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私の彼は御曹司  作者: アルケミスト


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3/37

「寒ー!!」


 あたたかい会社を出ると、外は頬に突き刺さるような冷たい風が吹いていた。


「じゃあ、梓。

 お疲れさま。

 早く彼から連絡が来るといいね」


 そう言って手を振るちーちゃんに、小さく手を振り返しながら、私は言った。


「うん。

 ありがと、ちーちゃん。

 じゃあ、また明日ね」


 ちーちゃんを見送ると、私は、今日何度目かわからないため息をついた。


「いったい、いつまで連絡が来ないんだろ……」


 夜空を見上げても、星は見えない。


「光太、会いたいよ……」


 冬の夜空は、光太とつき合い始めた頃を思い出させる。


 今日みたいに寒い日、ふたりで夜景を見に行ったんだよね。


 あの頃は、とにかく光太に可愛いと思ってもらいたくて、薄着でもはやりの服を着て行った。


 くしゃみをした私を心配して、光太は自分のマフラーを私の首にかけてくれたっけ。


『本当に梓は、オレを心配させるようなことばかりするよな。

 寒いだろ?

 ちゃんとあったかい格好をしろよ』


 って言いながら。


 呆れながらも笑顔の光太は、私の手をそっと握ってくれた。


 そして、『もっとあったかくしてやるよ』と言って、キスをしてくれたのだった。


 私と光太の、初めてのキス……。


 あの優しさを、嘘だなんて思いたくない。


 過去のことになんてできない。


 そう思いながら、私は歩きだした。


 会いに行く勇気もないくせに、スマホだけは握り締めたままだ。


 いつ光太から電話がかかってきても、すぐに出られるように、期待も込めて。


 今日のこの空、光太も見ているのかな……?


 同じ空の下で繋がっているのに、遠くに感じてしまった。




 二日後。


 今日は、とうとうリーダーが赴任する日だ。


 噂によると、やっぱり相当厳しい人だとか。


「本社にいたって、うちの支店の様子くらいわかるだろうに、なんでわざわざ異動してくるんだろうね」


 ちーちゃんは、訝しげにそう言っていた。


 本社は、この支店から電車で十分の場所にあるのだ。


「よし、もうすぐいらっしゃるからな」


 始業時間が迫り、営業に行く前の男性陣も含めて、社員全員が立ち上がる。


 どれだけすごい人が来るっていうの?


 そこまでする必要があるわけ?


 心の中でボヤいていると、ちーちゃんもすっと席を立った。


 それにつられて、私もゆっくり立ち上がる。


 すると、私の左手を見たちーちゃんが、小声で話しかけてきた。


「ちょっと、梓。

 指輪なんて、どうしたの?」


「婚約指輪。

 つけてきたの」


「なんで?」


「リーダーにアピールよ。

 もうすぐ結婚するから辞めますって」


 私がそう言うとちーちゃんはため息をついて、前を向いた。


 呆れられちゃったかな。


 でも、これ以上忙しくなるのは困る。


 スパルタ指導をしたいならかまわないけど、私はもうすぐ辞めるんだから、頭数に入れないでよね。


 そんなことを考えていると、入口のドアが開いて、リーダーが入ってきた。


 その瞬間、支店内が小さくざわついた。


 女性社員は、私とちーちゃんだけなのに、男性社員が「すごいイケメンだぞ」「男前だなー」と口々に言うくらい、彼はカッコよかったのだ……。


「ちょっと、かなりのいい男じゃない?」


 普段はクールなちーちゃんも、さすがに興奮気味だ。


「う、うん。

 本当だね……」


 百八十センチはありそうな長身に、はっきりとした目鼻立ち。


 さらさらとした黒髪は、自然な感じでサイドに流している。


 オーラは冷たいのに、ルックスはかなり甘くて色っぽく見えるのは、眉はキリッと上がっているけれど目元が優しいからだと、まじまじと見て思った。


 上質そうなスーツがとても似合っていて、知的な雰囲気を漂わせている。


「高城リーダーだ」


「高城修弥です。

 今日から、よろしく」


 支店長が紹介するのを受けてそう言った少し低い声も、色気たっぷり。


 ただ、愛想はなく、ぶっきらぼうな言い方で、私はあまりいい印象を持てなかった。


 挨拶もそこそこに、「通常の業務に戻ってください」という高城リーダーの指示で、みんながそれぞれの席に戻る。


 見た目はいいけど、無愛想で冷たい感じの人……私の彼に対する第一印象は、そんな程度だった。


 隣のちーちゃんは、いつにもまして受発注処理が速い。


 それに比べて、私はいつにもまして、仕事がはかどっていなかった。


 こんなんじゃいけないと、心のどこかでは思っているのに。


 集中できない私は、つい、ちーちゃんに話しかけてしまう。


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