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19 ゴブリン戦の後始末

 僕がゴブリンを片づけて戻ってくると、戦いは終了。


「なんとかなったか。だが、まだ生き残りが残っている可能性がある。お前たちは周囲の警戒を」

 戦いの緊張から解放されてコンラットさんが一息つくも、ゴブリンは100体以上いた。

 いまだ森の中に隠れているとも限らず、コンラットさんは同行している騎士たちに、油断なく指示を出していた。



「ケビン。おい、しっかりしろ。まだ死ぬには早すぎるぞ!」

 そんな中、騎士の1人が、負傷している騎士の元へ駆け寄る。


 ゴブリンの錆びた剣が、体に突き刺さった騎士だ。

 剣が刺さっているおかげで、大量の出血は免れているものの、

「この剣を抜けば、おそらく大量の血が流れ出して出血死してしまう。だからと言って、この場から動かすわけにもいかないか」

 負傷した騎士の様子を見て取り、コンラットさんの表情が優れない。


 この場に医者がいればいいのだろうが、動かす事さえままならない状態となれば、この騎士の命運はもはや定まっているようなもの。


 そしてこの騎士以外にも、ゴブリンと戦っていた騎士は、誰もが大なり小なり傷を負っていた。

 かすり傷で済めば、中には腕をゴブリンに噛まれて、そこから血を流している騎士もいる。

 とはいえ剣で負傷した騎士は、このままだと生き残ることが出来ないのが確定していた。



「すぐに回復魔法を使いますね。"エリア・ハイ・ヒール"」

 というわけで、僕はケガ人たちのために、範囲型の回復魔法を唱えた。


「う、うおおおっ、さっきまでの痛みがなくなった。体の傷が塞がってるぞ!」

 錆びたた剣で負傷していた騎士の傷は、僕の魔法で一瞬で回復。

 怪我をしていた箇所は、最初から怪我がなかったかのように完全に塞がっている。


 さらに周辺にいた騎士の怪我も、丸ごとすべて回復。


「えっ、俺の腕の怪我が!?」

「足の傷が治った!?」

「おい、お前の顔あった古傷が消えてるぞ!?」


 怪我が一瞬で回復したことで、騎士の皆が驚いていた。

 僕の回復魔法の場合、よくありがちな古傷は回復魔法で直すことが出来ない。なんてお約束は、全く関係ない。

 古傷でも、問題なく回復させることが出来た。


「もしかして、これは勇者様の魔法ですか?」

「そうですけど、何か変でしたか?」

「い、いえっ……それどころか、これ程高位の回復魔法を使われて、お体は大丈夫なのですか?」

「カラダ?」

「魔力切れや、魔法の反動です。これだけの大魔法となれば、勇者様とてただでは済まないでしょう」

「いや、全然平気。問題ないですけど」


 平気も何も、この程度の回復魔法なら、僕は連発してポンポン使い続けれられる。

 なのにコンラットさんが、僕を滅茶苦茶心配した目で見ていた。


「本当に、全く問題ないですよ」

「勇者様、いくら何でも無茶はダメです。あれだけの戦いをした上に、高位の回復魔法を使われたのです。後の警戒は我々がするので、ゆっくり体を休めて、動かないでいてください」

「え、あ、はい。分かりました」

 コンラットさんが逆らってはダメそうなオーラまで出したので、僕は大人しく頷いておくことにした。


 僕、何かやらかしたっけ?

 ゴブリンと戦って、それから回復魔法を使っただけなのに、どうしてここまで心配される羽目になるんだ?


 ……ま、いいか。

 それより僕としては、気になることがある。


 コンラットさんや騎士たちは、戦いの直後で気づいてないようだけど、リゼとカリンお姉さんが、不気味な表情のまま対峙していた。


「……」

 カリンお姉さんはまるで肉食動物に襲われ、ショックで動けなくなったかのように固まっている。


 その前でリゼが、髪を片手でかきあげて、フッと笑っていた。

 笑っているんだけど、リゼのいつも笑いなので、目だけが全然笑っていない。



「カリンお姉さん、怪我はなかったですか?」

 だけど、僕は努めて明るい声を出して、その中に入っていくことにした。


 もっとも心の中は、表情ほどにこやかでいられない。

 リゼ、頼むからその笑いは止めてくれ!

 僕だって怖いのに、カリンお姉さんにまでそんな笑顔を向けたら、失禁物の怖さがあるって!


「……ゆ、勇者、様?」

「あれ、もしかしてさっきの戦いが怖かったんですか?大丈夫ですか、僕が出来る事なら何でもしてあげますよ」

 顔がこわばり、ろれつが回っていないカリンお姉さん。


 相当リゼに脅されたなと僕は心の中で思いつつも、表面ではエンジェルスマイを浮かべ続ける。

 そして緊張でこわ張った、カリンお姉さん手を握ってあげた。

 緊張をほぐすために、手を軽くもんでいってあげる。


「もう大丈夫ですよ。ゴブリンはすべて退治しましたから」

「は、はい……」

「カリンお姉さん、怖かったんですね」


 ――ドサッ

 僕がそう言うと、カリンお姉さんが糸の切れた人形のように、尻餅をついて地面の上に座り込んだ。


「わっ、お姉さん!」

「う、うううっ、こ、怖かったー!」

 その後、カリンお姉さんはまるで子供に戻ってしまったかのように、地面の上で泣き始めてしまった。


 そんな姿に僕は……あっ、この視点からだと、カリンお姉さんの胸を上からのぞくことが出来る。……おおっ、谷間が!


「これだから殿方は……」

「シオンのエッチー」

「バリバリ、ボリボリ」


「いや、これは単なる不可抗力で、僕は何も悪く……イデ、イデデデデデデー」


 せっかくのラッキースケベ。

 だったのに、僕は幼女3人組に耳を引っ張られ、その場から連れ出されてしまった。


「ああ、カリンお姉さーん!」

 地面に崩れ落ちたカリンお姉さんが心配だけど、そんな僕のことなどお構いなし。

 僕は見た目だけ幼女3人組に、連行されて行くのだった。





 さて、幼女3人組に連行されてしまった僕だけど、コンラットさんやカリンお姉さんから引き離された場所に連れてこられたので、ちょうどいい。


「リゼ、あんまりカリンお姉さんを脅したらダメだよ」

 ついさっきまで幼女3人組に連行されてしまう、情けない姿をしていた僕だけど、直ぐに気を取り直してリゼに注意だ。


「ホホホ、別に脅すというほどじゃありませんわよ」

「リゼはそのつもりでも、他の人が見たら物凄く怖いんだから、少しは手加減してあげようよ」

「あら、わたくしがそんなに怖いですかねえ?」


 またしても笑顔だけど、目が全然笑ってないリゼの笑顔が発動。


「……リゼ、その顔止めた方がいいよ。シオンが本気で怖がるから」

「リゼはその顔で、シオンに嫌われればいい。クックックッ」

 絶があきれ果て、さらに珍しいことにヤヌーシャが、ポッキー以外のことで反応している。


「なっ、私のどこが怖いんですか?全然怖くないですよね。ねえ、シオン様?」

「リゼ、頼むから笑顔のまま僕に迫ってこないで」

「……」

 リゼの笑顔に迫られ、僕は思わず2、3歩その場から後退してしまう。


「……わたくしの、何がいけないのかしら?」

 リゼが首を傾げて、そんなことを呟きだす。

 僕に本気で怖がられていると、理解してないようだ。


「リゼって、無自覚なんだね」

「ポリポリリッ」

 絶はまだ呆れたまま。

 ヤヌーシャはいつものようにポッキーを取り出して、早速食べ始めていた。

 たた、いつもよりポッキーを噛む音が軽やかで、どことなく上機嫌な気がする。


 あくまでも、僕が勝手に思っただけだけど。




「ふうっ。わたくしの何が悪いのかは分かりませんが、とにかくシオン様に嫌われるのはイヤですわね」

「よかった。じゃあ、その笑顔はもう2度としないということで」

「わたくしの笑顔は、怖くないですわよね?」

「……」

 だからやめて、その笑顔で、僕に迫ってこないで!


「……うん、全然、怖く、ない、よ」

 だけど悲しいかな。

 外っ面のいい日本人気質な所がある僕は、自分の本心に反して、リゼの望む答えを口にしてしまった。


 ああ、僕のバカ!

 ここは本当のことを言わないといけない場面なのに!


「それはよかったです」

 結局、僕はリゼの笑顔を修正することが出来ないまま、この話は終わりとなってしまった。


 ああ、自分の性格が恨めしい。



 ただ、何事も悪いことばかりではなかった。

 この話の後、リゼはこうは言ってくれた。


「わたくしは、シオン様の遊びに口出ししませんので、"勇者ゴッコ"は続けていただいて構いませんよ。もっとも、わたくしは邪魔をしないだけなので、シオン様の遊びに協力するわけでもありませんが」

 と。



 僕たちにとって、この世界に召喚されたこと。その後勇者様御一行扱いされ、ギルドで討伐依頼をこなしている事。ここでの戦闘。

 これらすべては、ただのゴッコ遊びでしかなかった。


 いや、正確には僕だけがしている遊びで、リゼたちはそんな僕を見ているだけだった。

 僕たちは、本物の勇者ではないからね。

 正体は、むしろ真逆だ。


後書き



【悲報】作者さん力尽きる。

 というわけで、次回の更新がいつになるか不明です。

 も、もしかしてまた未完の危機が……

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