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そういう話があるならあるで、なんで言ってくれないの?
不安に包まれながらも、かすかな期待を込めて修弥からの連絡を待っていたのに、結局、何もない。
途方に暮れるとは、このことかも。
仕事帰り、街をフラフラと歩いていると、不意に懐かしい声が聞こえて、私は立ち止まった。
「梓?」
「こ、光太……?」
振り返ると、そこにはスーツ姿の私の元彼……光太が立っていた。
「久しぶりだな、梓」
「うん。
久しぶり……パーティー以来だね」
一度は結婚したいと思った人。
そして、私を裏切った人。
今は、別の女性と幸せを築いている人。
こうやって話すと、やっぱり緊張する。
「社長の彼と、結婚したのかよ?」
「ううん。
私は……」
通り過ぎる人の波の中で、私たちはぎこちなく向かい合った。
そして、私は光太に修弥とのことを話していた。
もう割り切った関係になっている相手だからこそ、さっきのショックをここで吐き出したかった。
「マジかよ……すごいな。
政略結婚とか、世界が違う感じがする」
「でしょ?
私の魔法ももう終わり。
シンデレラには、なれそうもないや。
光太は、ちゃんとパパしているの?」
問いかけた私を、光太は突然抱き締めた。
「光太!?
ちょっと、何するの……?」
一瞬、自分の身に何が起こったのかわからなかったけれど、久しぶりに感じる光太の体温に、私は一気に鼓動が高まるのを感じた。
「……実は、浮気相手の子供、オレの子じゃなかったんだ」
「え?
どういうこと?」
「最初から、もしかしたらオレの子供じゃないかもとは言われてた。
相手とはさんざん話し合って、それを確認して別れてたんだ」
そんな……。
そんなことってあるの?
「それで、生まれてから連絡をもらったんだけど、やっぱり血液型は合わなかった」
そう言って、光太は腕の力を強める。
「死ぬほど後悔してるんだ。
梓のことが、今でも忘れられない。
部屋も引っ越して、自分の中でけじめをつけた」
この状況のすべてに驚き、私は戸惑いを隠せない。
こんな街中で抱き締められたんじゃ、目立ってしょうがないのに、光太は私を離そうとしなかった。
「なあ、梓。
どんなに謝っても謝りきれないけど、もう一度チャンスが欲しい」
「チャンス……?」
「やり直してほしいんだ。
もう一度、結婚を前提として」
「えっ!?
そんな……」
すると、ようやく光太は私から身体を話し、自分の名刺の裏に何かを書いて、私に手渡してきた。
「これ、オレの今の番号。
梓からの返事、待ってるから」
「でも、私、修弥と……」
「彼氏、政略結婚するんだろ?
オレは、二度とお前を裏切らない。
彼ほどの金はないけど必ず梓を幸せにするから」




