16 オーガ討伐
「マズい!数が多い上に、オーガの特殊個体がいる。勇者様、ここは撤退して……」
目的のオーガがいる森へやってきた僕たち。
森に入る段階で馬に乗ってられなくなったので、馬と馬丁は、森の外で待機してもらうことになった。
その後、森の中で遭遇したゴブリンを倒しつつ、目的のオーガを見つけたのだけど、オーガの中に黒い色をした個体が混じっていた。
それが特殊個体だ。
その他にも、通常のオーガが10体。
だけど、なぜかコンラットさんが慌てていた。
「えっ?この状況で、何か慌てる必要があるの?」
マジで分からん。
「クッ、こんなところで俺たちの人生はお終いか」
「聖女様、どうか逃げてください。俺たちが時間を稼いでいる間に」
「せ、聖獣様のためならば、俺の命なんて安いもんだー!」
……ハイッ!?
騎士の皆さんまで覚悟を決めて、今から死にゆく者のような有様。
「ううっ。私、どうしてこんなところにいるんだろう」
カリンお姉さんも、涙目になっていた。
「ねえ、絶?これどういうこと?」
「僕に聞かれても、分からないよー」
周りの取り乱しように、僕と絶は全くついていけない。
「所詮ただの人間ですからねぇ」
「人間だと、これが普通なの?」
「多分そうなのでしょう」
リゼは伊達に長年生きてるだけあって、僕や絶より人間の事に詳しかった。
とはいえリゼにしても、確信があるというほどではないようだけど。
「えっと、とりあえず戦いますね」
「ゆ、勇者様1人では無理です。私たちも加勢しますので……」
――ウガーッ
なんてやってる間に、オーガの1体が突進してきた。
オーガは鬼の一種で、体長は2メートルを越える、筋肉モリモリのマッチョマンだ。
拳の一撃で木をへし折ることができ、その威力を前にすれば、人間なんて簡単に吹き飛ばせる……のかな?
もっとも、全身がアダマンタイトでできている、"未来から来たっぽい殺人ロボット"に比べると全然弱い。
『デデン、デンデ、デン』
なんて音楽を流しながら、ショットガンをぶっ放すロマン仕様ロボットが、僕の世界にいるんだよ。
『こいつはな、本家本元と違って、溶鉱炉に落ちても溶けないんだぞ!』
なんて、殺人ロボットの事を自慢していたのは父さんだった。
あのロボットは、父さんの無駄なロマン趣味が原因で、開発が指示され、作られたんだよね。
でも僕、アレをうっかり切っちゃったんだけど……
バレなかったからよかったけど、壊れたロボットを見て、父さん滅茶苦茶落ち込んでたなー。
そんな殺人ロボット(ロマン仕様)と比べれば、オーガなんてただの雑魚。
アダマンタイトに比べれば、モリモリ筋肉なんてただの肉だからね。
「一刀掃滅流、"一刀殲"」
と言うわけで、僕は勇者の剣を使って、お爺ちゃん直伝の剣技を振るった。
今回、量子ライフルは使わない。あれはあくまでもハンティングで使うための、趣味の道具だ。
そして一刀殲と言う技だけど、これは単に剣を下から斜め上へ切り上げるだけ。
切り方としては、袈裟懸け斬りを、ちょうど反対からした形になる。
でも剣を切り上げただけで、オーガの体が下から斜め上へ、綺麗に切断されていった。
さすがは勇者の剣。オリハルコン製なだけあって、オーガの体を抵抗なく切断できた。
剣がオーガの体を通過すると同時に、切られた箇所から黒い粒子が生まれ、オーガの全身へと広がっていく。そして粒子は空気中へ溶けるようにして、消えていった。
一刀掃滅流派は、ただの一撃で敵を屠ることを目的とした技。
斬る際に、魔力を用いることで、敵を消滅させることが可能だった。
相手を塵一つ残すことなく消し去る、魔性の剣技と言っていいだろう。
「す、すごい。オーガをただの一撃で」
「跡形もなくなった」
「これが、勇者様の力……」
オーガを倒しただけで、騎士の人たちが驚いてる。
「まだ来るので、気は抜かないでください」
驚くのはいいけど、オーガはまだまだ残っている。
注意力散漫になって、死なないように気を付けてほしい。
まあ死んだとしても、僕が蘇生魔法を使えば生き返るけど。
そして最初に突撃してきたオーガに続いて、さらに後続が次々と僕たちめがけて突っ込んできた。
「"一閃"、"回転切り"、"疾風"っ」
対して向かってくるオーガに、僕はお爺ちゃん直伝の剣技で対応する。
"一閃"の一撃で、オーガの体に右から左へ線を描くように切れ込みが入り、その後上下に切断された体が、別々の方向へ向かって倒れていく。
"回転切り"をすれば、僕を包囲しようとしていたオーガ3体を、纏めて切り捨てる。
"疾風"で、高速移動。
ただの1歩で、10歩分の距離を移動し、その際すれ違ったオーガ5体を切り捨てた。
「おっと、危ない」
なお、オーガの返り血を浴びると汚いので、切り捨てながらも血を浴びないように気を付け、こまめに移動する。
ほんの半歩体をずらすと、先ほどまで僕がいた場所に、オーガの血がバシャリと音をたてて飛んできた。
あっ、地面で跳ね返った血もあるので、これはジャンプして回避しとこう。
でも、たったこれだけで、オーガは壊滅状態だ。
あとは特殊個体の黒いオーガが残るだけになった。
本当、オーガって雑魚だ。
弱すぎる。
「す、すげえっ。圧倒的だ……」
なお、騎士の人たちがポカンとした顔で僕を見ていた。
この人たちって、何しにここに来たんだっけ?
えーと、リゼたちと同じで、単なる観客?
戦っているのは僕だけ。
僕は"勇者ゴッコ"をしているのでこれでいいけど、リゼたちは僕と一緒になって"ごっこ遊び"に付き合ってる訳ではなかった。
彼女たちは、僕がここにいるから単についてきただけ。それ以上でもそれ以下でもない。
オーガ相手に、戦う意思など微塵もないので、僕の姿を眺めているだけだった。
ちなみに、戦う僕の姿を見ているリゼたちだけど。
「ワー、シオンかっこいい」
と、無邪気にしているのが絶。
「そうですか?あんな木っ端モンスター相手に戦うのが、格好いいんですかねぇ?」
「ポリポリポリ」
絶だけ無邪気で、あとの2人は全く興味なしだった。
そんな観客たちがいるけど、残るオーガはあと1体。
――ウラボアーッ
最後に残ったオーガだけど、僕が殺したオーガたちのボス気取りだったのか、物凄い声で吠えてきた。
吠えながら腕を振るい、近くにあった木の幹を粉砕。
それにして、もうるさいなー。
近くにいるんだから、そんな大声で吠えなくてもいいのに。
――ズズンッ
という音が響いて、幹を木っ端微塵に砕かれた木が、地面へ倒れていった。
「はいはい、僕も同じことが出来るけど」
――ヒュッ
対抗して僕も勇者の剣を振るえば、木の幹を斜めに切断する。
そのままオーガがしたのと同じように、僕が切った木も地面へ倒れていった。
ズズンッと、またしても木が地面に倒れる音がする。
それと同時に、オーガが僕へ向かって突進してきた。
今までのオーガたちより、動きが速い。
踏み込んだ瞬間、地面が抉れる程強力な力があった。
だけど僕の目から見ると、やっぱり遅いんだよね。
コンラットさん相手に試合した時みたいに、超速度で漫画を一冊読む時間があるほど、超ノロノロ移動だ。
ああ、弱すぎるな。
と言うわけで、僕は突進してきたオーガとすれ違いざま、勇者の剣を袈裟懸けに振るった。
アダマンタイトで出来ていない体では、勇者の剣で簡単に切れてしまう。
まるで豆腐を切るみたいに、パックリとオーガの体が切り裂かれ、体が斜めにずれ落ちて倒れていく。
「グ、ガーッ」
だけど、しぶとい。
死ぬ間際、オーガは倒れながらも咆哮を上げ、黒い闇を放ってきた。
ダーク・ランス。
闇魔法の一種で、死ぬ間際にオーガの放った魔法の一撃が僕へ迫る。
でも、その一撃に対して、僕が何かする必要はなかった。
僕は大天使の加護持ちで、膨大な聖力を有している。その力は僕の周囲に、自然とこぼれ出していた。
もともとのステータスがおかしなレベルにあるせいで、無意識レベルで零れている力だけでも、馬鹿にならない。
そんな零れている聖力の力に触れた瞬間、ダーク・ランスの力が減衰し、すぐさま威力を失って霧散。消滅していった。
格下オーガの魔法攻撃など、こんなものだ。
こうして僕は、無傷でオーガを倒した。
でも、ひとつだけ気がかりなことがある。
「リゼ、もしかしてこのオーガも、スープにするの?」
「そのつもりです」
ゴブリンの時もそうだったけど、またしてもスープになるのか。
「あのさ、オーガっておいしいの?」
「おいしく作るので、ご安心ください」
「……」
う、うん。
リゼの美味しいって、信用できない。
というか、元がマズい肉だったら、どんなに手を加えても、マズいままだろう。
僕、マズいお昼ご飯なんて、食べたくないんだけどー。
「い、一瞬でオーガの群れを全滅させた!」
「勇者だ、本物の勇者様だ!」
「ウオオーーー、勇者様ー!」
僕がマズいお昼ご飯を気にしている一方、騎士の人たちが雄叫びを上げていた。
なんだか感動してるようだけど、うるさくしないでいいです。
さっきのオーガより、うるさいから。




