序章-2. 塔の記憶
※書き直しました。
※この話には、主人公の“前日譚”が描かれています。
少し静かな始まりかもしれませんが、ここからすべてが始まります。
不思議な記憶、不気味なリアリティ、そして“運命をやり直す”ような物語を目指して描いています。少しでもお楽しみいただければ幸いです。
……大学生のころだったと思う。
入学したばかりの春。
周囲は“新しい友達”や“大学デビュー”に躍起になっていたが、俺は──うまくその輪に入れなかった。
特別な理由があったわけじゃない。 ただ、気がつけば浮いていた。
教室でも、サークルでも、俺は“いないもの”だった。
そんな閉塞感に覆われていたある日、いつものようにネットを漂っていたとき、 “ソレ”に出会った。
タイトルは、《塔》──Free Online Game。
制作元の情報も事前の宣伝もなかった。
まるでネットの深層から突然湧き出たように、忽然と現れたゲームだった。
舞台は、異世界ファンタジー。
世界の中心には、空を衝く漆黒のモノリスがそびえ、その周囲を、多種多様な種族と国家が取り巻く。
言語、信仰、政治、すべてが異なり、せめぎ合いながら共存していた。
プレイヤーが選べるのは、たったひとつ──種族だけ。
性別も、年齢も、地位も、外見も、名前すらも、完全にランダムで決定される。
あたかも、プレイヤー自身の“運命”が試されているかのようだった。
……俺は、どハマりした。
《塔》の目的は明快だった。
一定期間ごとにモノリスの麓に開かれるポータルから“塔”へと侵入し、最上階を目指す。
ただし、階数は不明。 中は異常に広大で、まるで本物の世界のようなリアリティを持っていた。
しかも── 一度キャラクターが死ねば、すべてが消える。
経験値、装備、人間関係──全ロスト。復活手段は、一切ない。
NPCでさえ、独自の記憶と思考を持ち、 仲間だった者が裏切り、助けを求めた相手に刺されることもあった。
難易度は、“鬼畜”の一言だった。
……大学は、やめた。
気づけば出席日数が消えていて、何度目かのキャラロストの後、退学通知が届いていた。
それでも、やめられなかった。
10年。
数百体のキャラを失い、数え切れないほどの人間関係を築き、裏切られ、消えた。
寝ても覚めても《塔》のことばかり考えていた。
現実世界の生活は、完全に機能していなかった。
そして── 誰も到達したことのない、29階層を、俺は独力で踏破した。
その瞬間、頭の芯が焼けるような熱に襲われた。
視界が歪み、耳鳴りがして、呼吸ができなくなる。
それでも、俺は立ち上がり、
──モニターの前で両腕を掲げ、歓声を上げた。
(……やった……俺が……)
──そして、ぶっ倒れた。
そして……
目を覚ましたとき、世界は変わっていた。
そこには、かつて何度も画面越しに見た、“ステータスウィンドウ”が浮かんでいた。
╔═══ SYSTEM STATUS ════╗
║ 《NAME》: ──該当なし
║ 《RACE 》: HUMAN
║ 《AGE》: 13
║ 《CLASS》: ──該当なし
║ 《SOUL CODE》: ██████
╠═══ PARAMETERS ═════╣
║ STR(筋力) : G
║ VIT(耐久) : G-
║ AGI(敏捷) : G-
║ MAG(魔力) : G-
║ MND(精神) : E
║ LUK(幸運) : ??
╠═══ SKILLS ════════╣
║ ACTIVE : ──該当なし
║ PASSIVE : ──該当なし
╠═══ TRAITS(特性) ════╣
║ ▸ ──該当なし
╚═══════════════╝
最低ランクの数値。
──そして、“空白の名前”。
何よりも、あの巨大で漆黒の《ソレ》があった。
現実よりも現実らしい空気。
肌を刺す、重く冷たい風。
空を引き裂くように、黒き巨塔モノリスが、そこにあった。
「──俺は、ゲームの中に来てしまった?」
少しでも気になってくださった方は、次話へお進みいただけると嬉しいです。
ご感想なども励みになります。どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。




