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「ねえ、ちーちゃん。
あのリーダー、なんか感じ悪くない?」
「そう?
しっかりしてそうで、好きだけど」
「……へえー、そう……」
仕事大好き人間のちーちゃんに聞いたのが間違いだった。
赴任初日だというのに、リーダーはにこりとも笑わないし、誰も寄せつけないような冷たい空気を醸し出していた。
今は、フロア全体を見渡せる場所に置かれたデスクで、黙々と書類に目を通している。
あの雰囲気、好きになんて、とてもなれそうにない。
でもまあ、いいや。
私はもう会社を辞めるわけだし、高城リーダーの下で働く期間も、そんなに長くないはず。
早いところ仕事を終わらせて、今日は光太に会いに行こう。
このまま連絡をとらない状態が続くと、自然消滅しちゃう気がして、不安で仕方がない。
光太だっていいかげんに、あの夜のことを謝ろうと思ってくれているだろうし。
彼から連絡をしにくいなら、こっちが行ってあげればいいんだ。
光太の口から、きちんと説明を聞きたい。
ちーちゃんにも、昼休憩で改めてちゃんと聞いてもらおう。
そう思っていたのに。
「私、昼休み返上。
仕事するわ」
と、あっさり言われてしまった。
まったく、ちーちゃんは真面目すぎ。
リーダーに触発されちゃったみたいで、やる気に溢れた目で、モニターを見つめている。
仕方なくコンビニでお昼を調達し、ひとり寂しく給湯室へ向かうと、そこには高城リーダーがいた。
手元を見ると、コーヒーを淹れているみたい。
「あっ……、お、お疲れさまです」
改めて近くで見ると、本当に美形でスタイルがいい。
足は長くて、腕にはほどよく筋肉がついているのがわかる。
インスタントコーヒーを淹れる姿すら、色気を感じさせて悔しいけど、見とれてしまいそうになる。
「ああ、お疲れ」
彼はこちらをちらっと見てそう言っただけで、また視線を手元に戻した。
やっぱり、ぶっきらぼうな言い方。
休憩中くらい、もう少し愛想よくできないのかな……。
だけど、こんな狭いところにふたりきりで黙っているのも気まずいし、何か話しかけてみるか……。
そんなことを考えて、私は口を開いた。
「あの、リーダーって、ここにいらっしゃる前は、どちらの部署にいらしたんですか?」
「え?」
すると、私の突然の質問に驚いたのか、彼は目を丸くしている。
何かいけないことを聞いちゃった?
当たり障りのない質問をしたつもりだったけれど、もしかして、余計なことだったのかも……。
「あ、いえ、なんでもないです。
変なこと聞いて、すみませんでした」
一応会話をしようとしただけで、そんなに興味があるわけでもないし。
そう思っていたはずが、リーダーの予想外の反応に焦ってしまったのか、カップ麺にお湯を入れようとした途端、手が震えてカップが滑り落ちそうになった。
「きゃ!」
「危ない!」
カップを取り落して、ポットから注ごうとしたお湯が手にかかりそうになったところを、リーダーはとっさに私の腕を掴んで自分のほうに引き寄せた。
「大丈夫か!?
ヤケドしなかったか!?」
「あ、だ、大丈夫です……。
ありがとうございます」
見上げると、至近距離に整った顔があり、一瞬ドキッとしてしまう。
そして今気づいたけど、この人、いい香りがする。
落ち着いた大人の、甘い香りだ。
って、私は何を考えているのよ。
そう冷静になって床を見ると、カップ麺の中身が零れていた。
お昼ご飯がなくなっちゃったとがっかりしていると、リーダーが言った。
「……お前の昼飯、カップ麺だけなのか?」
「い、いえ、いつもは江本さんとランチに行くんです。
でも今日は彼女、お昼ご飯いらないって言うから、これにしたんですけど……あーあ……」
私って、本当にトロいな……。
こんなんだから、ちーちゃんも呆れちゃうのかも。
しょんぼりとうなだれていると、リーダーが意外な台詞を口にした。
「ふぅん……。
じゃあ、一緒に飯でも行くか?
オレも今からだし」
「えっ!?」
リーダーと一緒にランチなんて、即答で拒否したいところなんだけど……。
「近くに、いい和食の店があるんだよ。
どうだ?」
「は、はい……」
思わず返事をしてしまっていた。
だって、このとき初めて、彼の笑った顔を見たから。
さっきまでの仏頂面から、打って変わって穏やかになったリーダーの表情に、つい引き込まれてしまったのだ。




