序章-7. 格差の社会
塔を背に、子供たちの歓声が遠ざかっていく。
――なんとなく知ってはいた。 されど、ここまで冷たいものかと、内心で舌を巻いた。
選定式のあと、少年少女たちはそれぞれの身分や職業に応じて、塔麓の宿泊区域に振り分けられた。
貴族の子息たちは専用の護衛と共に高級宿舎へ。
優れた職業を得た平民にも、訓練所への入所証や武具が配布されている。
中にはもう、戦闘訓練の計画書を手にしている者すらいた。
そして、俺は。
無言で差し出されたのは、一枚の紙切れ。
『浮浪児区画 第六棟裏手 宿泊許可 三日限り』
渡した神官は、こちらを見なかった。 声もかけられず、通り過ぎた。
“数合わせの名もなき駒”、そんな扱いだったのかもしれない。
同じ立場の者たちと一緒に、荷車に押し込まれた。
宿泊区画に通された先にあったのは、家畜小屋のような部屋に、粗末な寝台と黒パンが詰められた袋。
錆びた銅の短剣に使い古した皮の胸当て。
それでも、「与えられただけありがたいと思え」と言わんばかりの雰囲気が、そこにはあった。
“Fool(愚者)”という職。 未知のクラスであり、ステータスは最低値。 人脈もない。支援もない。 俺という存在が、この世界にとって“外れ枠”であることは、もう明白だった。
わかっている。 それでも、なぜだろう。
胸の奥が、ざわつく。
現実世界では、普通に大学へ通って、ひとりでゲームをして……少なくとも、“浮浪児”なんて肩書きとは無縁だった。
だが今は違う。
名前すら忘れたこの世界で、俺は最底辺の孤児だ。
空を見上げると、そこには例の塔が、いつも通り無表情にそびえていた。
何百、何千回と画面越しに見た景色。
だが、それが“現実”になった今、思っていたよりも……ずっと重たい。
ゲームなら、ロストはするものの、何度だってやり直しが効いた。
だが、現実は違う。
無職のような職業で、ほとんど何の支援もないまま、これから塔へ向かう。
……滑稽だな。
だが、笑うより先に、やることがある。
「……ま、いいさ」
誰にともなく呟いて、俺は立ち上がった。
膝の関節がきしむ。
異世界の身体は、今もどこか自分のものではないような感覚が拭えないが。
けれど、そんなことはどうでもいい。
“攻略”という感覚は、今でも確かに、俺の中にある。
この世界がどう見ようと、どう扱おうと―― 俺はこの《塔》を、知っている。
そして、知っている者は、必ず勝てる。
少なくとも、負け続けた十年間の末に、俺はそれを掴んだ。
(……愚者か)
ならばせめて、その名にふさわしく足掻いてやろう。
俺は、夜の街へ歩き出した。 目指すは、ここの下層区域。
……ラットマンの棲みつく、あの忌々しい下水道だ。
風の抜ける下町通りに、俺の靴音が響く。
あの腐った暗闇の先に、足を踏み入れた。
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