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私の彼は御曹司  作者: アルケミスト


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6/38

「ありがとうございました」


 食事が終わると、仲居さんが伝票を持ってきた。


 ちらっと見えた数字に仰天した私は、慌ててリーダーにお金を差し出す。


「待ってください

 自分の分は、自分で払います」


「いいよ。

 オレのおごり。

 誘ったのもオレだし」


 リーダーは、そう言いながら慣れた感じでさっさと支払いを済ませてしまった。


 あんなに高かったのに!


「ええっ……!

 本当に、い、いいんですか?」


 さすがにあの金額をさらっと「おごる」と言われて、あっさり引き下がれるほど私は図々しくない。


 おずおずと問いかける私に、彼はきっぱりと答えた。


「いいって。

 早くしまえよ、それ」


「……はい。

 ありがとうございます。

 ごちそうさまでした」


 それ以上強くは言えず、仕方なく財布をバッグにしまいながらお礼を言うと、リーダーが答える。


「こちらこそ。

 つき合ってくれて、ありがとな」


 そう言って笑う顔に、またまた胸がキュンとしてしまった。


 リーダーってきっと、すごくモテるんだろうな。


 見た目だけじゃなく、実は人間的にも素敵な人なのかも。


 リーダーを見る目が少しだけ変わった。


 本当に、ほんの少しだけ。




「お先に失礼します!」

 

 終業時間となり、バタバタと仕事を切り上げると、私はコートとバッグを抱えて、大慌てでオフィスをあとにした。


「そんなに急いで、何かあったのか?」


 エレベーターに向かう途中の廊下で会ったリーダーに、声をかけられる。


 私は抑えきれない笑顔を彼に向けながら答えた。


「さっき、彼からメールが来たんです!

 それで、今から会うことになって……」


「本当か?

 よかったな。

 じゃあ、気をつけて帰れよ」


「はい!

 それじゃ、失礼します」


 お昼にリーダーに話をしたおかげで、前向きな気持ちになれたみたい。


 光太のことは信じていたけど、まったく連絡がとれなかったから、正直不安だった。


 でも、きっともう大丈夫だ。


 このあいだのことだって、ちゃんと説明してくれるはず。


 私は、自分にそう言い聞かせた。


 夜になると、外はますます寒くなっていて、思わず肩をすくめる。


 私は会社の最寄り駅の前で、光太の車を待った。


 それにしても、なんで今日は外で待ち合わせなんだろう。


 あんなことがあったから、家に呼ぶのはやっぱり気が引けるのかな。


 十分ほど経って、光太の車がやってきた。


 黒のスポーツカーは、彼のお気に入り。


 でも結婚を機に、ファミリーカーに買い替えるって言ってくれているんだよね。


 この車には、もう乗れなくなるんだなぁなんて思いながら、いつものように助手席のドアを開ける。


「光太。

 一週間ぶりだね」


 あの夜の記憶がまた蘇って、一瞬気持ちが暗くなる。


 でも、光太のほうから連絡をくれた喜びのほうが今は大きい。


「ああ、そうだな」


 嬉しさを抑える私とは違って、光太は少し顔色が悪い。


「家に行かないの?」


「う、うん。

 ちょっと走ろう」


 光太が車を走らせる。


 街の中心部を抜け、十五分ほど経った頃には海が見えてきた。


 夏には海水浴客で賑わうこの海岸沿い。


 私たちも今年の夏に泳ぎに来たっけ。


 海岸通りを過ぎ、車は走り続けた。


 その間も、光太はまったく口を開かず、思い詰めた表情をしている。


 しびれを切らした私は、沈黙を破った。


「光太このあいだのこと、説明してくれるでしょ?」


 そう聞いても、返事はない。


 もどかしさを感じながら、私もまた黙ってしまった。


 さらにしばらく走ると、車は、光太がマフラーを貸してくれて、私たちが初めてのキスをした場所へと着いた。


 ここは人気がなく、少し遠くに見える大きな橋のライトアップがロマンチックな、夜景の穴場だった。


 あの頃から変わらない、懐かしい光景。


 私たちにとっては特別に、思い出深い場所だ。


 そこに着いたというのに、光太は車から降りない。


 それどころかいきなり頭を下げてきた。


「梓、ごめん!」


 やっぱり謝ってくれる気だったんだ。


 幾分ホッとしながら、私は答える。


「いいよもう。

 あれは、あのとき限りのことだったんでしょ?

 わかってる。

 大丈夫だよ。

 私は気にしないから」


「そうじゃないんだ」


 光太は、視線を地面に落としたままだ。


「そうじゃないって?」


 彼の言うことが理解できず、私は聞き返す。


 すると、光太はゆっくりと頭を上げながら、私の顔を見て、覚悟を決めたように言った。


「相手が妊娠したんだ」


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