19
二度目の修弥の家。
相変わらずスイートルームのような部屋で、私は街の景色を見下ろしていた。
都会って昼間よりも、夜のネオンのほうが明るく見える。
そしてこの部屋も、間接照明に柔らかく照らされる夜のほうが、ロマンチックだ。
「梓、ごめんな」
修弥が、後ろから私を抱きすくめる。
「なんで、修弥が謝るの?」
身体に感じる温もりと、耳にかかる吐息に、心臓をドキドキさせながら問い返す。
「だって、寂しい思いをさせただろ?」
「あれは、私のわがままだから……むしろ、私こそ本当に、ごめんなさい」
私がもっと大人の女だったら、あんなことを言わずに済んだ。
そう思うと、自己嫌悪が止まらない。
「正直、焦った。
『うまくやっていく自信がない』なんて言われて」
「……修弥でも焦ることなんてあるの?」
意外な言葉だった。
いつもあんなに自信に満ちて、堂々としているのに。
「あるよ。
……オレ、そんなに冷たそうに見えるか?」
「ううん。
そうじゃなくて、大人なイメージがあるから」
私がぽつりと言うと、修弥は首を横に振って、ちょっと困ったように笑った。
「大人じゃないよ。
はっきり言って、梓とつき合うことになってから、仕事だって集中できていないから」
「え?
でも、ずっと普通に見えたよ?」
「それは、必死になんでもないようにふるまっていたんだよ。
気を抜くと、つい梓に目がいきそうになってた」
だからいつも以上に気合いが入っていたんだ。
なんだか嬉しい。
それは私も一緒。
修弥をずっと見ていたいのに、我慢しているんだから。
「私も、同じだよ」
修弥はゆっくりと、私を振り向かせる。
「離れようとしたって、離さないからな?」
「修弥から離れたいなんて、絶対に思わないよ」
修弥は優しく笑って、私にキスをした。
いつもは時間をかけて、じっくりしてくれるのに、今夜はいつもより強引だ。
息もできないほどの性急なキスに、私は立っているのもやっとだった。
そして気づくと、私は寝室に連れていかれ、ゆっくりとベッドへ押し倒された。
そこからまた、しばらく唇を重ねてから、ためらいがちに修弥が言った。
「ごめん。
これ以上は、まだ早いよな」
私を見下ろす修弥は、息遣いが少し荒い。
そんなところは、本当に普通の、年相応の男の人って感じがする。
「早くなんか、ないよ?」
自分の心臓の音がうるさい。
身体が熱い。
「私、二十三歳だよ?
何ヵ月つき合わなきやイヤだとか、そんなこと言う年でもないよ……」
十代の頃だったら、違っていたかもしれない。
でも今の私は、早く、修弥とより深く繋がりたかった。
「だから、修弥の思うようにして……」
そう言った私の唇を、修弥はその唇でまた、強引に塞いだ。
「……もう、止められない」
そのひと言を合図に、私たちは甘い夜の世界へと入っていった。
光太とも過ごしたことのある、甘い夜。
だけど、今日ほど幸せを感じることはなかったかもしれない。
もっと、もっと、この夜が続けばいいのに。
普段は冷静で大人な修弥が、私にしか見せないもうひとつの顔。
それを感じれば感じるほど、そう強く願ってしまった。
いつの間にか、時刻は三時を回っている。
ようやく呼吸を整えられた私は、ベッドで修弥の胸に顔を当てていた。
「私のアパートと違って、静かだね。
うちは、とにかく車や人の声がうるさくて」
「そうなのか?
高層階だから、気にならないんだろうな」
毎晚、ここに来られたらいいのにな……。
一瞬でも長く、修弥と一緒にいたい。
そんなことを考えていると、修弥が口を開く。
「梓さえよければ、毎晚でも来いよ。
オレはいつも一緒にいたいから」
「え?」
今、私が心の中で思ったのと同じことを、修弥は言っている。
「梓は?
オレといたくない?」」
少し近づけばキスができる距離で、修弥は私を見つめてくる。
「私も、一緒にいたいよ」
そう言うと、修弥は私の唇に軽くキスをした。
「……梓、近いうちに必ず話すから」
「なんのこと?」
「配属のこと。
気にしてただろ?」
「あ、ああ……あれは、もういいよ。
ごめんね」
自分から聞いておいてなんだけど、どうしてそんなにこだわるんだろう?
不思議に思って私が答えると、修弥は真剣な表情で言った。
「いや、ちゃんと話さないといけないことだから」
どこか含みのある言い方が、少し引っかかる。
「だけど、心配しないでほしいんだ。
梓を裏切るようなことはしてないから」
「う、うん。
わかった。
言ってくれるのを待ってるね」
そんなふうに言われると、すごく気になる。
『裏切る』って何?
……だけど、今は問い詰めるのはやめよう。
この幸せな時間を壊したくないから。
「梓、もう少しだけいいか?」
「……うん、いいよ」
そうよ。
自分の気持ちばっかり押しつけちゃダメ。
この幸せな夜を、甘い夜を、修弥を感じられる夜を、失いたくないなら。




