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ここは地獄の一丁目  作者: 川合 佑樹


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第22話

 翌朝、ダンジョン入り口にメンバーが集まった。

 陽光がまだ柔らかく差し込む中、石畳の広場に集まった面々は、それぞれの装備を背負い、朝霧に包まれたダンジョンの門を睨み据えていた。

 エイリは金属鎧の重みを肩に感じながら、周囲を見渡す。

 トリエは長剣を腰に差したまま、セツは無表情にエイリの隣に寄り添っていた。

 アラは二刀を背負い、静かに立っていた。

 その傍らに、巨漢の男ガレスが盾を地面に立てかけ、僧侶の女性メリコが祈りの仕草でローブの袖を直す。

 そして、大会で見たレヴィギルドの同じ黒装束を身にまとった三人組が、無言で並んでいた。

 アラが皆を見回し、静かに口を開く。

「よし、全員揃ったな。まずは簡単な自己紹介だ。今回リーダーを務めるマモギルドのアラだ。よろしく」

 トリエが即座に続き、赤髪を軽く払う。

「サブリーダーのトリエだ。私とこいつらはベルギルド。よろしくな」

 エイリは一歩前に出て、短く頷きながら声を出す。

「エイリだ。よろしく」

 セツは淡々と、表情を変えずに一言。

「セツだ」

 ガレスが巨体を揺らし、盾を軽く叩いて笑う。

「エルギルドから来たガレスだ。盾役を務める。レベル五の二人とダンジョンダイブなんて楽しみだ。よろしく頼む」

 メリコが穏やかな笑みを浮かべ、ローブの裾を直す。

「ルゼギルドから来ましたメリコです。回復を担当します」

 トリエが三人組に目をやる。

「お前らは?」

 同じ黒装束に身を包んだ三人が、ぴたりと声を揃えた。

「「「レヴィギルド所属。我々に個体識別は用意されていない」」」

 トリエは鼻で笑い、右から順に人差し指を突きつける。

「そうか。じゃあ右からイチ、フタ、サンでいいな?」

 三人がまた寸分違わず重なった。

「「「好きに呼んでもらって構わない」」」

 その機械的な応答に、場が一瞬凍る。

 アラが小さく咳払いをして、皆の目を集めた。

「よし、自己紹介は終わったな。今日は十層まで潜るが、まだ到達していない者はいるか?」

 エイリだけが手を挙げる。

 ガレスが巨体を傾け、目を丸くする。

「おいおい、まじかよ。十層未到達がいるのか?」

 トリエが即座に割り込み、ガレスを睨む。

「何かあっても私が面倒見る。たとえ死んでもな」

 アラが皆を制し、静かに続ける。

「今日はボス討伐を目的としていない。探索メインだ。収集物に関しては好きにしろ。質問はあるか?」

 メリコが手を挙げる。

「もし冒険者狩りを見つけた場合は殺すのでしょうか?」

 アラが淡々と答える。

「今回は捕獲じゃない。そういうことだ」

 全員が小さく頷く。

 アラが門を指差す。

「では潜る」


 ダンジョンは層を重ねるごとに広くなる性質がある。

 第一層、第二層、第三層は各自散開し、クリアリングを終わらせ、第四層へたどり着く。

 アラが皆を止めて、低く指示を出す。

「ここからは固まって行動する。冒険者狩りは五層から出てる。気を抜くな」

 各々が武器を抜き、移動を始める。

 アラが先頭で二刀を低く構えながら足音を殺して進み、石畳の微かな反響を耳に留める。

 その後ろをイチ、フタ、サンが続き、黒装束の裾が影のように揺れ、息を潜めて周囲の気配を探る。

 ガレスがメリコを守る形で並び、巨盾を構えて足を踏みしめ、僧侶のローブを風から守るように体を寄せる。

 エイリとトリエとセツが一番後ろを警戒し、エイリは剣を抜いて視界の端を鋭く見据え、トリエは長剣の柄を握りしめ、セツは拳を軽く構えて湿った空気の変化を感じ取る。

 通路を進むと、狼型のモンスターが低く唸りながら飛び出してきた。

 アラが即座に二刀を閃かせ、一匹の首を刎ねる。

 刃が空気を切り裂く鋭い音が響き、鮮血が噴き上がる。

 イチ、フタ、サンが素早く動き、イチが斧で腹を裂き、フタが短剣で脚を刎ね、サンが魔法で焼き払う。

 狼の体が痙攣し、床に崩れ落ちる。

 トリエがエイリに耳打ちする。

「エイリ。あいつらの戦いを見ておくんだ。連携の仕方、敵の動きの予測……全部盗め」

 エイリが頷く。

 その声に、すぐ前を歩いていたメリコが足を止め、振り返ってくすりと笑った。

「お二人、本当に仲良いですよねぇ」

 トリエの頰がぱっと赤く染まり、エイリも慌てて横に顔を逸らす。

 メリコはもう一度小さく笑って、また前を向く。と、その瞬間。

 狼の群れが、一斉に飛び出してきた。

 アラが先陣を切り、二刀の弧が風を巻いて二匹を同時に裂き、イチ、フタ、サンが連携し、二匹を仕留める。

 合間を縫って襲ってきた狼をガレスが盾で弾き返す。

 それをエイリが盾で怯ませ、セツが拳を叩き込んで頭を砕き、トリエが長剣で首を薙ぎ払う。

 血の臭いが鼻を突き、床に体液が溜まる中、皆の息遣いが重なる。


 そして第五層。

 そこは暗く巨大な洞窟のような作りとなっており、大きな川が流れていた。

 エイリが目を細め、川の流れを見つめる。

「ダンジョンの中に川があるのか」

 ガレスが巨体を揺らし、エイリの肩を軽く叩く。

「おお、坊主。第五層は初か?」

 エイリは剣を半分抜き、鞘の中で刃を鳴らしてから押し戻した。

「あぁ……だが足を引っ張るつもりはない」

 ガレスが笑い、壁を指差す。

「まぁ気を張るな。足元をすくわれるぞ。ここからは川もあれば砂漠もある。時折形を変えることもな。だが壁を見てみろ。こうして俺達が次の奴の為に導線を残置しておくんだ。それが次の冒険者へと繋がる」

 エイリは回りを見渡す。

 辺り一帯の壁に金具が埋め込まれ、一部にはワイヤーロープが張られていた。

「冒険者は孤独に見えるが、誰かのおかげで成り立ってる。精一杯甘えて命を繋げ。それができりゃレベルなんぞ関係ねぇ、立派な冒険者だ」

 エイリが小さく息を吐く。

「……ありがとう」

 アラがメンバーに号令をかける。

「第五層以降は笛で連絡。三班に分かれて探索。異常や冒険者狩りを見つけたら即座に笛を吹け。それと──川は絶対に下るな」

 トリエがエイリとセツに耳打ちをする。

「川を下ると一気に十層まで落ちる。モンスターのステータスが跳ね上がる。初心者は大抵それで死ぬ」

 アラが皆を振り分ける。

「それでは班だが、私とレヴィギルドの三人は右周りに、トリエを含めたベルギルドは左回りに巡回する。ガレスとメリコはここで待機し、探索班が接敵し追い込みをかける際には挟み撃ちの護衛に入ってくれ。各自気を抜くな」

 全員が頷くと、探索が始まった。


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