20 勇者様歓迎される
オーガを退治し、さらにゴブリン軍団も片づけた僕たちは、無事に街へ戻ってきた。
ギルドでの報告を済ませ、誰一人犠牲のなかったことに、山賊王マスター……じゃなかった。ギルドマスターに驚かれ、さらに飲んだくれのギルド員たちからも、大きな驚きを持って迎えられた。
「酒を飲んでけ。祝い酒だ、祝い酒!」
「俺たちが奢ってやるぜ!」
ゴブリンとオーガを倒しただけ。
たったそれだけなのに、なぜかもみくちゃにされ、さらに酒まで飲まされてしまう。
"お酒は20歳になってから"。
僕の故郷でも日本でも、全く同じ法が存在しているけど、この世界での成人は13歳から。
ってことは、ここで僕が酒を飲んでも、全く問題ないね。
「じゃあ、遠慮なくいただきまーす」
ゴクゴクゴク
「ゲホッ、ゴホッ。マ、マズイ……」
この世界舐めてた。
料理がマズいだけでなく、酒までマズかった。
なんというか……言葉にできないマズさだ。
ビールを始めて飲んだら苦かったとか、ワインは全然ブドウの味がしないとか、そんなちゃっちなレベルじゃない。
なんだこれは……小便臭い。口の中にやたらと残る臭さは、アンモニアか!?
「ありゃりゃ、子どもに酒は早かったかねー」
「あーあ、吐き出してもったいねえー」
飲兵衛ギルド員どもに呆れられてしまったけど、僕はあえて言わせてもらう。
「これはまともな人間が飲んでいい物じゃない!」
「ああんっ、うちの酒が飲めねえってのか?」
「そうだよ、不味すぎる!」
酒を出しているギルドマスターが、凶悪な顔をさらに凶悪にして睨んできたけど、僕は断固として自分の意見を貫かせてもらう。
「これを飲んだら、死ぬ!」
「……このクソガキが!」
普段穏健な僕でも、さすがにこの酒には堪忍袋の緒が切れてしまったよ。
そのために僕とギルドマスターの間で一触触発の事態。
「ホホホホホッ」
だけど、その間にリゼの軽やかな笑い声が響いた。
「……」
「ホホホホホホーッ」
――スッ
リゼが笑い続けるものだから、マスターはそっぽを向いて歩き去った。
かつてリゼに口喧嘩でボロボロにされた傷が疼いたのか、戦わずに逃亡するマスター。
マスターって毛生え薬が効かないだけでなく、なんと過去に奥さんと子供にも逃げられてるらしい。
「なんでそんなことを知ってるんだ!」と、リゼには突っ込みたくなるけど、マスターにとって物凄く痛い過去を、以前口喧嘩した時にリゼがたくさん暴露していた。
でも、リゼが知ってるマスターの弱点は、あれで全部じゃないんだろうなー。
そんなリゼの笑いを前にして、マスターに勝ち目などあるわけなかった。
それはそれとして。
酒は不味かったので、それ以上飲むのは止めた。
あとは料理をたくさん振舞われたけど、味が相変わらずだった。
この世界、本当にろくな食べ物がないなー。
でも、飲兵衛のギルド員は、飲めや歌えやで気分を良くして、
「勇者様、今度機会があれば、ぜひともうちのパーティーに参加してくれよ」
「いいや、俺のパーティーと組んでくれ」
「俺のところに来たら、ドラゴンだって倒せるかもしれねえぞー」
「ワハハハー」
ギルド員たちは、僕を勧誘目的で祝ってるみたいだった。
「コホンッ」
もっともこの場には、コンラットさんを始めとする騎士たちがいるので、ギルド員たちの勧誘は、そこまで強引なものにならずに済んだ。
パーティーに強いメンバーが来てくれれば、それだけ難易度の高い依頼をこなせるようになる。
そんな目論見があっての勧誘だろうけど、僕って一応魔王軍と戦う予定の勇者だからね。
勇者が魔王軍と戦わず、ギルドの仕事しかこなさなくなったら大問題だ。
ま、僕は魔王軍と戦うつもりは、今のところ全くないけど。
そんなギルドでの出来事があった後、僕たちは街での活動拠点である城へ戻った。
「此度のオーガ討伐は見事である。さらにゴブリンの大群がいたそうであるが……」
城へ戻ると、なぜか謁見の間へ連れていかれ、そこで国王様の長い話に付き合わされてしまった。
要約すると、
『オーガとゴブリンの討伐ありがとう』。
ってだけの内容を、表彰するものだった。
騎士と僕たち。たった16人のメンバーで、特殊個体の混じったオーガの群れを倒し、さらにゴブリン100体以上を討伐する。
これは、普通であれば犠牲なしで成し遂げられる成果ではないそうだ。
人間基準だとそうなのだろうけど、僕個人としては、どうしてそれくらいのことで国王様に呼び出され、わざわざ表彰されるのか謎だった。
そして話はそれだけなのに、例によってお年寄りの話は長い上に、脱線しまくる。
「これも勇者を召喚することを決めた、ワシの先見の明ゆえである。思えばかつてワシも若い頃に、戦場に出て初陣を飾ったものであるが、あの時は魔族の軍勢を相手に縦横無尽の活躍をし……」
国王様は今回もまた、自分自慢を始める始末だった。
以下、ウンタラカンタラと自慢を続けて、なぜか若い頃の話にまでさかのぼっていく。
戦場で活躍したって言うけれど、あんなぽっちゃり体型で、本当に戦場で活躍できたのかな?
昔はもしかして痩せてたのかな?
それはとかく、オーガとゴブリンを倒したのは、僕とコンラットさんを始めとする騎士たち、そしてカリンお姉さんなのに、どうして国王様の功績になるの?
自分が一番偉い責任者(国王)だから、部下'(臣下)のしたことは全て自分の功績だと思っているの?
玉座に座っていただけで、現場で何もしてないのに。
「さすがは国王陛下でございます」
「国王陛下バンザーイ」
「ミューズハイト市国、バンザーイ」
その後、国王様の自慢が終わったかと思えば、周囲にいる臣下たちが、思い切りヨイショしていた。
それに対して、国王様は厳粛な顔をしつつも、口の端が微かに曲がって嬉しそうに笑っていた。
「……ああ、こんなのばかりだから、この国ってダメなんだ」
自分自慢好きの国王に、簡単にヨイショする臣下。
こんな人間ばかりで、この国って大丈夫なのかな?
もっとも準備が終われば、この国の王族を纏めて追い出して、貧民街にでも送り込もうと計画しているのが僕だ。
なので国王が有能でも無能でも、関係ない話だよね。
ところで今回の表彰だけど、国王様の話を聞かされまくっただけで、金一封ももらえなかった。
この国、本当にダメだね。
そして、これ以上によくなかったのが、謁見の間を後にしてから。
「さすがは勇者様。オーガを退治しただけでなく、ゴブリンの大群相手にも大活躍なさるなんて、素敵ですわ」
「……」
か、顔の右半分が引き攣って、痙攣してしまいそう。
僕の目の前では、白豚王女様が、うっとりと顔を赤く染めていた。
その体からは、メス豚特有の発情期を感じさせるフェロモンが漂っている。
「勇者様、ぜひとも今回の戦いのご活躍をお聞かせくださいな。よければ、わたくしの部屋でお話いたしませんこと」
僕の手を掴んできて、グイグイと引っ張り出す王女様。
「メス豚が……」
「ムウッ!」
「ガリ、ゴリゴリ」
そんな僕の背後では、幼女3人組が物凄く不穏な気配を漂わせていた。
特にヤヌーシャ。一体何を噛み砕いてるの?
絶対にポッキーを食べて出る音じゃないよね!?
「い、いやー、さすがに戦いで疲れたので、今日は休ませてください。とても疲れてしまいましてー」
マジで勘弁してください、白豚王女様。
キラキラと目を輝かせて、少女漫画みたいに背景を輝かせなくていいから。
元が白豚なので、どんなに少女漫画効果を付けても、可愛くないから!
「そうなのですか、それは残念ですわ。ならば、わたくしが勇者様のお部屋に」
……ノウッ、白豚王女が僕の部屋に乗り込んでくる気満々だ!
「コホン、シオン様はとても疲れています。王女様はお引き取りください!」
「ですが、お部屋に伺うくらいはよろしいのでなくて?なんでしたら、疲れに効くハーブティーを用意させましょう。誰か、勇者様のためにハーブティーの用意を」
この後、リゼと白豚王女様が、僕を巡って火花を散らし始めた。
……物凄く勘弁してほしい。
誰か助けてー。
「クソ豚め。今は我慢しますが、シオン様の遊びが終わった後、生まれてきたことを後悔させてあげますわ。ホホホホホー」
この後王女様とのやり取りが終わって、なんとか無事部屋まで引き上げることができた。けど、リゼは物騒なことを口にしていた。
「マザー、その時はご協力いたします」
「マザーとシオン様の敵は、我々の敵です」
「まずは豚用の餌を用意しましょう」
そしてリゼだけでなく、その子供であるセラ、ツェリ、アンの、3人スライムメイドたちまで加わっていた。
この3人、どこから湧いてきたんだ?
いや、今は城勤めを堂々としているので、いきなり出てきても不思議ではないのだけど。
でも、白豚王女様、ごめんなさい。
僕は邪悪で、狡猾で、人間の振りをしている魔族に、王女様を大人しく差し出すことにします。
だって、王女様を助けようなんてしたら、間違いなく僕が惚れられてしまうよ。
イヤだ、白豚に好意を寄せられたくなんてないー!




