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本社から社用車で支店へ戻る途中、渋滞にはまってしまった。
クラクションが鳴り響き、どこまでも続いていそうな車の列を、運転席の修弥はぼんやりと眺めている。
いったい、何を考えているの……?
「梓、今、何を考えてる?」
「えっ!?」
まさに今、私が思ったことを言われて、びっくりしちゃった。
こういうの、前にもあったよね。
「私は、修弥が何を考えてるのかなって思ってた」
「なんだよ、それ」
私の返答に、修弥がプッと吹き出す。
「オレは、梓の心が変わらないかなって、心配なんだ。
……情けないだろ?」
「そんな!
変わるわけないよ!
私だって、離れ離れになるのが心配……」
同じことを考えていたのだとわかっただけで、心が少し軽くなる。
そんな話をしていると、少しずつ車の列が動き始めた。
「そのことなんだけど」
そう言うと、修弥はぐっとアクセルを踏み込んだ。
どこへ向かっているんだろう。
ようやく快適に流れ始めた道路を、修弥は黙って進む。
『そのこと』ってなんのこと?
聞き返したかったけれど、それができない雰囲気が修弥から感じられて、私は口を閉ざす。
支店とは正反対の方向へ走って、辿り着いた場所は、大きな川沿いだった。
「寄り道。
天気いいし、ちょっとだけ歩かないか?」
「え?
うん、いいよ」
路上駐車場に車を停め、外に出た私たちは、手を繋いで川沿いの道を歩いた。
舗装された道は、犬の散歩をする人やジョギングをする人で、賑わっている。
そして対岸には、オフィスビル群が見えた。
「気持ちいいね」
「だろ?
海が近いからな」
そうなんだ。
どうりで、潮の香りがすると思った。
緊張で汗をかいたせいもあってか、風の冷たさがちょうどいい。
「ねえ。
さっき、何が言いたかったの?」
ゆっくり歩きながら私がそう聞くと、修弥は柵に近づき、対岸を見つめた。
「近い将来、本社をあの川沿いのオフィス街に移す予定なんだ」
少し重みのある修弥の発言に、私は目を輝かせる。
「そうなの!?
すごい!」
あの一帯は、有名企業が軒を連ねているエリアだよね?
「まだまだ、事業を拡大していく予定だしな。
あっ、このことは、誰にも言うなよ?」
「うん。
わかった」
そんな大事な話、私にしてくれるんだね。
じわりと、あたたかい気持ちになる。
「それで……当分仕事が忙しくて、梓に会う時問も作れそうにないんだ」
「あっ、そっか……うん。
仕方ないよ」
覚悟はしていたけれど、やっぱり寂しい。
だけど、それは言っちゃいけない。
すると、修弥はひと呼吸おいてから、思い切るように口を開いた。
「……だから、梓。
オレと一緒に暮らさないか?」
「えっ!?」
驚いて、思わず大声をあげてしまう。
そ、それは……同棲ってこと!?
「オレ、梓と離れるのは正直寂しい。
それに……梓がそばにいてくれるだけで、仕事ももっと頑張れるからさ」
そんなふうに思ってくれていたの?
嬉しさで、涙が込み上げる。
「嬉しい。
私も、修弥のそばにいたい……」
そう言ってゆっくり抱きつくと、気持ちを確かめるように、修弥も私の身体を抱き締めた。
「梓。
ずっと、ずっと一緒にいよう」
「うん。
私、修弥となら、どんな壁も乗り越えてみせるから」
不安は残るけど、修弥と一緒ならきっと私も強くなれる。
そんな気がする。
「頼もしいな。
オレもどんなことがあっても、梓を守るよ」
修弥の手に、力が入る。
その腕の力強さに、私の胸は苦しくなった。
幸せな未来までに、いったいどれくらいの困難が待ち受けているんだろう。
だけど、きっと大丈夫。
そう思っていれば、絶対にかなうよね?
私と修弥の幸せな未来は。
いつか必ず、本当の意味で、あなたのそばにいられるように。
同じ夢を、同じ希望を、同じ未来を、いつまでも、私は修弥と見ていきたい。
ずっと、ずっと……。




