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本社に異動してきてから、約一ヵ月。
ようやくオフィスの雰囲気にも慣れてきた。
今日私は、久しぶりにちーちゃんとアフター7を楽しんでいる。
本社近くのフレンチレストランで、私たちはディナーを堪能していた。
「こんな時問にあがれることって、めったにないよ」
スープをひと口飲んだあと、しみじみと言うちーちゃんに私も頷く。
「ところで梓、
帰らなくていいの?
せっかく定時であがれたのに」
「いいの。
今夜も修弥は遅くなるって言ってたし」
「そうなんだ。
社長が彼ってのも、大変そうね」
「やっぱり、そう思う?」
身を乗り出すようにしてそう言う私に、ちーちゃんは笑った。
「だけど、そうそうできる経験じゃないんだから。
梓は幸せ者よ」
「そうかな?
あっ、そういえば、修弥って英語が話せるのよ!」
得意げな私に、ちーちゃんは真顔で言った。
「それくらい知ってるわよ。
社長、フランス語も話せるはずよ?」
「えっ!?
フランス語も!?
ていうか、ちーちゃん知ってたの?」
「なんで、梓が知らないのよ?」
「だって……英語を話す機会なんてなかったし」
ちょっと恥ずかしくなって俯く私を見て、ちーちゃんは苦笑している。
「そうそう。
修弥に、英語の勉強しておけって言われたんだよね……」
英語には憧れているけど、苦手なのよね。
学生時代の成績は芳しくない。
ため息をついていると、ちーちゃんが珍しく私に顔を寄せてきた。
「……ねえ、それって、やっぱりプロポーズっぽくない?」
「プロポーズ?」
「だって、社長と結婚したら、英語を話す機会が増えるでしょ?」
「そうなの!?」
予想もしなかった言葉に、私はむせそうになった。
「ちょっと梓、大丈夫?
だって社長と一緒にいたら、海外に行くことや、外国の人と接する機会が増えるに決まってるじゃない」
そんなことを言われても、まだまだ実感が湧かないし、私は修弥の仕事内容もよくわかっていない。
仮に本当に彼と結婚したとして、妻である私にもそんな能力がもとめられるのかどうか……。
「社長は、梓との未来を真剣に考えているんじゃない?」
私との未来?
ちーちゃんの言葉が、頭の中に残った。




