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店内は、サラリーマンの笑い声と店員さんのかけ声で騒がしい。
リーダーに連れてきてもらった居酒屋は、創作料理のお店だった。
地味な店構えだけど、その雰囲気に合わせたセンスのいい内装の店内はお客さんでいっぱい。
カウンターに座り、リーダーの「お疲れー」という声で乾杯をした私たち。
「こんなお店が駅裏にあったんですね。
私、今まで知りませんでした」
「小さい店だからなぁ。
でも、なかなかうまいんだよ」
「リーダーって、美味しいお店に詳しいんですね」
このあいだ連れて行ってもらった料亭といい、ここといい、会社の近くにこんなお店があるなんて、ずっとうちの支店にいる社員でも知らないんじゃないかな。
最近支店に来たばかりなのに、どうしてリーダーは知っているんだろう。
少し疑問に思いながら言うと、彼はおしぼりで手を拭きながら答えた。
「まあ、仕事上、どうしても知っておかなきゃならないからな」
リーダーは、仕事ができるだけじゃなく、優しそうで、華があるイケメンで……だけど、こうやって居酒屋で話している姿は、三十歳前のごく普通の男の人だ。
そのギャップに、不思議な気持ちになった。
「そういえば、彼氏とは仲直りしたか?」
リーダーの言葉に、私はお通しのサラダに伸ばそうとした手を止めた。
「あの、それがですね……」
家族以外、まだ誰にも話していなかったけど、なぜだか聞いてほしくなった。
昼間は、ちーちゃんにすら話す気力がなかったのに、私は、光太とのことを打ち明けた。
リーダーは、しばらく黙って聞いてくれていた。
「そうか……そんなことがあったんだな。
つらかったな」
「はい。
まだ、立ち直れなくて……」
「それは当たり前だよ。
結婚を決めたくらい、好きな男だったんだもんな?」
「ええ。
本当に……」
小さく頷いた私の肩にリーダーが手を置き、そして、こう言ってくれた。
「落ち込みたいときは、落ち込め」
「でも、そのせいでミスをしてしまって……」
本当にとんでもないことをしてしまった。
ああもう、私って、気持ちをセーブできずに後先考えず突っ走るし、ドジだし、どうしようもない。
一気に自己嫌悪モードになる私に、リーダーは苦笑いしながら言う。
「まあ、そうだなぁ。
だけど、さっきも言ったように、二度としなければいいよ」
その言葉に、肩の力が抜けた気がした。
私もようやく、ふっと笑みを零す。
「高城リーダーって、もっと堅苦しい人だと思っていました」
「オレは、香川を根性のない女だろうと思ってた」
「ええー!
それ、ひどくないですか?」
少しムッとした顔をする私を見て、笑いだすリーダー。
「でも、さっき土下座するお前を見て、それは違うなって思ったよ」
「ふふ……私も、こうやって話をして、違うんだって思いました」
「お前みたいなヤツ、初めてだよ。
子供みたいに無邪気で、一生懸命で……一緒に仕事ができてよかったと思ってる」
ひとりごちるように言う彼の視線は、あたたかかった。
間近で見ると、リーダーって本当に整った顔をしている。
ついつい、じっくり見入ってしまう。
その甘いマスクにこそ、なんだか酔ってしまいそう……。
「よし!
飲もう!」
「はい!」




