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「……と、まあ、そういうわけ」
本当はこうやって話すのも、気が重い。
だけど私の状況を理解してもらうには、ありのままを言うしかなかった。
「信じられない……。
で?
彼からは、その後連絡はあったの?」
ちーちゃんの顔は強張っている。
私の話に、相当驚いたようだ。
「なんにも。
今日まで連絡なし」
「え、なんにも!?
それ、かなりひどくない?」
「でも、あんな現場を見られたから、連絡しづらいのかもしれないし……」
だから、電話もメールもしてくれないんだよね?
あれは、ちょっと流されただけで、私と別れたいとか、そんなんじゃないって、私は信じている。
「はあ……私、このまま結婚できるのかな?」
「え?
そんなことがあったのに、まだ彼と結婚したいの!?」
ちーちゃんは、『信じられない』と言わんばかりに小さく首を横に振った。
「したいよ?
そりゃ、確かにびっくりしたし、ショックだった。
でも、一度浮気されたくらいで、簡単に気持ちが冷めるほど、私の光太への想いは軽くないの。
光太だって今頃反省してくれてるはずよ」
きっぱり言い切った私に、ちーちゃんは呆れた顔で言った。
「だって、最悪な裏切りをされたんだよ?」
「でも、出来心かもしれないじゃん!」
と、つい大声を張りあげてから、慌てて手で口を覆う。
「こらー、お前ら。
さっきから、なんか楽しそうだなぁ?」
恐る恐る声がするほうを振り向くと、そこには支店長が仁王立ちになっていた。
いつもは温厚な彼も、さすがに怒ったかな?
焦った私たちが、「す、すみません。支店長」「し、仕事しまーす」と、小さい声で言って、すぐにパソコン画面に向き直ると、支店長のため息が聞こえてきた。
「まあ、こうしていられるのも明後日までだからなぁ……」
支店長の言葉に、仕事に戻りかけた手が止まる。
明後日までって、何かあったっけ?
疑問に思っていると、ちーちゃんが素早く反応した。
「え?
明後日までって、どういうことですか?」
彼女はこういうとき、スパッと聞いてくれるから助かる。
「人事異動で、明後日から新しくリーダーが来るんだ」
「リーダー?……」
そんな役職、聞いたことがない。
本社でも、他の支店でもそんな人はいないはず。
いったい、いつの間に作られたんだろう……。
「リーダーって何か新しいチー厶でもできるんですか?」
支店長に次々と質問を投げるちーちゃん。
そして私はというと、正直会社のことなんかどうでもよくて、流し気味に聞いていた。
それよりも、音信不通の光太に会いたい。
こんなときでも、私の頭の中は光太でいっぱいだった。
「いや。
そういうわけじゃないらしい。
立場としては、オレより上なんだ」
「え?
支店長より上の方が来られるんですか!?」
「ああ。
オレに代わって、その人がこの支店をまとめていく形になる」
ということは、私たちもリーダーの下で働くことになるのか。
それって、直属の上司が変わるってことよね。
支店長のことは嫌いじゃなかったから、ちょっと残念だな。
支店長は仕事にガツガツした人じゃなくて、部下に対しても口うるさいことを言ったりしない。
のんびり働くことができたのは、彼のおかげだったから。
そう思うと少し寂しい気分になった。
だけど、どうしてそんなに上の人が来るんだろう?
と思っていると、ちーちゃんも同じことを考えたみたいで、また支店長に疑問をぶつけた。
「そんな方が、うちの支店に?
妙な話ですね」
「それも、まだ二十七歳らしいぞ。
前例のない話だし、相当なヤリ手だろうな。
オレもそれ以外は、何も知らないんだ。
詳しい話は、あとで聞いておくよ」
「うわあ、いやな感じ」
今まで黙ってふたりの話を聞いていたけど、思わず声が出てしまった。
そんなすごそうな人が上司になるなんて、考えただけで気が滅入る。
きっと厳しいに違いない。
しかも、二十七歳って、光太と同い年じゃない……。
支店長とちーちゃんが一瞬こちらを見る。
そしてすぐにちーちゃんが、新たな質問を切り出した。
「で?
どこの支店からいらっしゃるんですか?」
彼女の表情は引き締まっている。
キャリアアップを狙っているだけあって、私とは志が違う。
「支店じゃない。
本社からだ」
「本社ー!?」
さらなるショックに声をあげる私。
それは、いよいよヤバイかも。
まったりモードの支店と違って、エリート揃いの本社から赴任してくるんだ。
今までみたいに、緩い感じではやっていけなくなりそう。
私は仕事に、そこまで熱心にはなれない。
ああ、憂鬱……。
深くため息をついて、私はパソコンに向き直ったのだった。




