12
支度を済ませた私たちは部屋を出て、駐車場に向かう。
駐車場はマンションの地下にあり、ついていった私は、また固まってしまった。
「こ、これが、リーダーの車ですか?」
「そうだけど?
いいよ、乗って」
キーレス操作で鍵を開けると、リーダーは私に言った。
「お……お邪魔します……」
これは、かなりの高級車よね?
ボンネットには、メーカーのマークが輝いていたし、黒塗りのこのセダンタイプは、たびたびテレビでも取り上げられている。
たまに街中で走っているのを見たことはあったけど、乗ったことはない。
恐る恐る助手席に乗り込むと、乗り心地が普通の車と明らかに違う。
広くて座席はフカフカだし、何よりエンジンの音が気にならなかった。
「どこか行きたいところは?」
「えっと、そうですね……」
光太とのデートは、あてもなくドライブしたり、ファミレスでお茶したり。
そんなんだったからなぁ。
リーダーは、ちょっと違うんじゃないかと思うんだけど。
「もし、何もないなら、ちょっとつき合ってくれないか?」
「あっ、はい!」
そのほうが助かる。
私には、リーダーがどういう場所が好きなのか、考えつかないから。
ハンドルを切りながら、彼が話を続ける。
「ちょっとな、服を見てほしいんだ」
「服、ですか?
はい!
私でよければ」
意外な言葉に一瞬驚いたけど、私は元気よく返事をした。
服を見てほしいなんて、普通の男の人だわ。
迷惑をかけちゃったし、私でも彼の役に立てることがあるなら、してあげたい。
「私に任せてください!」
はりきって言った私に、リーダーは優しく微笑んだ。
その顔に、私の胸はまた、キュンとしてしまった。
「いらっしゃいませ」
こちらがドアを開ける前に、スタイルのいい男の人が素早く開けてくれた。
私は完全に、伸ばしかけた手を引っ込めるタイミングを失っていた。
そんな私を見て、リーダーはまた、声を殺して笑っている。
仕方ないじゃない!
ドアマンのいるお店になんて初めて入るんだから!
連れてきてもらったお店は、高級ブランド店が並ぶ一帯の路面店のひとつで、ここも有名なメンズの海外ブランドだ。
ちょうど数日前に、世界的に人気のあるサッカー選手がモデルを務めたことで、話題になっていた。
「悪いな。
見立ててくれるか?」
「は、はい。
お力になれればいいんですが……」
ハイセンスな服の数々に圧倒される。
上質で仕立てがよさそうなスーツが並んだ店内は、ちょっと見渡しても、普通のお店とは違う感じがして、私はすっかり萎縮してしまっていた。
「今度ちょっとしたパーティーがあって、新しいスーツが欲しいんだ」
「パーティー……」
「そう。
会社の行事でな」
「ああ、そうなんですか」
『会社の行事』と聞いて、私はちょっとホッとする。
でも、きっと役職のある人だけが行くんだろうな。
パーティーの話なんて、聞いたことがない。
それにしても、どれもケタ違いな値段の服ばっかりだ。
店内をきょろきょろ見回していると、品のある綺麗な店員さんが、何着かのスーツを持ってやってきた。
「こういうのはいかがですか?
修弥さん好みではないかと思うんですが」
「ああ、そうだな。
これはいいかもしれない」
楽しそうなリーダーの様子に、私は呆気にとられた。
こんなに穏やかに笑うなんて、店員さんと打ち解けている証拠だ。
好みも把握されているみたいだし彼はここの常連ってこと?
「うーん。
これもいいけど、こっちもなあ。
なあ、香川、どっちがいいと思う?」
「えっ!?」
ぼうっとしていた私に、リーダーはおかしそうに笑いながら言う。
「お前、今、別のことを考えてただろ?」
「す、すみません……」
うっかり、店員さんとのやりとりに気持ちがいっていた。
だって、美しい女性の店員さんが、『修弥さん』なんて呼ぶから。
つい、深い関係なのかなあとか思っちゃうじゃない。
気を取り直して、私は彼が手にしているスーツを見比べた。
「あのリーダーには、濃い色のほうが似合うと思います」
「本当か?」
あっ、疑っているな。
その目は、完全に私を信用していない。
「本当ですよ。
そのほうが、身体が締まって見えますから」
「そうか。
そう言われればそうだな。
じゃあ、これにしよう」
苦し紛れに行った私の言葉にリーダーは納得して、濃い色のスーツを手にした。
「じゃあ、試着してくる」
「どうぞ、ごゆっくり」
それじゃ、私は他の服を見させてもらおうかな……。




