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私の彼は御曹司  作者: アルケミスト


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「梓、まだ帰らないのか?」


 今日は、みんなが帰ったあとも会社に残っていた。


 こうでもしなきゃ、修弥とまともに話せないし。


「うん……」


 書類とパソコンだけに目を向ける修弥が、 少しムカつく。


 みんながいないときくらい、もっと私を見てよ。


「ねえ、修弥がここに配属された目的って何?」


「え?

 なんだよ、急に」


「だって謎なんだもん。

 リーダーって役職、修弥だけじゃない」


 私が口を尖らせると、修弥がゆっくりこちらを見た。


「支店の底上げのためだよ。

 ここは、業績悪いだろ?」


「……人員整理、とかも?」


「そんな権限、オレにはないよ」


 ため息をつきながら、修弥はまたパソコンに目をやる。


「梓。

 今、忙しいんだ。

 そういう話は、また今度にしないか?」


 何よ、その言い方。


 なんで私との会話を面倒くさがるの?


「ねえ、修弥。

 私たち、全然話もしてないんだよ?

 もう少しくらい、私を見てくれてもいいじゃない」


 こういうのが、よくないんだよね……。


 でも、ちーちゃん、私は大人になれない。


 どうしても、思ったことを言うのを我慢できない。


「梓、子供じゃないんだからさ」


 声のトーンから、修弥がイライラし始めているのがわかる。


「話がしたいってだけで、子供だっていうの?」


「そうじゃなくて。

 今は忙しいんだよ。

 何もこういうときに言うなってこと」


「じゃあ、いつになったら暇になるの?」


 問い詰めたいんじゃない。


 ましてや、修弥の仕事の足を引っ張るような真似をしたいんじゃない。


 それなのに、私は光太と別れてから、ますます感情に任せて行動してしまうことが多くなった気がする。


 そんな自分が本当にイヤだ。


「おい、あんまり困らせるなって」


「こんなの、つき合ってるって言えないよ!

 私、修弥とうまくやっていく自信がない!」


 後先考えずに口走り、私はオフィスを飛び出した。




 最悪だ。


 こんなの、こっちが嫌われるだけだって。


 ウザい上に、重い女だよ……。


『後悔先に立たず』とは、このことだわ。


 涙をうっすら浮かべながら、エレベーターのボタンを押したときだった。


「梓、待てよ!」


 修弥が追いかけてきた。


 このビルのエレベーターは、上がってくるのが遅い。


 普段はイライラするけれど、今日はよかったと思う。


「待てって。

 わかったから。

 今日はもうあがるよ」


 私の腕を掴んで修弥が言う。


 その言葉に、目を見開く私。


「な?

 だから、今日は一緒に帰ろう」


 そんなつもりで言ったわけじゃないのに。


 本当に私は、どこまでも子供だ。


「仕事は?

 いいの?」


「いいよ。

 明日でも間に合うことだし」


 なだめるようにそう言われて、本当に自己嫌悪。


「……ごめんなさい。

 やっぱりいい。

 私、ひとりで帰る」


 足を引っ張っちゃダメだ。


 修弥の立場を理解しなきゃ。


「いいって。

 本当はオレも、梓とゆっくり過ごしたかったから。

 だから今日は一緒に帰ろう」


 繋がれた手に力を込めつつ、私は自分の言動を悔やむ。


 修弥がこの手を離すわけないのに、そばにいてもらえないだけでイライラを募らせて、こんなふうにわめいて困らせて。


 どうして、もっと大人になれないんだろう


「……うん」


 返事をしながら、私は情けなくて仕方なかった。


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