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「妊娠?
えっ?
どういうこと!?」
光太の口から出た言葉に面食らってしまう。
それって、光太と関係あることなの?
「相手って、このあいだの子のこと?
だって、一週間前のことじゃない。
妊娠したってどういう意味?」
「ごめん。
本当は、もっと前から……」
光太はそれ以上言葉が続かないようで、表情を歪めている。
「……もっと前から、関係を持っていたってこと?」
光太が小さく頷いたのを見た瞬間、目の前が真っ暗になった。
気がつくと、私は光太の肩を、バシッと叩いていた。
「……なんで?」
信じられない。
あんなに好きだったのに、好きだと言ってくれていたのに、本当はずっと私のことを裏切ってたの?
「なんでなのよ!
なんで浮気してたの!?」
叫び声をあげる私の目からは、涙がポロポロと落ちる。
ひどいよ。
戻れるなら、初めてキスをしたあの夜に戻りたい。
そして、もう一度やり直したい。
光太は私に、何か不満があったの?
わからないよ。
全然、光太の気持ちがわからない。
「ごめん。
本当にごめん」
震える声で光太はひたすら謝るけど、私は受け止められない。
「私、光太との幸せな未来を、ずっと思い描いてたのに」
ひどいとか、最低とか、そんな言葉だけじゃ足りない。
もし責めることで状況が変わるのなら、いくらでも責めてしまいたい気持ちに駆られる。
「ごめん、梓。
本当に申し訳ないけど……。
お前とは結婚できない」
その言葉に、私の中で何かが崩れ落ちた。
「もう、どうしようもないの?
光太は、その子と結婚するってこと?」
「うん。
責任をとらないわけにはいかないよ」
光太の赤ちゃんを産むの?
四年間、光太を愛してきた私じゃなくて、あの子が?
そんな現実を、どうやって受け入れろっていうのよ。
私は止まらない涙を、拭うことさえできなかった。
「もういい。
光太なんて……最悪」
これ以上、どうにもならないのなら、『ごめん』なんて言葉は聞きたくない。
私は、自分の左手薬指に触れた。
よかった。
偶然でも、今日、婚約指輪をはめてきて。
これは、私の好きなブランドで、私の好きなハートのモチーフがついたものだった。
この指輪をもらったときはうれしくて泣いたのに。
悲しくて泣きながらこれを外すときが来るなんて、想像もしていなかった。
それも、この場所で……。
「これ、返す」
本当は投げつけたいくらいだけど、この期におよんでそれすらできないほど、私は今も、光太が好き。
心のどこかで、まだ望みを持とうとしていた。
だけど差し出した指輪を、光太はゆっくりと受け取った。
「梓、本当にごめん。
お前のことが好きだったのは、嘘じゃないんだ」
「もういいよ。
そんなの、今さら意味のない話だから」
「ごめん。
ほんの出来心で始めた浮気が、ずっとやめられなかった……」
「もういいって言ってるでしょ!
知りたくもないのよ!」
最後の私の抵抗。
言い訳なんて女々しいことは、させないから。
それから三日後、私たちは正式に婚約を破棄した。
結納金も返した私に、家族は慰謝料を請求すべきだなんて言ったけど。
でも、やっぱり憎みきれない。
すごく、すごく好きだから。
だから、せめてきっぱりと終わらせたかった。
それに、お金で解決しただなんて、光太たちに思わせたくなかったから。




