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私の彼は御曹司  作者: アルケミスト


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30

 社長室に来い。


 昼休憩に合わせるかのように、修弥からそんなメールが来ていた。


「……社長室って、勝手に行っていいものなの?」


 突然の呼び出しにドキドキしながらも、私はエレベーターで社長室へ向かった。


 いつか、前社長への挨拶で行って以来だ。


 確か景色のいい場所だった。


「ここよね?」


 社長室と書かれたプレートを確認して、ノックをするも返事がない。


 え?


 呼び出しておいて、いないわけ?


 そっとドアを開け、誰もいない室内を見て私は思い出した。


 そうだった。


 最初の部屋って、秘書の人の部屋だったよね。


 お昼だから、席を外しているのかな。


 考えつつ、中に足を踏み入れる。


 ということは、この扉の向こうに修弥がいるんだ。


 ドキドキしながらゆっくりと執務室のドアをノックすると、修弥の声が聞こえた。


「いいよ。

 入っておいで」


「失礼します」


 そっと中を覗くと、修弥はパソコン画面から目を離さずに言った。


「ごめんな。

 ちょっと急な案件で少し待ってくれるか」


 そう言うと、どこかへ電話をかけ始める。


 仕方ないな……。


 ソファに座りながらため息をつくと、日本語じゃない言葉が聞こえてきた。


 何、これ!?


 思わず振り向くと、修弥が何か話している。


 いくつか知っている単語が聞きとれるから、英語だとわかった。


 ……修弥って、英語が話せるんだ。


 一年も一緒に住んでいて、そんなことも知らなかったなんて情けない。


 私が知っているのって、修弥の本当に一部分だけなんだろうな……。


 驚いた顔で見ている私に気づいて、修弥は優しく微笑んだ。


 ちょっと凹んでいるところにその笑顔、反則だよ。


「ごめんな。

 やっと片付いた」


 数十分後、電話を終えた修弥が、軽くため息をつきながら私のそばへ来た。


「ううん。

 いいよ。

 大変だね。

 休日も、ずっと仕事が入ってるもんね」


「そうだな。

 休みはないよなぁ。

 ……だから、会社にいる間に梓に会いたくて」


 そう言うと、修弥は私を抱き締める。


「ちょっと!

 だ、大丈夫なの?

 こんなところで……」


 私は嬉しいけど、万が一、誰かに見られたら、まずいんじゃないの?


「大丈夫だよ。

 秘書の子はしばらく戻らないから。

 今はオレたちふたりきりだ」


「だけど、突然誰か来たりしない?」


「しない。

 アポなしでは、会わないことにしてるから」


 さ、さすが大企業の社長。


 修弥に会うのには、アポがいるんだ。


「だから、こんなことをしても大丈夫」


「あっ……」


 一瞬の隙を突くように、修弥は私の唇に自分の唇を重ねた。


 ここは会社なのに……。


 社長室でキスなんて、ありえないでしょ。


 部署のフロアが騒がしかったせいか、ここはやけに静かに感じる。


 だからなのかな……。


 私たちの息遣いが、大きく響くように聞こえるのは。


「昼休憩、短いよな」


 修弥は私から唇を話すと、ぽつりとそう言った。


「家に帰れば、また一緒なのにな。

 オレ、一瞬でも梓を離したくないって思ってる」


「それは、私もだよ……」


 そう言って、ぎゅっと修弥の身体を抱き締め返す。


 ほのかに感じる、タバコと香水の匂い。


 この香りが、私をクラクラさせる。


 どんなときでも、修弥のことが頭から離れない。


「新しい部署はどうだ?

 馴染めそうか?」


「え?

 あ、うん……。

 大丈夫」


 修弥の心配そうな顔を見ると、本当のことが言えない。


 初日から嫌味のオンパレードだなんて……。


「そうか。

 それならよかった。

 ちょっと心配でさ」


「ありがと……」


 毎日、休む間もないくらい忙しいのに、私を心配してくれるんだ。


 それだけで嬉しかった。


 私も、大好きな修弥にとって、少しでも安らぎになれる存在でありたい。


 心からそう思う。


「ねえ、今回の人事って、修弥も関係してるの?」


「オレが?」


 思い切って問いかけてみると、修弥は小さく笑った。


「まさか。

 オレは人事には介入しないよ。

 それに、梓の頑張りは、オレも聞いてた。

 努力と実績を、純粋に評価された。

 それだけだと思うぞ?」


「そうなんだ安心した。

 修弥の口添えがあったんじゃ、不公平だもんね」


 あんな嫌味を言われたから、気になってしまっていたのよね。


 ちゃんと修弥の口から聞けて、ちょっとだけ胸のつかえが取れた気がする。


「どうした?

 誰か、そういうふうに言うヤツがいるのか?」


「ううん!

 ただ、気になっただけ」


 いけない、いけない。


 修弥に余計な心配をかけちゃう。


 不審そうに私を見ている彼の気をそらせようと、とっさに話題を変えてみる。


「ところで、修弥って、英語ペラペラなのね」


「英語?

 ああ。

 さっきの電話のことか?

 まあ、あの程度なら……」


 え!?


 修弥にとってはあの程度なの!?


「私には、ペラペラに聞こえたよ?」


「そうか?」


「びっくりしたんだから……あっ、そろそろ戻らなきゃ」


 私の言葉に、修弥も時計を見る。


「本当だな。

 じゃあ、最後にもう一回だけ」


 修弥はそう言うと、触れるだけの軽いキスを私の唇に落とした。


「じゃあ、また夜にな……」


 名残惜しむように目を見て言われ、ドキドキしながら部屋を出ようとドアに向かう私の背中に、修弥が言った。


「梓も英語の勉強はしとけよ?」


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