10
久しぶりのお酒だったことに加え、光太のことでヤケになった気持ちと、少しだけ笑うことができた嬉しさで、私はすっかり酔っぱらっていた。
「香川、そろそろ帰るか?
だいぶ遅くなったし」
「えー?
もうですかぁ?」
嫌だなぁ。
ひとりになりたくない。
「だけどお前、家の人が心配するだろ?」
「私、ひとり暮らしなんで、大丈夫です……」
だから、帰りたくない。
ひとりになったら、また思い出しちゃう。
光太のことを。
「……リーダー、私、帰りたくない……」
「え?」
自分でも、とんでもないことを言っていると思う。
だけど、リーダーは光太との話を、今まで聞いてくれて、励ましてくれた。
だからかもしれない。
もっと一緒にいてほしい、と彼に甘えたくなったのは。
本当はいけないってわかっているけど、止められない。
「帰りたくないって言われてもなぁ……」
リーダーが、珍しく困っている。
当たり前か。
それにしても、あれだけ飲んで、なんでまったく酔わないんだろ。
私なんて、もうフラフラなのに。
「ダメですか、リーダー。
私、ひとりになりたくないんです」
やっぱり無理か。
そもそも、こんなことを言っている私が間違っているんだし。
諦めかけて落ち込んだとき、リーダーから意外な返事をもらった。
「……わかった。
じゃあ、オレの家へ来いよ」
「えっ!?
いいんですか?」
「いいよ。
タクシー、捕まえよう」
わがままを受け入れてもらえたことに、朦朧とする意識の中で、驚きと申し訳なさと感謝の気持ちが混じる。
リーダーは、足元がおぼつかない私の肩を抱いてくれた。
こういうスマートさから、女性に慣れている感じがする。
もしいるなら、私はその人に対してひどいことをしようとしている。
そんなこと考えていたら、光太のことが頭をかすめて切なくなった。
あの子は光太と会っていたとき、私のことを考えたりしたんだろうか。
「ほら、降りるぞ?」
「なんで、ここで降りるんですか?」
タクシーに乗って数十分後。
よくわからないうちに着いた場所は、超がつくほどの高級マンションの前だった。
いったい、何階まであるのかわからない。
エントランスはまるでホテルのようで、本当に間違える人がいるんじゃないかってくらい上品な造りだ。
まわりの植え込みも、センスよく整えられている。
「なんでって、ここがオレの家だから。
ほら行くぞ」
こともなげに言うリーダーに、私の目が点になる。
ここが、リーダーの家……!?
それだけでもびっくりなのに、さらに驚くことに、リーダーの部屋は最上階にあった。
彼の部屋のドアしかないところを見ると、ワンフロア全部を占めているらしい。
すっかり気圧されながらも部屋にあがらせてもらうと、広々としたリビングが真っ先に目に飛び込んできた。
家具はモノトーンで統一されていて、都会的な雰囲気。
そして、私の住んでいる家よりも、ここのリビングのほうがはるかに広いのだ。
その上、リビングの窓からは、街の景色が一望できて、すごくロマンチック……。
こんなところまでホテルのスイートルームのようで、私は夢見心地でぼんやりと見とれてしまう。
「シャワー浴びるか?
必要なものはたぶんひと通り、揃ってるから」
え?
必要なものが揃っている?
どういうことか聞いてみたい気もしたけれど、驚きっぱなしの私は、頷くことしかできなかった。
そして連れていかれたバスルームは、これまたわが家のお風呂の二倍以上はありそうで、私はまた目を丸くした。
「勝手に使っていいから」
「は、はい……ありがとうございます」
面食らいながら洗面台を見渡すと、クレンジングや化粧水などが置いてある。
やっぱり、彼女いるんだ。
そりゃ、そうよね。
イケメンで仕事もできて。
その上、どうやらお金持ちっぽいし。
モテるに決まっている。
さらによく見ると、メイク道具まである。
私なんかを連れてきて、大丈夫だったのかな?
考えはじめると、もう酔いが醒めそうだ。
「ちょっと、タバコ吸ってくる」
そう言って、リーダーはベランダに出る。
その瞬間、私は、なんだかひとりぼっちで取り残されたような気がして、彼のあとを追ってしまった。
「……寂しいです、リーダー。
一瞬でも、ひとりにしないでください」
衝動的に、私は彼に後ろから抱きついていた。
今夜の私は、どうかしている。
お酒のせい?
それとも、現実離れしたこの部屋のせい?
リーダーって、見た目よりがっしりしているんだ。
そんなことを思いながら、背中に顔をくっつけて、私は言った。
「リーダー……お願い。
私のそばにいて……」
「どうしたんだよ?
普段は、嫌そうな目でオレのこと見てるくせに」
当たり前だけど、リーダーはびっくりした表情になって、肩越しに私のほうを見ながら言った。
それでも私は、自分の口から感情が溢れ出してしまうのを止められない。
「今は違います。
今までは、リーダーのことをよく知らなかったから」
すると、彼はタバコの火を消して、私のほうを振り返った。
「寒いだろ?
早く部屋に入ろう」
「寒くなんてないです。
……リーダーが抱き締めてくれたら、寒くない」
本当に、私は何を言っているんだろう。
この状況に、雰囲気に、酔っているんだろうか。
頭の片隅ではそう思っているのに、止められない。
そして、そんな私を、彼は拒否しなかった。
「……いいよ。
お前がそれでいいなら」
大きくてあたたかいリーダーの腕が、私を優しく包み込む。
私は光太以外の男の人の温もりに、すっかり安心して身を任せていたのだった。




