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お風呂あがりにひとりでリラックスしていると、ふと修弥が書斎として使っている部屋が目に入る。
改めて覗くと、本棚には本がびっしり並んでいた。
ここから見るだけでも、語学の本がたくさんあるのがわかる。
「結婚かぁ……」
光太のときは、とにかく結婚したくて仕方がなかったけど、今はそんなふうには思わない。
なんでだろう。
そんなことを考えていたとき、ドアの開く音が聞こえた。
「修弥、おかえりなさい」
小走りで玄関に向かうと、疲れた顔の修弥がそこにいた。
「ただいま」
あれ?
いつもなら、どんなに疲れていても、笑顔は見せてくれるのに。
今夜の彼は、どこかそっけない。
「シャワー浴びて寝るから。
梓も早く寝ろよ」
「う、うん……」
なんだか、逆らえない雰囲気。
ここは素直に従ったほうがよさそう。
何かあったのかな?
寝たふりをしていると、しばらくして修弥が無言でベッドに入ってきた。
毎日が甘い夜じゃないけど、ふたりでいるときは、離れて眠ることはない。
いつだって修弥は、私を抱き締めて寝てくれる。
だけど今夜の彼は、私に背を向けて寝てしまった。
きっと仕事で何かあったのよ。
明日になれば、いつもの修弥に戻っているはず。
そう自分に言い聞かせて、私は眠りについたのだった。
「うん」
いい香りがする。
コーヒーの匂いだわ。
それも、上質な……。
「……ってことは……やだ!
寝坊じゃない!」
朝食後に、必ず修弥が飲むコーヒー。
その香りに慌てて起き上がると、スーツ姿の修弥が、ネクタイを締めているところだった。
スマホの時計を確認して、私はホッとする。
いつも起きる時間より一時間も早かった。
よかった、寝坊じゃなかった。
「あっ、梓。
起きた?」
「う、うん。
おはよ……」
「朝飯置いとくから、食べてけよ」
「ありがと……」
どうしたんだろう。
今朝は、いつもよりずいぶん早くない?
急ぎの仕事でもあるのかな?
気になったけれど、修弥は少し焦っているみたいで、聞くことができなかった。
「あ、それと梓。
オレ、しばらく帰れないから」
「えっ!?
出張でもあるの?」
「いや、そうじゃないんだけど……」
よそよそしく、修弥は私から目をそらす。
これは何かあるに違いない。
そもそも、『しばらく帰れない』なんて、理由もないひと言で、私が納得できるわけない。
「戸締まりだけは、しっかりしろよ」
私が疑っていることに気づいたのか、修弥はそう言うと、さっさと家を出ていってしまった。
「何?
どういうこと……?」
いったいどういう意味?
何があったのよ。
ちゃんと説明して!!
わけがわからず、私は、ただ呆然と玄関先で立ち尽くすだけだった。




