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死に戻り公爵令嬢は、政略結婚の夫と運命を書き換える  作者: 猪口 零都


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14.真相を求めて


 わたくしがこの屋敷で心から信用できる人物と言えばルミナしかいない。

 負担を掛けてしまう負い目はあるものの、他に頼ることができない状況の中、アドリアン様から聞いたお相手女性の詳細をルミナに伝え、調べてもらうことにした。


「……ふぅ……」


 部屋に一人になったことで、ようやく一息つけた。

 一度状況整理をする必要があるため、紙とペンを手にイスに腰掛けた。


「……まず、最初は式直前の毒殺でしたわね」


 日付と、戻った地点を書き出す。


「次に初夜の刺殺」


 戻った地点は、式の最中。


「その次は確か、火事、でしたわね」


 その時もまた、式の最中に戻った。


 ……厳密には二度とも、誓いの口づけの時点でしたわね。


「そして今回の馬車事故」


 何故今回だけは、式の最中ではないのかしら……?

 今回はアドリアン様の手を握っていた時点に戻ってきている……。そういえば式の最中でも、アドリアン様に触れていた時でしたわね。でもそうすると一度目の時点ではアドリアン様に触れてなどいない。

 あの時は控え室でーー


「そうだわ。確か廊下でお父様と話されていたアドリアン様を見たのだったわ」


 一度目に戻って、すぐに目に入ったのはお父様と話すアドリアン様の姿だった。


「……アドリアン様が、時が戻る鍵か何か……なのかしら」


 それはなぜ? と聞かれても、答えられるものではない。

 でも、今の段階で共通するのは彼だけだ。

 一度目こそ触れてはいないものの、あとは全て、アドリアン様と接触がある時点に戻されている。


「……この仮説が正しいのなら、今後はなるべくアドリアン様と接触した方が良さそうですわね」


 これ以上、死に戻りなどしたくないけれど。もし戻るとしても、二ヶ月も前に戻されるなど、止めて頂きたい。

 であれば、今後は積極的にアドリアン様と接触する機会を持つ必要がある。


「……ですがその前に、例の子どもですわね」


 その件をはっきりとさせてから、全ては進むというもの。

 この時期はアドリアン様も慌ただしかったはずだし、今はルミナの報告待ちですわね……。


「……とにかく、外出には気をつけなければいけないわ……」


 呟いた言葉は、静かに部屋に溶けていった。


 それから数日後ーー


「もう見つかったんですの?」


 ルミナがお相手の女性についての報告をしてきた。


「はい。レティシア様がくださった情報が細かかったですし、人の出入りの多いお店の女性だったので」


 その調べによると、お相手の女性ーーエリーさんは、その地区でも人気のあるパン屋の店主夫人とのこと。


「ご結婚、されていたのね……」

「はい。5歳になる男の子もいます」

「……なんですって?」


 やや身体が弱いものの、夫婦の間には男の子がいる。


 ……繰り返しのなかでルミナは確か、実年齢より小さく見える子がいると言っていましたわね。


「その子以外の子どもはいまして?」

「いません。一人だけです」


 ……であれば、前回アドリアン様の子と言っていた子は、今のご主人との子と言うこと。その考えに至った時、……安堵した自分が少し嫌になった。


 あの方の家族が増えないことに、ほっとしてしまうだなんて……。そんなわたくしが同志だなんて、我ながら滑稽ですわ……。


「本当に、幸せそうで、働き者な感じの方でしたよ。ただ、一つだけ懸念があるとすれば、この男の子の身体が弱いという部分でしょうか」


 繰り返しの中で確か、病気の子どもの薬代が払えずアドリアン様を頼ってきたという話でしたわね……。お金に困った苦肉の策でということなのかしら? そうだとしても、アドリアン様があの様に狼狽えるほどのお相手ですし、何もなかったわけではないのではなくて? それとも、あの出来事も黒幕が仕掛けた物の一つ、なのかしら……。


「そのお店に、行ってみたいのだけれど」

「レティシア様がですか? それは構いませんが……庶民向けのパン屋ですよ?」


 上位貴族のわたくしが、そんなパン屋になんの用だとでも言わんばかりに、ルミナは片眉をあげて聞いてきた。


 ルミナの気持ちもわからないわけではないけれど。アドリアン様のお子ではないのに、そうだと言った正確な理由は今はもうわからないかもしれないわ。それでも、なぜそんなことが起こってしまったのか推測はできるのではないかしら。


「あら。わたくしも庶民向けの人気のパン屋に興味がありましてよ?」


 どこか訝しんでいるようではあるものの、ルミナは準備すると言い、部屋を出た。


 ……ルミナの話からわかるのは、その子どもはアドリアン様のお子ではないということ。ならばなぜ、エリーさんは二ヶ月後、マルクス伯爵家を訪ねてきたのかしら。それもアドリアン様の子と偽ってまで……。


「そこはきちんと確認しなければいけませんわ」


 お金に困ったゆえに、その手段を取ったのか。それとも別の誰かに唆されたのか……。

 二ヶ月前の今の段階では明確な答えは出ないかもしれない。それでも、芽のうちに摘み取れるならば、その方がいい。どうやって摘み取れるかまでは、まだわからないけれど。

 今できることをやらなければいけない。


「……またいつ、戻されるかわかりませんからね……」


 その言葉の直後、外出の準備ができたと言うルミナと共に、エリーさんのいるパン屋へと向かった。

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