ、そういうつもりで言ったのではなく……。あなたは社交界の噂でも完璧な令嬢と言われている。そのあなたでも、こういうことがおありなのかと思っただけです」
アドリアン様は戸惑ったような顔をされた。
「わたくしは完璧などではございません。まして笑顔の仮面をつけた人形でもございません」
「そ……そのようなことは、思っておりませんよ」
言葉を詰まらせ、目を逸らし言うアドリアン様は、誰がどう見ても嘘をついていることがわかる。
……やはりこの方、わたくしにとっては好ましい方ですわ。
「……邸宅までの道中で、あなた様にお話したいことがございます」
そう思いながら口を開いた。




