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ここは地獄の一丁目  作者: 川合 佑樹


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第35話

 ダンジョン第四層。

 エイリはモンスターを相手に戦っていた。

 その手には新調された黒い長剣を握っていた。

 ベルがマモギルドから徴収した新たなる武器――『ヴァーテ』

 魔力を込めると炎を纏う宝剣だった。

 エイリは敵を切る瞬間に炎を纏わせて攻撃した。

 魔力量に応じて瞬間的に温度が上昇し、鉄を切り裂き地面をガラス化させるほどの威力があった。

 エイリが巨大蜘蛛を一閃で両断し、地面がジュッと音を立てて溶けるのを見て、思わず口元を緩めた。

「すげぇなこの武器……。ベル様どこから持ってきたんだ」

 トリエが斧槍を肩に担ぎながら、呆れたように笑う。

「さぁな。だが良い剣だ。今後エイリの身をしっかり守ってくれそうだな」

 セツがエイリの背中にぴょんと飛び乗り、首に腕を回して頬をすり寄せる。

「いいなぁ。私も新しい武器欲しいな」

 トリエがため息をつきながらも、優しくセツの頭を撫でる。

「そうだな。今度おねだりしてみるか」

 セツが目を輝かせて拳を握る。

「するする!」

 三人は笑いながら第四層を巡回したのちギルドへと戻った。

 するとそこにはベルの姿があった。

 ベルが両手を広げて飛び跳ねながら出迎える。

「温泉に行くぞぉー!」

 トリエが盛大にずっこけた。

「えっ、またですか!?」

 セツが両手を上げて飛び跳ねる。

「やったぁ!」

 エイリが首を傾げた。

「なんでまた」

 ベルが得意げに封筒をバサバサ振る。

「マモギルドからお詫びの品としてもらったのじゃ。ほらエイリにあらぬ疑いをかけた慰謝料みたいなものじゃよ」

 エイリが苦笑い。

「はぁ。そうなんですね」

 ベルがエイリの背中をバンバン叩く。

「なんと、みんなで招待されておるからのう! さぁ支度せい!」

 ベルたちはまたトンテへと向かう。

 するとそこにはまたフェルが笑顔で待っており、その横に見慣れた顔があった。

 トリエが目を丸くする。

「アラ! お前も招待されたのか?」

 アラが複雑そうな顔をした。

 フェルが豪快に笑いながらアラの肩を抱く。

「やぁやぁ! また来てくれたね、嬉しいよ! 彼女は本日付でフェルギルドに移籍になったアラちゃんだよ! って君たちは知ってるか! はっはっは!」

 トリエが一瞬言葉を失い、拳をぎゅっと握る。

「アラ、お前……いいのか? 塔の……」

 アラが静かに首を振った。

「安心して。ここでも冒険者はできるから」

「……そうか」

 フェルが二人を見て、にこやかに手を叩く。

「まぁまぁ、お話はお湯につかりながらでもどうぞ! 本日も貸し切りにしておりますので! アラちゃんも今日は非番で良いから裸の付き合いを楽しんでおいでっ」

 アラが慌てて手を振る。

「えっしかし」

 フェルが背中をドンと押す。

「ほらほら、みんなを案内して!」

 一行はアラに連れられ部屋へと向かう。

 以前よりさらに豪華な部屋に通され、すぐさま温泉へと案内された。

 エイリが慣れた手つきでささっと温泉に浸かり、大きく息を吐く。

「あぁ最高だ」

 トリエがエイリの横に入る。

「あー、きもっちいい」

 ベルが叫びながら豪快に飛び込み、湯が盛大に波立つ。

「わーっほーい!」

 セツも叫んでダイブし、湯しぶきをエイリたちに浴びせた。

「キャー! 気持ちいい!」

 トリエとエイリはそれを見て笑った。

 トリエが湯をすくいながら呟く。

「楽しそうだな」

 エイリが頷く。

「あぁ」

 アラが湯船の縁に腰を下ろし、音を立てないようそっとトリエの隣に滑り込んだ。

「あなたのおかげよ、エイリ」

 エイリがびっくりして身を固くする。

「アラ……さん」

 アラがくすりと笑い、湯の中で膝を軽く寄せる。

「ふふ。アラで良いわよ英雄さん」

 エイリが顔を赤くして俯く。

「英雄だなんて……」

 トリエがエイリを見ながら、湯の中で肘を軽く突く。

「レベル六同等のモンスター、少なくともレベル五が二人掛かりでも倒せなかった奴を倒したんだ。誇っていいんだぜ」

 エイリが首を振る。

「あれは……レヴィギルドの助けもあったから」

 トリエがエイリの頭を軽く小突く。

「はっ冒険者はとどめを刺した奴が勝者だぜ! 誇れよエイリ」

 エイリが照れ臭そうに笑う。

「……おっす」

 アラが口もとに手の甲を当て笑い出す。

「ふふふふふ」

 アラが優雅に笑いながら続ける。

「トリエったら。本当にこの子のことが好きなのね」

 トリエがガバッと顔まで湯に沈める。

「えっ。いやそりゃ……そうだけどよ」

 ブクブクブク……

 アラが湯の中で体を軽く傾け、エイリに顔を寄せた。

「エイリ、冒険者である以上、成果と名声は受け入れなさい。これからはあなたに憧れて冒険者を目指す者も出てくるわ。その先頭に立つ者がふらついていてはダメよ」

 エイリは唇を引き結び、静かに頷いた。  

「……アラ……わかった。レベル六を倒した冒険者として、これからも頑張るよ」

 トリエが湯から顔を出し、ジトッとした目でエイリを見る。

「アラの言うことは素直に聞くんだなぁ、エイリ」

 エイリが慌てて手を振る。

「えっいやそうじゃなくて」

 アラがさらに笑いながら言う。

「ふふふふ。それで……トリエはどうするの?」

 トリエが一瞬、体を強張らせた。

 次の瞬間、柔らかな瞳でエイリを見据える。

 ベルとセツにもそっと目をやり、最後に眼前にそびえる塔を仰ぎ見た。

「塔を制覇する」

 アラが静かに微笑み、優しい声で呟いた。  

「……戻ってくるのね」

 トリエは湯面に指を滑らせ、波紋を広げながら頷く。

「あぁ。ずいぶんと鈍ってたからな。またこんなことがあったら次は……」

 エイリが小さく、でもはっきりと呟いた。

「……トリエ」

 トリエがエイリの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「だが、もうちょっとエイリを育ててからだな! エイリと四十層くらいまで潜ったら、たまに塔に潜りに行くよ」

 アラが目を細めて微笑む。

「ふふ。あなたらしいわね」

 トリエが笑みを浮かべた。

「その時はまた一緒に潜ってくれるか、アラ」

 アラが双剣を構える仕草をした。

「ついてこれるのならね」

 トリエが湯の中で腕を組み、わざとらしくため息をついた。

「やれやれ、これだからパトロン持ちは嫌なんだよな」

 エイリが突然首を傾げた。

「なぁ……二人は一緒に塔に登ってたのか?」

 トリエがハッとして、湯の中で手を叩く。

「……あれ? 言ってなかったか」

 エイリがきょとんとした顔をする。

 トリエがアラに親指でさして言う。

「アラは以前、ベルギルドのメンバーだったんだぞ?」

 エイリが目を丸くして、湯の中で立ち上がる。

「えええええええええー!?」

 エイリの叫び声が、温泉街の夜空に高く響き渡った――。


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