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「あ、え、えっと……」
何を言いたいのか、何を聞きたいのかが、自分でも整理できない。
「オレの父親、広世商事の社長なんだ。
オレは勉強のために、みんなには黙って一緒に仕事をしてた」
この状況を、脳が処理しきれていない。
そんな私の状態に気づいた修弥は、何も言わずに私の手を取って歩き出した。
されるがままの私の頭の中には、今聞かされた事実がぐるぐる回っている。
自分の彼氏が、従業員数四千人の大企業の社長の息子。
そうだったら、みんなは喜ぶのかな?
それが普通なら、私は普通じゃない。
だって、喜べないもの。
御曹司だなんて。
そんな人と私みたいな一般人、釣り合うわけがない。
やっぱり魔法がかかっていただけなんだ。
その魔法がとけたら、私と修弥は、さよならしなきゃいけないんだ……。
とはいえ、今まで不思議に感じていたことを思い返せば、修弥が社長の息子ってことには、納得せざるを得ない。
その後も、よくよく会話に耳を傾けてみると、誰もかれもがVIP。
どこかの社長や御曹司やご令嬢。
そしてその奥さんや旦那さん、婚約者。
そんな人たちの中で、私は完全に浮いていた。
そんなセレブの中のセレブである修弥が、庶民の私に本気になるわけがない。
修弥が本社に戻れば、私たちの関係は、確実に終わってしまう……。
「梓、顔色が悪いけど大丈夫か?」
「……うん。
大丈夫」
修弥が私をここへ連れてきた目的は、いったい何?
そんなことを考えていたときだった。
「梓!?」
懐かしい声に振り向くと、そこには……光太が立っていた。
「こ……光太!?」
なんで光太がここに!?
突然の元彼との再会に、私はさらに動揺する。
「お前、なんでこんなところにいるんだよ?」
「光太こそ……」
すると、光太の後ろから、感じのいい男性が現れた。
年は四十代くらい?
さっきの田淵さんよりは、若そうだ。
「オレは専務の同行で来たんだ。
勉強になるからって」
「あっ、そ、そうなんだ……」
それ以上の会話は続かず、なんとなく気まずい空気になる。
すると、その専務さんが修弥に気づいて、突然頭を下げた。
「高城さん、お久しぶりです!」
ええっ!?
まさか、また知り合い?
「専務、お久しぶりです。
今日は彼と」
修弥が、ちらっと光太に目をやった。
ちょうどそのとき、ボーイさんがカクテルをお盆に乗せて持ってきた。
修弥、専務さんと光太がそれぞれ好みのカクテルを取ったあと、私も手を伸ばしかける。すると、修弥が私を制して、自分のグラスを差し出した。
「梓は酒に弱いから、オレのを飲んだらいいよ」
「あ、ありがと……」
その修弥のふるまいを少し不思議に思いつつも、私は素直に従った。
すでに彼が口をつけているグラスだけに、ドキドキする。
「そうなんです。
彼は若いですが、有望株で」
私たちのやりとりを見守るようにしていた専務さんが、愛想よく口を開いた。
「すごいですね。
専務がそうおっしゃるなら、間違いない」
「ありがとうございます。
かなり目をかけているんですよ」
豪快に笑った専務さんに、光太は気恥ずかしそうだ。
別れた相手といっても、今でも変わらず頑張っている姿が見られたのは嬉しい。
「あの、こちらの方は?
高城さんがずいぶんと、大切にされている方のように見受けられましたが」
専務さんは、今度は私に目を移して聞いた。
「さすが、鋭い。
彼女は、僕のつき合っている女性です」
思わず聞き流しそうになったくらい、修弥はさらりと言った。
えっ!?
「そうなんですか!?
高城さんに本命の女性がいたとは」
「ハハ。
驚きますか?」
「驚きますよ。
それじゃあこの方は、未来の社長夫人なんですね」
社長夫人!?
とんでもない言葉が飛び出して、私の目が点になる。
だけど、こんな立派な人から見て、私は修弥と並んでいても不自然に見えないんだ。
『未来の社長夫人』
そう言われて、正直嬉しい。
「すごいな……梓。
幸せになれよ?」
小さく笑いながら光太に言われて、ハッと我に返る。
「う、うん。
ありがと」
かろうじて、それだけは言うことができた。
「梓、行こう」
修弥は私の肩に軽く触れると、そう言った。
「うん」
バイバイ、光太。
私たちは、もうまったく違う道を歩んでいるんだね。
少し切なかったけれど、それでいいんだ、と私は思えた。
それより……パーティーに来てみて気づいたけど、修弥はかなり有名な御曹司のようだった。
未来の社長に、誰もがいい顔をする。
そして彼は私のことを、まるで未来の奥さんのようにみんなに紹介していた。
「梓、疲れたか?」
「ちょっと……慣れないからかな?」
苦笑いする私に、修弥は言った。
「休めるように、部屋をとってあるんだ。
行こう」
「えっ!?」
部屋までとってあるなんて!
簡単なパーティーだと思っていた私は、また驚いてしまう。
さっきから、何もかもが別世界な気がして、私は戸惑いっぱなし……。




