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15 聖女様と聖獣様とケダモノ様

 なんだかんだで騎士が10人に、僕とリゼ、絶、ヤヌーシャ、コンラットさんにカリンお姉さん。

 さらに馬の世話をするための馬丁が4人加わって、総勢20名になるパーティーになってしまった。


 馬は世話が必要な動物で、そのためには専属の馬丁が何人も必要になる。

 とはいえ今回の場合、たった4人で済んでいるのが、不思議なくらいの少なさだった。

 ファンタジーゲームみたいに、ただ平原を走らせて、便利な移動手段で済まないのが馬と言う生き物。

 現代の車でもガソリンを入れて、メンテナンスが必要。

 まして馬は生きている以上、食べたり飲んだり、排せつ物を出す。さらに毛並みを整えてやり、怪我や病気に注意したり。

 馬の世話に関しては、ものすごい量の仕事が必要だった。



 そんな20人のパーティーを引きつれて、僕たちは街を出て、オーガ討伐のために移動する。

 なんだかここまでくると、ギルドの依頼というより、ちょっとした遠征隊って感じだ。


 目的のオーガがいる森までは1日でたどり着けないので、初日は平原にテントを張っての野宿となった。


 なお、テントの設営に関しては騎士の人たちがテキパキこなしてくれたので、召喚された僕たち勇者様ご一行様は、見てるだけでよかった。


「テントの建て方なんて、もう忘れちゃったなー」

 僕は"異世界留学"して、日本の小学生の頃にキャンプに行ったことがある。けど、だいぶ前の事なので、テントの建て方なんて忘れていた。


 それに、そういう雑事はいつも周りの人が全部してくれる。

 魔界のプリンスなので、付き人が全部してくれるんだよね。




 ところで、街の外でキャンプって、ワクワクするね。

 満点の星空の下で、皆と焚火を囲んで過ごす時間。

 夕食は、リゼがその辺にいたゴブリンを捌いてスープを作り、騎士の人たちに御馳走していた。

 スープと言っても、結構ドロリとした液体をしていて、食べ応えがかなりある。


「ありがとうございます、聖女様!」

「聖女様の飯が食えるぞ!」

「クウウッ、俺今回のオーガ討伐で死んでも、悔いがない!」


 ゴブリンスープって、クソマズいんだけど。

 そんなマズいスープをもらった騎士の人たちが、滅茶苦茶感動していた。

 全く美味しくないのに、どうして嬉しがるんだ?


 そしてリゼが"聖女"って、どういうこと?

 騎士の人たち、目が曇りすぎてるって。

 リゼの正体は聖女どころか、魔王級のスライムだよ。

 昔は、都市を支配していたこともある大魔族なのに。



「聖獣様、どうか我々に加護を」

「偉大なる聖獣様ー」

「伝説のご加護をー」


 あと、絶はキャンプになった時点で黒麒麟の姿から、いつもの幼女姿に戻っていた。けれど、騎士の人たちに囲まれ、跪かれていた。

 そして、宗教儀式みたいなことになっている。

 こういうのって、話の中にいる人たちにとっては当たり前の事なんだろうけど、外野である僕たちから見ると、物凄くヤヴァイ光景にしか見えない。


「ね、ねえ、シオン。僕、どうしたらいいのー!?」

「さあ?とりあえず、"頑張ってね"って、言っておげればいいんじゃない?」

「が、頑張ってね」

 僕に聞かれても困るけど、狼狽える絶にアドバイスしておいた。



「ウオオオ、御加護だー!」

「聖獣様にお声を掛けられたぞー!」

「俺たちは不死身だー!」


「ヒエッ!」

 ……ああ、騎士の人たちがおかしなテンションになってしまった。

 絶が怯えてるのに、あの人たち全然気づいてないよ。



 僕の"馬"を、あまり怯えさせないでもらいたいねぇ。



 でも、精神的に関わり合いになりたくないので、僕は彼らから視線をスッと逸らした。

 桑原桑原。こういう危ない人には、近づかないのが一番だ。



「聖獣様、どうかわたくしにもご加護を」

 と思っていたら、なんとカリンお姉さんまで危ない人たちの同類だった。


「う、うわーん。シオーン!」

「……よしよし、絶。怖くないからな」

 あーあ、あまりに変な人たちばかりだから、とうとう絶が泣き出しちゃったよ。

 僕はそんな絶の頭をなでて、落ち着くまで待ってあげることにした。


 それにしても、どうしてこうなるんだか。

 オーガ退治に行くだけなのに、なぜこうなる?





 そして翌日。


「おはようございます、シオン様。昨日はお楽しみいただけましたか?」

 ウッフン。

 色気づいた声を出して、肩から外れかけたキャミソールを元に戻すリゼ。

 その際キャミソールの隙間から、リゼの雪の様に白い肌と、二房の胸がのぞく。


 今、僕たちはテントの中で起きたばかり。

 寝る時は男女別々のテントだったけど、いつものように夜中にリゼが僕のテントに入ってきた。そしてそのまま、寝ている僕の下に潜り込んでいた。


「そうだね。とっても気持ちよかったよ」

 でも、これは僕たちにとっていつもの事。ただの日常だ。


 なので、僕も普通にリゼの胸に頭を押し付けて、眠っていた。

 相変わらず爆睡できる心地良さ。二つの膨らみを枕にしてると、そのまま永遠に寝てられるってくらい、素晴らしい。


 なお注意しておくけど、僕たちはテントの中でやましいことは何一つしていない。

 互いに引っ付いて、眠ってただけだ。


「ふああーっ、おはようシオン」

 そして僕の腕を枕にしているのは絶。顔を僕の方に向けてきたので、僕たちの顔が凄い間近で見て取ける。

 互いの口から吐き出す息が、かかるほどの距離だ。


 絶って本来の姿は黒麒麟だけど、幼女の姿をしていると、黒い目がとってもチャーミングで可愛い。

 こうして間近で絶の顔を見ていると、改めてそう思わされる。

 そんな絶の額に髪がかかっていたので、僕は指で払ってあげた。


 絶が気持ちよさそうに目を細めて、「フフッ」と笑った。


「クンカクンカ、いい匂い」

 あと、ヤヌーシャが僕の足を抱き枕にしているのもいつもの事。

 両腕でガシッと僕の足をホールドして、身動きが取れない。

 でも、僕っていい匂いなのかな?


「食べたくなるくらい、いい匂い」

「ヤヌーシャ、頼むから僕を食べないでよ。ヤヌーシャの中って暗いから、"また"食べられるのは嫌だ」

「……」

 なぜかヤヌーシャに、沈黙で返されてしまった。


 本当に、食べないもらいたい。



 以前僕はヤヌーシャに、言葉そのもまま意味で、食べられたことがある。

 ヤヌーシャの体の中には、どこまでも続く暗黒空間が広がっていて、上下や時間の感覚が失われてしまう。

 そしてどれだけ移動しても、変わらない景色が続いている。


 あれは苦手だ。

 あれならば、まだリゼの体の中の方がましだ。

 僕はヤヌーシャだけでなく、リゼにも食べられたこともあった。


 2人とも大魔族なので、とんでもないことを平然とできる神経をしてる。

 そしてリゼの体の中から出る方が、ヤヌーシャの中から出るより簡単だった。


 食べられたのは昔のことだけど、大魔族相手に付き合ってたら、こういうこともたまにあるわけだった。




 こんな起床のやり取りをした後、リゼの体から、人に擬態したメイドスライムが出てきて、僕たちの身だしなみを整えてくれる。

 相変わらず、リゼのメイドスライムは有能だ。


 今回、セラ、ツェリ、アンの3人メイドは城にいるので、この場にいない。

 けど、今回リゼの体内から出てきたメイドスライムも、容姿端麗、見目麗しいお姉さんメイドばかりだった。


 特に、その中の1人の胸がいい。


「テスタ、あなたは胸を萎ませるように」

「はい、マザー」


 ああ、なんてことだ!

 小ぶりながらも素晴らしい形。カリンお姉さんには劣るものの、いまだ未成熟で成長上を感じさせる胸。

 でも、それゆえに、これから完璧な姿へと成長していく。

 そんなパーフェクト予備群にあり、完璧でないからこそ、かえって妄想を膨らませてくれるメイドスライムの胸が、シュウシュウと音をたてて萎んでいき、小さくなってしまった。


 なんて、残酷な仕打ちだ!


「まったく、私の胸の方が素晴らしいでしょうに」

「シオンのエッチー」

「バリ、ポリポリ」

 無念、せっかくの眼福が奪い去られてしまった。

 人の姿をしているけど、正体が人間ではない3人娘たちに、今日も僕は総スカンを喰らってしまった。


 ヤヌーシャもいつも通りに見えて、ポッキーを齧る音がわざとらしいほど大きくなっていた。

 これは間違いなく、怒ってるね。


 こんなことがありつつも、身支度が完了。

 用事が済んだので、メイドスライムたちは再びリゼの体へ戻っていった。



 そうしてテントの外に、4人で出たのだけど、

「クッ、勇者様が聖女様と同じテントで、一晩過ごしただと……」

「なんということだ。聖獣様の体が、既に男に汚されていたとは……」

「勇者様、女みたいで無害そうな見た目なのに、実はケダモノだったのか……」


 なぜか夜番で起きていた騎士の人たちから、僕は睨まれてしまった。


 いやいや、僕たちは同じテントで寝たけど、やましいことは何もしてないから。



 とはいえ、わざわざ誤解を解こうとも思わないので、勘違いされたままでもいいけどね。


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