18 ゴブリン軍団
皆さんこんにちは、シオンです。
前回、何の問題もなくオーガ討伐を果たしたわけですが、世の中には常に不測の事態が付きものです。
あの後、僕たちは森を抜けて街へ戻ろうとしたのですが、その途中でゴブリンの集団に見つかってしまいました。
数は100くらい?
もっと多いかな?
多すぎるので、正確に数える気が起きませんね。
『ギャーっ』
向こうは殺る気満々で、雄叫びを上げてました。
すでにターゲットされていて、逃げるのは無理な状況。
「マズい、この数相手だと……」
さすがに100体ものゴブリン相手では、騎士が10人いる僕たちのパーティーでも大ピンチ。
コンラットさんが、いつもように表情を青くしているけど、なぜか途中で僕の方を見てきた。
「問題ないですよ。でも数が多いので、コンラットさんたちもちゃんと戦ってください」
「分かってます。我らとて騎士。勇者様1人に戦わせるつもりはありません」
よかった、コンラットさんたちも戦ってくれるなら問題なしだ。
さすがに僕でも、一度に100体のゴブリン相手は無理だ。
魔法を使えば瞬殺できるけど、それはさすがにダメだよね。
そんなことしたら、今までやってきた"勇者様ゴッコ"が、ガチの"魔王様降臨"になってしまう。
一つの魔法でゴブリンの大群瞬殺とか、勇者じゃなくて、魔王のやることだ。
僕は魔王の息子であって、魔王当人ではないけど、似たようなものだしね。
というわけで、僕は魔法なしでゴブリンと戦うことにした。
「僕は突っ込むので、抜けた分はよろしくお願いします」
僕は勇者の剣を片手に疾走。
「分かりました、御武運を」
「コンラットさんたちも」
僕の実力はこれまでに十分見せたので、コンラットさんは僕の実力を疑ってないようだ。
僕はゴブリンの群れに向かって走りながら、まずは事前に量子ドライブの中から取り出しておいた、アダマンタイト製のダガーを投げた。
投擲用に作られてるダガーだけど、その形は忍者が用いるクナイに似ている。
柄の部分には丸い輪っかが付いていて、ここにロープを結びつけて投げれば、投擲したダガーの軌道を変えたり、ロープを木の上に引っ掛ける際に利用したりと、工夫次第で様々な使い方をすることが出来た。
今回の投擲では、ここに不可視の透明な糸を結んでいる。
――ガッ
まずは投げたダガーが、ゴブリンの顔面に命中。
アダマンタイトの鋭い切れ味と、僕のステータスのおかげで、ダガーが顔にめり込んでいる。
即死確定。
しかし、倒したのは100分の1のゴブリン。
味方が1人やられた程度でゴブリンの勢いが止まるはずもなく、軍団となってゴブリンが迫ってくる。
「じゃ、死のうか」
そこで僕は、先ほど投げたダガーに結び付けていた、透明な糸を引っ張る。
この糸はダガーから僕の手元まで伸びていて、実は触れると斬れる。
ダイアモンド製の細かい粒子で満遍なくコーティングされていて、それがノコギリの刃のような鋭さで、振れるものすべてを切り裂いた。
僕が糸を引っ張ると、それだけで最初に倒したゴブリンと僕の間にいたゴブリンが、纏めてズバズバ斬れて行く。
頭に線が入り、頭蓋骨ごと真っ二つに切断。
体が斜めに切れて、上半身がずり落ちていく。
首を綺麗に刎ねられた者もあれば、致命傷にならなかったものの、腕や足を切断されてしまう者が、次々に生まれていく。
この糸でゴブリン軍団のうち、実に20を超える数が戦闘不能に陥った。
「な、なんてすごい魔法だ」
「いやいや、魔法じゃないんですけどね」
僕の後ろにいる騎士から、驚きの声が上がる。
でも、これは魔法じゃなくてただの糸。
今日から僕のことは、『必殺仕事人』とでも呼んでください。
まあ、本家の方は糸で相手の首を縛って殺してるけど、その辺の小さな差は気にしないでもらいたい。
「ゴブッ、ゴブブブッ!」
と、一度に20体のゴブリンを始末したからか、ゴブリンたちに警戒されてしまった。
僕への突撃を一時中断。
かわりに後方にいたゴブリンメイジが、魔法を唱えだした。
――ヒュッ
魔法を使われると面倒なので、ダガーをもう一本投擲。
――ガンッ
「あちゃー、防がれたか」
投げたダガーはゴブリンメイジに直撃するより早く、その前に立ちふさがった大型のゴブリンの盾に突き刺さってしまった。
ゴブリンジェネラル。
通常のゴブリンより大きな体躯をしたゴブリンで、物理的な攻撃力と防御力に秀でた個体だ。人間の様に鎧兜を装備している者もいて、ゴブリンにしては強い方だった。
あくまでも、あくまでもゴブリン基準での強さだけど。
「グガーッ」
そして僕の投げたダガーは、アダマンタイト製。
ゴブリンの盾を半ばまで貫通し、ダガーの先端が、盾を持っていたゴブリンジェネラルの腕まで届いていた。
ゴブリンジェネラルは腕を負傷。
とはいえ、腕を怪我しただけで、致命傷には程遠い。
「勇者様、援護します。ウインドカッター」
「ゴブブブッ!」
そしてゴブリンの魔法が完成。
放たれたのは風魔法ウインドカッター。
そして僕の後方にいるカリンお姉さんも、ゴブリンの風魔法に対抗して、同じくウインドカッターを放った。
2つの風の魔法が空中で激突し、バシンっと音をたてて相殺される。
「カリンお姉さん、ありがとう」
「勇者様、私の方を見ないで、前を見て!」
ありゃ、せっかく僕を助けてくれたカリンお姉さんにお礼を言ったのに、前を見なさいと言われてしまった。
むうっ、残念だ。
そして僕がカリンお姉さんに向かって手を振ってる間に、ゴブリンからさらに追加の魔法が放たれていた。
アースニードル。
鋭いニードル上の岩を飛ばしてくる魔法。
僕が無意識に放出している聖力は、闇魔法に対しての耐性が高いけど、それ以外の魔法に対する耐性は、少し落ちてしまう。
とはいえステータス差があるので、別に直撃を受けても問題ないレベルだ。
しかしカリンお姉さんが見てる前なので、ここは格好つけで、飛んでくるアースニードルを勇者の剣で叩き落した。
いやー、実に軽い一撃だね。
「"疾風"っ」
そして僕は一刀掃滅流の技を用いて、一気にゴブリンたちとの距離を詰める。
ゴブリンが僕を警戒して間合いを取ろうとしても、そんなのは無駄。
疾風を使えば、1歩歩くだけで10歩分の距離を詰め、続く2歩目でさらに20歩分の距離を詰める。
5歩歩いた時には、僕はゴブリンたちの集団に飛び込んだ。
「回転切り」
剣を振るい、周囲にいたゴブリンを纏めて斬り飛ばす。
さらに投擲用のダガーを片手に持って、それで近くにいたゴブリンの目玉を貫く。
「ガーッ」
残念。
片目を潰されてゴブリンが痛みにのたうち回るけど、ダガーが脳まで届かなかったようで、まだ生きていた。
「"飛燕脚"」
でも、そのゴブリンにかまけている時間はない。
剣とダガーを振るいながらも、攻撃の手数が足りないので、僕はさらに足を使って、ゴブリンの腹を蹴り飛ばした。
「グヘーッ」
……ごめん、訂正する。
僕的には軽い蹴りのつもりだったけど、蹴り飛ばしたゴブリンが後ろにいたゴブリンを数体巻き込んで、吹っ飛んでいった。
特に僕が蹴ったゴブリンは、口から赤い血と、それ以外に固形物っぽいものを吐き出しながら飛んでいく。
もしかして、肉塊まで吐き出してないよね?
さすがに、そこまで強く蹴ったつもりはないんだけどなー。
なんて思いながらも、僕はさらにゴブリンどもを屠っていった。
楽勝楽勝。
数が多いだけだね。
リゼの体の中で、エルダースライム軍団と戦った時より楽勝だ。
リゼの体内には、"無限の胃袋"と呼ばれる器官があるのだけど、そこにはリゼの子どもであるスライムが大量に生息している。
しかも数は千どころか万を超えてる。下手をすると、それ以上だ。
普段リゼの体から出てくるメイドスライムたちが生活している場所で、さらにメイド以外にも、様々なスライムの住処となっていた。
僕は昔リゼに喰われたことがあって、そこでスライムたちと戦闘する羽目になったのだけど、その時戦ったスライムより、ゴブリンは圧倒的に弱かった。
そもそもあそこのスライムたちって、斬っても体がすぐに引っ付いて修復するし、炎や氷に対しては完全耐性を持っているので、全く効果がない。
電撃魔法で焼いても、ほとんどダメージが通らない体をしていた。
僕の世界のスライムは、某RPGの青いスライムと違って、強力な存在だ。
特にリゼの子供たちの中にはエルダースライムと呼ばれる、スライムの中でも特別強力な個体もたくさんいた。
それに加わってリゼの子どもたちって、メイドに擬態するだけでなく、ドラゴンやグール、死霊騎士、暗黒騎士、サイクロプスにオーガにゴブリンectect……
ありとあらゆる魔物に擬態する能力を持っているため、魔界にいるすべての種類の魔物に姿を変えることができた。
なのであの中は、"プチ魔界"と言っていいほど、魔物の種類が多かった。
いや、擬態してるだけで、あこにいるのは全てスライムなのだけど、擬態先の魔物の能力をある程度再現しているので、リゼの子供たちはシャレにならない能力を持っていた。
そしてあの時僕がリゼに食われた理由だけど、昔のリゼは、僕の事が大嫌いだったからだ。
もっともその後色々あって、僕たちの関係は今のようになっている。
もともと魔界では、肉体言語で話し合いをすることはよくあること。
あの時僕がリゼに食べられたのも、魔界流の肉体言語会話というわけだった。
さて、そんなリゼの胃袋の中にいる子供たちと比べると、ゴブリンは弱い。圧倒的に。
それでも数が多いので、僕だけでは捌ききれないゴブリンが、背後にいコンラットさんたちの方へ襲い掛かっていた。
「ウインドカッター、ファイヤーボール……ハアッハアッ、魔力が長く持ちそうにありません」
迫ってくるゴブリンに対して、距離があるうちにカリンお姉さんが魔法を放って数を減らす。
しかし数発撃てば魔力の消耗が色濃くなり、額から汗がびっしりと浮かび上がる。
「敵はまだいる。私たちが前衛となって戦うので、以後は状況を見ながら援護してくれ」
「わ、分かりました……」
荒い息を吐きながら、カリンお姉さんはコンラットさんの指示に頷いた。
そして前衛を務めるコンラットさんを始めとする騎士たちが、剣と盾を構えてゴブリン軍団の突撃に対応する。
「総員抜刀、王国騎士の力を見せてやれ!」
コンラットさんが騎士たちを鼓舞する。
それに応えて騎士たちも、
「オオーッ、ここで聖女様にいいところを見てもらうぜ」
「聖獣様の加護をいただいたんだ、俺たちは無敵だー」
「ヤヌーシャちゃん、生きて帰ったら俺と付き合ってくれー!」
コンラットさんの期待に応えているのか、はたまたただの下心剥き出しなだけなのか?
一部で変な声が上がりつつも、騎士たちがゴブリンとの戦いを開始した。
――ザシュッ
騎士の振るう剣でゴブリンが斬り倒され、頭を貫かれ、奇声を上げてゴブリンが倒れていく。
鉄の剣であるため、僕の使う勇者の剣ほどの切れ味はない。
それでも騎士としての確かな実力を持って、次々にゴブリンを倒して行った。
――ガンッ
とはいえ、騎士たちもただ一方的に攻め続けるわけでない。
ゴブリンの1体が斧を持って切りかかり、それを騎士が盾で受け止める。
――ヒュンッ
ゴブリンが遠くから投石すれば、それも盾で受け止めた。
ただの石なんて、当たったところでたいしたダメージにならない。
そう思いたいけど、拳大の石が頭に命中すれば、人間はそれだけで脳震盪に陥ることもある。
あるいは、頭蓋骨が陥没したり、鼻や頬などの骨が折れてしまうこともある。
投石とは、案外バカにできない攻撃手段だった。
「クソが、剣が刺さりやがった!」
そしてゴブリンの錆びた剣を、鉄の剣で受け止めた騎士がいたけど、ゴブリンの剣が予想以上に脆すぎた。
剣で打ち合った途端、ゴブリンの剣があっさりへし折れた。
折れた刃は空中を回転しながら舞い、それが騎士の体に突き刺さった。
防具のおかげと、錆びた刃であったため、そこまでの深手を負わずに済んだ。
それでも剣の先端が体を突き刺し、騎士の1人が膝を折って地面に崩れ落ちる。
「負傷者を後方へ、援護を頼む」
負傷した騎士を助けるため、コンラットさんが指示。
傍にいた騎士たちが、すぐさまカバーに入る。
「アースニードル」
さらに後衛であるカリンお姉さんも攻撃魔法で援護に入り、負傷した騎士は別の騎士に引っ張られて、カリンお姉さんたちがいる後方に運ばれた。
もっとも後方に運んだだけで、それ以上の処置をしている余裕などない。
負傷した騎士を後方に運び込んだ騎士も、直ぐに前衛に戻って戦闘を再開しなければならなかった。
「聖女様、こいつの事を頼みました」
「ええ、分かりましたわ」
それだけを言い残して、負傷した騎士は、リゼに任されるのだった。
残されたリゼと負傷した騎士。
だけど、リゼは怪我をした騎士を見ていることしかしない。
怪我の処置をするだとか、回復魔法を使うなんてことはしない。
人間が1人息絶えた所で、彼女にとって何でもないことだから。
負傷した騎士の事を任されたリゼは、対応がかなりいい加減だった。
ところでそんなリゼと違って、絶は味方の旗色の悪さを見ていた。
「んーと、コンラットさんたちがマズそうだから、僕も戦った方がいいかな?」
「絶の好きにすればいいんじゃないですか?」
「じゃ、僕も戦ってくる」
「行ってらっしゃい」
リゼと会話を2、3言すると、絶は拳を握りしめながら、前衛で戦っているコンラットさんたちの方へ歩いていった。
――ドゴンッ
直後、絶が地面に拳を振り下ろせば、地面が吹っ飛ぶ。
吹き飛ぶ地面の土に巻き込まれて、ゴブリンが数体空中を吹っ飛んでいく。
さらに絶がジャンプし、空中から踵堕としを地面に落とせば、強烈な力で大地が抉られ、3メートル幅の大穴が出来上がる。
穴が出来る際に吹っ飛んだ土と一緒に、周辺にいたゴブリンたちがその場から吹き飛ばされてしまった。
「ス、スゲェー」
「聖獣様って、人間やめてる」
「いや、元々人間じゃないんだけどな。それにしても、あんな攻撃まともに受けたら、ゴブリンどころか人間だって……」
――パンッ
絶の余りの強さに、騎士たちが唖然とする。
直後、絶の放った拳がゴブリンの頭に命中。
ゴブリンの頭が、完熟トマトを潰す様に吹き飛んだ。もちろん頭の中にあった脳や肉、血液。それら諸々のパーツが、一緒になって弾け飛ぶ。
「ヒィエー。俺、聖獣様にだけは殴られたくねえ」
「あんな死に方は、誰だってしたくねえよ!」
絶の見た目に反する超パワータイプの戦い方を目の当たりにして、騎士たちはビビってしまった。
もっともいつまでもビビっていられるほど状況がよくないので、騎士たちはそんなことを話しつつも、目の前にいるゴブリンとの戦いを続けていった。
そんな戦いの中、ゴブリンの1体が前衛を抜けて、後衛であるカリンお姉さんたちの所へ向かった。
「しまった!」
「危ない、ヤヌーシャちゃん!」
コンラットさんとカリンお姉さんの絶叫が轟く。
「ギャー」
ゴブリンはパーティーの中でもっとも弱そうに見える、幼女ヤヌーシャに襲い掛かろうとした。
ギザギサの歯をむき出しにし、両手には鋭い爪が伸びている。そんな己の体を武器にして、ヤヌーシャに襲い掛かるゴブリン。
――ゴンッ
「ハヒッ!」
直後、能面のように無表情なヤヌーシャの蹴りが、ゴブリンの股間を直撃した。
それはもう見事な一撃で、ゴブリンどころか、さっきどさくさに紛れてヤヌーシャに告白した騎士が、思わず鎧の上から自分の股間を抑えたほど。
「ゲフッ」
股間を蹴られたゴブリンは、強烈で無慈悲な一撃を受け、泡を吹いてぶっ倒れる。
しかもこのゴブリンだけど、股間の辺りが酷いことになっていて、たった今生物学的にオスからメスへと生まれ変わってしまった。
……それだけ、強力な一撃を受けたんだよ。
こんな戦いが繰り広げられ続けたけど、
「あ、あのリゼ様も戦わないのですか?」
「なぜ、わたくしが?」
「だってリゼ様の魔法は、私なんかよりもっと強力で……」
「それは必要がないからです」
カリンお姉さんとリゼが、こんなやり取りをしていた。
「必要がないって、どうしてですか?」
「必要がないから。それが理由です」
「でも、味方の騎士も怪我をしていて。リゼ様の魔法があれば、もっとケガ人を出さずに戦うことができます」
「はあっ、いいですか。わたくしが必要がないと言ったのです。それが理由です。いいですね、"ニンゲン"?」
リゼの言葉はひどく冷たく、そして重たかった。
それはまるで、冷たく凍えた鉛を、空気に流し込んだかのよう。
――ザワッ
一瞬、森の中に重く冷たい冷気が立ちこめた。
カリンお姉さんは目の前にいるリゼに、人間とは違う、異質な化け物を目の当たりにした威圧感を覚えた。
「……」
その威圧感に耐え切れず、カリンお姉さんの歯が噛み合わなくなり、カチカチと音を立てる。
「さーて、こっちは全部片づけたけど、皆さんは無事ですか?」
そんな中、僕はゴブリンの全てを倒し、皆の元へ戻ってきた。




