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「あ、おかえりなさい」
帰ってきてくれたのは嬉しいけど、ケンカのあとだけに、ちょっと気まずい。
「風邪ひくぞ?
部屋に入れよ」
ぶっきらぼうな口調に隠して優しさを見せる修弥に、情けなくも胸がときめく。
修弥はネクタイを乱暴に外すと、珍しくその場へ放り投げた。
いつもなら、そんなことはしないのに。
「う、うん……」
やっぱり怒ってるよね。
仕方ない。
自業自得だわ。
窓を閉めて部屋へ入った私を無視して、修弥は着替え始めた。
「あの……、修弥……」
ちゃんと謝らなきゃ。
さっきのは、完全に八つ当たりだもん。
だけど私が呼んでも、修弥は返事をしてくれない。
それどころか、シャワーを浴びに行ってしまった。
「修弥ってば!
話くらい聞いてよ」
感情的になっちゃダメってわかっているのに、私は声を荒らげて追いかけてしまう。
バスルー厶からはシャワーの音が聞こえるだけで、修弥の反応はなかった。
「ねえ、なんで無視するの!?」
確かに、私が悪かったけど、無視することないじゃない。
「ひどい……」
やっぱり私たちは、結ばれない縁なのよ。
ここまでなんとかやってきたけど、会長に反対されて、ジ・エンド。
きっとそうなんだ。
ベットに腰かけ、声を殺して泣いていると、濡れた髪のままの修弥が、私にゆっくりと言った。
「ったく……なんで、ちゃんと言わないんだよ」
「え?」
その言葉に顔を上げると、修弥はちょっと呆れた顔で続けた。
「オヤジのこと。
声かけるなって言われたんだろ?」
「な、なんで知ってるの!?」
「お前の様子を見てれば、何かあったなってことくらいわかるって」
そうだった。
修弥は、頭のキレる人。
全部、お見通しだったんだわ。
「なんで、黙ってたんだよ?」
「だって……。
告げ口みたいじゃない。
言えないよ」
ムカついたとはいえ、修弥にとってはお父さんだもん。
私が答えると、彼はたしなめるような口調で言った。
「ちゃんと言えって。
告げ口でもなんでもないだろ?
だからオレは梓が心配で、途中で切り上げて帰ってきたんだよ」
隣に腰を下ろして、修弥は私の頭に手を置いた。
「だったら……、なんでさっき無視したの?」
「ああ。
オヤジにムカついてさ。
どうしてやろうかって、考えてたんだよ」
「何よ、それ……。
本気で傷ついたのに」
修弥って、時々、こういうところがある。
無視しているのかと思えば、違うことを考えているのだ。
そのたびに私は動揺して、悪いように解釈してしまうけど……本当はいつも、私のことを想ってくれている。
それを実感して、胸が詰まる。
「悪かったよ、梓。
だけど、前にも言ったろ?
もっとオレを頼れよ」
「うん……。
ごめんね」
安心して泣きだしてしまった私を、修弥はそのままベッドに押し倒した。
「修弥!?」
「久しぶりだもんな。
夜、ゆっくりできるのも」
修弥はそう言って微笑むと、私の目を熱っぽく見つめる。
「梓を抱くのも久しぶり。
本当はこうしたくて、早く帰ってきたのもあるんだ」
照れ笑いをする修弥に、私も自然と笑みを浮かべる。
「修弥ってば、私のこと、イヤにならないの?」
「なんでそんなこと考えるんだよ……あっ、わかった。
ずっと一緒にいられなかったからだろ?」
そう言いながら、修弥は私の唇に軽く口づける。
「だから、梓は不安になってたんだよ。
大丈夫。
今夜は離さないから。
不安なんて飛んでいくよ」
「修弥……」
甘い言葉に、何も言えなくなってしまう。
そして私たちは、今度は息もできないくらい激しいキスを交わした。
吹き飛ばして。
私の不安も、悲しみも、寂しさも。
こうしていれば、すべてが消えてくれるような気がする。
社長になっても、修弥は修弥だよね?
私、今日のパーティーで、 また修弥との距離を感じちゃった。
それを思い出したら、一度は止まった涙が滲んできてしまう。
「なんで泣くんだよ。
泣くなよ、梓。
どうしたら、安心できるかな。
こうやって抱き締めてキスをすれば大丈夫か?」
涙を吸いとるように、修弥は私の目元に唇を落とす。
「うん……。
大好き、修弥」
修弥の深い愛に包まれながら、頭の片隅で私は思った。
私はもっと努力しないといけない。
不安はあっても、こんなに修弥が私を大事にしてくれるのだから、その想いに応えられる人間にならないといけない。
修弥は本社で社長として、私たちみんなの未来を背負って、頑張っている。
だから私も、自分なりに精一杯頑張ろう。
修弥が立て直してくれた支店を、もっともっとよくするためにも。




