18
「梓、まだ帰らないのか?」
今日は、みんなが帰ったあとも会社に残っていた。
こうでもしなきゃ、修弥とまともに話せないし。
「うん……」
書類とパソコンだけに目を向ける修弥が、 少しムカつく。
みんながいないときくらい、もっと私を見てよ。
「ねえ、修弥がここに配属された目的って何?」
「え?
なんだよ、急に」
「だって謎なんだもん。
リーダーって役職、修弥だけじゃない」
私が口を尖らせると、修弥がゆっくりこちらを見た。
「支店の底上げのためだよ。
ここは、業績悪いだろ?」
「……人員整理、とかも?」
「そんな権限、オレにはないよ」
ため息をつきながら、修弥はまたパソコンに目をやる。
「梓。
今、忙しいんだ。
そういう話は、また今度にしないか?」
何よ、その言い方。
なんで私との会話を面倒くさがるの?
「ねえ、修弥。
私たち、全然話もしてないんだよ?
もう少しくらい、私を見てくれてもいいじゃない」
こういうのが、よくないんだよね……。
でも、ちーちゃん、私は大人になれない。
どうしても、思ったことを言うのを我慢できない。
「梓、子供じゃないんだからさ」
声のトーンから、修弥がイライラし始めているのがわかる。
「話がしたいってだけで、子供だっていうの?」
「そうじゃなくて。
今は忙しいんだよ。
何もこういうときに言うなってこと」
「じゃあ、いつになったら暇になるの?」
問い詰めたいんじゃない。
ましてや、修弥の仕事の足を引っ張るような真似をしたいんじゃない。
それなのに、私は光太と別れてから、ますます感情に任せて行動してしまうことが多くなった気がする。
そんな自分が本当にイヤだ。
「おい、あんまり困らせるなって」
「こんなの、つき合ってるって言えないよ!
私、修弥とうまくやっていく自信がない!」
後先考えずに口走り、私はオフィスを飛び出した。
最悪だ。
こんなの、こっちが嫌われるだけだって。
ウザい上に、重い女だよ……。
『後悔先に立たず』とは、このことだわ。
涙をうっすら浮かべながら、エレベーターのボタンを押したときだった。
「梓、待てよ!」
修弥が追いかけてきた。
このビルのエレベーターは、上がってくるのが遅い。
普段はイライラするけれど、今日はよかったと思う。
「待てって。
わかったから。
今日はもうあがるよ」
私の腕を掴んで修弥が言う。
その言葉に、目を見開く私。
「な?
だから、今日は一緒に帰ろう」
そんなつもりで言ったわけじゃないのに。
本当に私は、どこまでも子供だ。
「仕事は?
いいの?」
「いいよ。
明日でも間に合うことだし」
なだめるようにそう言われて、本当に自己嫌悪。
「……ごめんなさい。
やっぱりいい。
私、ひとりで帰る」
足を引っ張っちゃダメだ。
修弥の立場を理解しなきゃ。
「いいって。
本当はオレも、梓とゆっくり過ごしたかったから。
だから今日は一緒に帰ろう」
繋がれた手に力を込めつつ、私は自分の言動を悔やむ。
修弥がこの手を離すわけないのに、そばにいてもらえないだけでイライラを募らせて、こんなふうにわめいて困らせて。
どうして、もっと大人になれないんだろう
「……うん」
返事をしながら、私は情けなくて仕方なかった。




