20
修弥に初めて抱かれた夜から、一週間が経った。
私はやっぱり、気がつけば修弥のことを考えてしまっている。
お互いのデスクの距離でさえ遠くに感じるし、会議で向かい合う距離でさえもどかしい。
「報告は以上です。
みなさんのおかげで、目標数字を大幅にクリアしました」
修弥は、分厚い資料を手に取りながらそう言った。
いけない。
会議中なのにぼーっとしてしまっていた。
『目標達成』の言葉に、拍手が起こる。
自慢じゃないけど、業績が決してよくなかったうちの支店の売上を、こんなにアップさせるなんて。
修弥の采配に感心する。
やっぱり修弥って、すごい人なのかも。
「このまま成績を上げ続けられれば、常勝支店の仲間入りだからな」
「実は高城リーダーは、 この支店の業績の底上げのために赴任されていました。
こうして結果も出たことなので、晴れて本社にもどられます。
まだ、はっきりとした予定はわからないそうですが」
支店長の言葉に、笑みを浮かべて頷く修弥とは裏腹に、私は目の前が真っ暗になったような気がした。
本社に戻るなんて聞いていない。
それは、営業マンもちーちゃんも同じで、みんな驚いてざわつき始める。
「監査じゃなくて、底上げが目的だったのね」
ちーちゃんの呟きにも、反応できないくらいにショックだった。
修弥が本社に戻ってしまったら、ほとんど休みがとれない彼と、プライベートでしか会えなくなる。
想像するだけで、不安に駆られて呆然とする。
もしかして、配属のことを話すって、このことだったの?
いろいろな思いが頭を駆け巡り、会議が終わってからも、私は放心状態だった。
「香川、ちょっといいか?」
会議以降、まったく集中できずにいる私を、修弥が呼ぶ。
「……はい、リーダー」
六畳ほどの小さな応接室に、私は連れていかれた。
何を話されるのかドキドキしながらドアを閉めた途端、修弥は私を抱き締めた。
「ちょっ!?
何!?」
「シーッ。
大きな声を出すなよ。
怪しまれる」
人差し指を立て口元に当てながら、修弥はしかめっ面をした。
「だって……急にこんなこと。
……びっくりするよ」
違う意味で心臓がドキドキしている。
それにしても、修弥って意外に大胆なことするのね。
私は面食らっていた。
「お前、会議が終わってから、ずっとぼーっとしてたろ?」
修弥は心配そうに私を見つめる。
それも、かなりの至近距離で。
「あ、うん……わかっちゃった?」
苦笑いで誤魔化すと、彼はため息をついてから、軽く睨むような視線を向けてきた。
「無理して笑うなよ。
さっき支店長から発表されたこと、気にしてるんだろ」
「うん」
だって、修弥を問い詰めるようなことは、できるだけしたくないんだもの。
「本社に帰るって、まだ決まったわけじゃないから」
「でも、もし戻ることになったら?
可能性としては高いんでしょ?」
「もちろんそうだけど、そうなったからって変わるものは何もない。
距離で負ける程度の気持ちじゃないよ。
梓だってそうだろ?」
「……うん」
私の不安な気持ちなんてお見通しの修弥は、私の両肩に手を置き、必死にそう言った。
こんなふうにフォローをしてくれる彼の優しさが嬉しい反面、いつまでも心配ばかりかける自分がイヤになる。
「ありがとう、修弥。
そう言ってくれて安心した」
強がっているのがわかったのか、修弥は何も言わずにもう一度、私を抱き締めた。
「でも、やっぱり……修弥が帰っちゃったら寂しいな」
「泣くなよ、梓」
「ごめんね。
だけど……」
寂しいよ。
不安だよ。
私のそばを離れないでよ。
「元彼みたいに、私から心が離れたりしない?」
「するわけないだろ?
何言ってんだよ」
「うん。
ごめん」
ああ。
やっぱり光太のことは、 私の中でトラウマだ。
あんな思い、もう二度としたくない。
「信じろよ、オレを」
力なく頷いた私に、修弥はキスをした。
もっと、もっとキスをして。
私の不安を、修弥のキスで消し去って。
「なあ梓。
オレとつき合ってること、みんなに知られてもいいか?」
唇を離した修弥が、おもむろに言った。
「えっ?
どうしたの、突然」
急に思いもよらないことを言われて、涙が止まる。
「どうだ?」
「……私は、もちろんいいけど。
でもどうして急に?
まだ無理だって言ってたじゃない。
私に気を遣ってるなら、やめて」
そう言うと、修弥は優しく微笑んで首を横に振った。
「そうじゃない。
オレが梓との関係に、きちんとけじめをつけたいだけだよ」
「本当に?
……それなら、すごく嬉しい」
「ありがとう。
オレは、全力でお前を守るから」
「うん。
信じてる」
そのことで、どんな噂になろうと、私は平気。
でも、どうやって言うつもりなんだろう?
どこかで正式に発表するとか?
そんなことを考えている私に、彼が言った。
「なあ、今度の会社のパーティー。
梓も一緒に来てくれないか?」




