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『なあ、今度の会社のパーティー。
梓も一緒に来てくれないか?』
修弥のそのひと言で、私はパーティーへ行くことになった。
パーティーとはいっても、簡単なものだと思っていた。
会社の行事だと言っていたし。
「梓、今夜はこれを着ろよ」
ところが、そう言われて手渡された服は、超有名ブランドのドレスだった。
クリー厶色の膝丈で、スカート部分はふんわりと膨らんでいる。
華美な感じはしないけれど、生地自体に光で反射する糸でも織り込まれているのか、キラキラと輝いていた。
そして、デコルテを綺麗に見せるからと、手渡されたネックレス。
中央部分には、ダイヤが上品に光っている。
「ドレスに、ダイヤまで……!?」
「ああ。
特別に借りてきた。
美容院も予約してあるから、途中で寄ろう」
あ然とする私をよそに、修弥も支度を急いだ。
どんなパーティーだっていうんだろう。
緊張でため息が出てくる。
まるでシンデレラの気分だ。
魔法にかかったみたい……。
それにしても、こんなドレスやネックレスを特別に貸してもらえるなんて、やっぱり修弥は謎に満ちている。
もうそろそろ、そのあたりもちゃんと知りたいな。
「酒も入るから、今日はタクシーで行くぞ」
そうして連れていかれた場所は、都内でも有数の高級ホテルだった。
ここ、有名人が結婚式を挙げたりもする場所よね?
宿泊だけでも高いって噂の。
そんなところでパーティーって、絶対に単なる会社のパーティーじゃないよね?
「ねえ、修弥。
今日は、いったいなんのパーティーなの?」
「今日は、異業種交流会」
「異業種交流会!?
会社のパーティーじゃないの?」
驚いた私は、目を見開いて修弥に聞き返した。
「いろいろな会社の人間が集まるパーティーだよ。
大丈夫。
オレのそばにいれば」
そう言って微笑む修弥に、私は戸惑いながらもキュンとしてしまう。
こういうところ、頼りになるんだよね。
不安を残しつつも、私は気合いを入れ直して修弥のあとをついていく。
パーティー会場は、ホテルの最上階にある大広間だった。
でも、入口ですでに引き気味の私。
だって、思い思いにドレスアップをした人たちでいっぱいなんだもの……。
みんないかにもセレブって感じで、こんなきらびやかな場所に足を踏み入れるのは初めてだ。
それに修弥もいつにもまして、カチッとした雰囲気。
「……私、場違いじゃないかな?」
「大丈夫だって。
そんなに不安なら、手を繋ぐか?」
「えっ!?
ダメよ。
みんなにバレちゃうよ?」
「バレてもいいって、梓は言ってくれただろ?」
「私はいいの!
でも修弥が!」
そんなやりとりをしていたときだった。
「あっ、修弥さん!」
五十代くらいの、スマートで紳士的なオジサマが声をかけてきた。
誰!?
この人、ただのオジサマじゃないよね?
なんだか怖いほど落ち着きはらっている。
決して威圧的な態度ではないけど、鋭い目つきに思わず身構えた。
「お久しぶりです。
田淵社長」
田淵社長?
どこかで聞いたことのある名前に、必死に自分の記憶をたぐる。
……思い出した!
あの有名な自動車メーカーの社長だわ。
前年度には国内シェアナンバーワンに成長して、海外販売も順調だとニュースで聞いたことがある。
でも、どうしてそんな有名な企業の社長が、修弥を知っているんだろう。
それも、名字じゃなく名前で呼ぶなんて、よほど親しいのかな?
「いやー、ご立派になられて。
お父様もお元気そうですね」
「ありがとうございます。
田淵社長のことは、よく父から伺っています」
まさか、家族ぐるみで知り合いなの!?
すごい!
驚きっぱなしの私は、黙って談笑するふたりを見ていた。
「しかし、修弥さんも若いのに偉いな。
今は修業中なんでしょう?」
「はい。
息子といえども、父の指導は厳しいものですから」
修業中って、リーダーの役職のことかしら?
私にはよく意味のわからない会話をぼんやりと聞いていると、田淵社長が言った。
「さすが。
お父様も次期社長の座は、修弥さんに譲りたいでしょうからな」
えっ?
今、なんて言った?
『次期社長の座は修弥に譲りたい』?
誰が、社長って?
「それは、どうでしょう?
能力がなければ、きっと譲ってはくれませんよ」
「いやいや、修弥さんなら大丈夫。
私の知り合いの御曹司の中でも、あなたが一番優秀だと思いますよ。
広世商事さんも安泰だ」
お、御曹司って……修弥が?
ふたりの横でパニクる私。
ちょっと待ってよ。
修弥は、社長の息子ってこと?
「それでは、またあとで」
田淵社長と別れた修弥は、私に向かって、ちょっとバツが悪そうに笑った。
「ごめんな、梓。
ずっと黙ってて」




