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14 絶の正体

 今日は冒険者ギルドで、オーガ討伐の依頼を受けることにした。


「オーガだと、馬鹿言うな!あれは30人規模のレイドパーティーを組んで倒しに行くような奴らだぞ。そもそも、オーガは単体でなく群れで行動していて……」

 ギルドで依頼を受けると言ったら、山賊王マスター……おっと、いけない。ギルドマスターが強面の顔に似合わず、かなり焦って忠告してきた。


「勇者様、勇者様が強いのは分かりますが、それでもオーガはダメです。騎士団に増援の依頼を出しますので、それから戦いましょう」

 護衛兼案内役のコンラットさんまで、そんなことを言ってくる始末。


「オーガの討伐って、騎士団でも死者が出るほど危険なんですよ」

 カリンお姉さんにまで、制止されてしまった。



「……えっ、オーガってただの雑魚でしょう?」

 でも僕の場合、オーガなんて百単位の軍団で迫ってこられても、始末できる雑魚なんだけど。


「ただの飯ですね」

 リゼの場合、戦いでなくご飯扱い。


「ああ、オーガねぇ。……強いのかな?」

 絶も、首をかしげている。

 オーガを強いと認識してないので、ギルドマスターやコンラットさんたちの焦りようが、まるで理解できていない。


「ポリポリ」

 ポッキー魔神ヤヌーシャ様は、本日も平常運転だった。

 ヤヌーシャにしてみれば、オーガなんてどうでもいい存在なんだろう。

 いちいち反応する必要すらない相手だ。


 僕たち4人は小声で話し合っているので、マスターたちに聞かれていない。

 だけど僕たちと人間の間で、ここまで認識に差があるとは困ったね。



「騎士団に増援を求めるので、この場から動かないでください!いいですね、勇者様」

「コンラットさん、私が勇者様たちを見張っているので、安心してください」

 僕たちの事そっちのけで、コンラットさんは急いで城に戻り、援軍を呼んでくるとのこと。

 その間、僕たちの見張りを買って出たのは、カリンお姉さん。


「はあっ、仕方ないか」

 僕が思っていた以上に大ごとになってるけど、こうなったらもうどうにでもなれだ。


 でも、僕たちってコンラットさんに信用されてないよね。

 これでも僕は15歳で、この世界では大人の扱いを受ける年齢だ。なのに、子ども扱いされてる気がする。



 そしてコンラットさんが、城から10人の騎士を連れて戻ってきた。


「オーガ相手には、この人数でも不安があるのですが……」

 冒険者であれば、30人規模のパーティーが必要。

 騎士の方が軍隊として訓練されていて、さらに武器と防具が国から支給されているため、いい物を装備している。

 その分、冒険者より強いので、この人数になったのだろう。


 それでも、コンラットさんの表情が優れなかった。


「なんで私、勇者様たちのお供になったんだろう。私、まだ死にたくない……」

「大丈夫ですよ、カリンお姉さん。オーガなんてザコ……コホン。何かあっても、お姉さんだけは、僕が絶対に守りますから」

 カリンお姉さんは、まるで死ぬこと確定の青い表情になってる。

 けど、僕は笑顔を浮かべて、お姉さんを元気づけてあげた。


 ああ、カリンお姉さんが胸の前で両腕を組んで不安そうにしている。形のいい胸が圧し潰されて……


「ムーッ、ギルティー!」

「イヤですわ、わたくしたちがいるのに、あんな女に現を抜かすなんて……」

「バリバリ、ボリボリボリ」


 ……今、物凄くいいところだった。

 とても素晴らしい物を、拝むことが出来ていた。

 なのに、絶とリゼに両腕を掴まれ、僕はその場から引きずられてしまう。

 さらにヤヌーシャまで、わざと大きな音をたてて、ポッキーを乱暴に食っていた。


「ああっ、せっかくの楽園がー」

 なんてこった。

 僕の視界から、カリンお姉さんの胸が見えなくなってしまった。


「ウフフ。楽園ならば、わたくしが拝ませてあげますわ」

「イヤだよ、リゼの乳って作り物だから」

「……」

 あ、ヤバイ。

 リゼの笑顔だけど、全然笑顔じゃない顔で笑われてしまった。


 でも、僕はあえて言わせてもらう。

 リゼの乳は見た目だけはいいけど、所詮スライムの能力を使って作り出した、ただの作り物。偽物。贋作だ。

「リゼの乳って、天然物と違って、いつもシリコンっぽい感触がするんだよ」

「クッ、どうしてシオン様は、陛下と同じことを言うんでしょう」

 僕の言葉に、リゼが物凄く悔しそうな顔をした。

 "陛下"ってことは僕の父さんのことだけど、父さんもリゼに、そんなことを言ったんだね。


 僕も父さんも、天然物の乳は大歓迎だけど、シリコンで水増しした人工物には、そこまで興味ないから。

 まあ、さすがに全くないわけじゃないけどね。





 ところで、コンラットさんを始めとする騎士団の面々とカリンお姉さんは、表情が優れない。

 でも、僕たちの方は危機感など全くなしだ。


「おのれ陛下!陛下の血を継いだせいで、シオン様まで変な拘りを持ってるじゃないですか!」

「リゼ、落ち込まないでー」

「ポリポリ」

「ヤヌーシャ、あなた嬉しいからって、ニタニタするのはやめてくださいな!」

 危機感はないけど、リゼがガクリとうな垂れてる。

 そして絶が励ましている。

 けど、僕の目から見てヤヌーシャは、いつものようにポッキーを食べてるだけにしか見えなかった。


 あれのどこが、笑ってるんだ?

 僕にはヤヌーシャの顔が、いつものように無表情にしか見えないんだけど。


「ポリポリポリ」

 もう一度ヤヌーシャの顔を見るけど、やっぱり、いつものヤヌーシャにしか見えなかった。




 そんなことがありつつも、僕たちは街から出るため、城門のの前へ移動する。


「オーガが巣くっている森までは、馬でも2日はかかる位置にあります。徒歩では時間がかかりますので、勇者様たちの馬を用意します」


 以前受けたゴブリン討伐と薬草採集は、その日のうちにクリアできた依頼(クエスト)だったけど、今回は移動だけで日をまたぐことになる。


 でもね、

「馬ならいらないよ」

 と、絶が言う。


「ですが、勇者様たちは……」

「実は絶ですけど、僕の"馬"なんです」

「ハイッ!?」

 絶は僕の馬。

 当たり前の事なのに、コンラットさんはどうして驚いてるんだろう?


「あっ、そうか。絶は人の姿をしてますけど、本当は"麒麟"という生き物なんです」

「キリン?」

 僕が説明している前で、絶がニコリ笑った。


 するとゴスロリドレスを着た幼女姿の絶が、眩しい光を放つ。


「うっ」

 その光にコンラットさんを始め、周りにいた全員が思わず目を瞑る。

 まあ、僕たちの場合は例外だけど。


 眩い光が辺りを照らし、その光がほどなくして収まる。

 そうしてコンラットさんたちが目を開いてみると、そこには黒い竜の鱗で体が覆われた、漆黒の馬がいた。


 その体躯は戦争用に鍛え上げられた軍馬とさえ比べるべくもなく立派。見ているだけで、震えが来るほどの存在感を放つ。

 もっとも震えが来るのは、人間基準での話だけど。


「改めて紹介しますね。彼女が、絶。本当の名前は、"絶影黒竜馬(ぜつえいこくりゅうば)"と言うんですが、長いからいつも絶と呼んでます。普段は人の姿に化けていますが、これが絶の本来の姿です」

『よろしくね、コンラットさん、カリンさん』

 僕が紹介すると、それに合わせて麒麟の姿になった絶が、幼女姿の時と同じ声で話す。


「人語を介する馬……まさか、伝説の聖獣!」

「し、信じられない!」

 なんだかその後、コンラットさんとカリンお姉さん、あと周囲にいた騎士の人たちまで、固まってしまった。


「"聖獣"様、ハハーッ」

 そして一斉に絶に向かって、跪いていた。

 王様を前にした、臣下の態度と全く同じなんだけど。


『えっ、なにこれ?』

「さあ、なんなんだろう?」


 今まで普通に絶と接してきたはずなのに、皆の態度が豹変してしまった。

 僕も絶も訳が分からなくて、互いに顔を見合わせてしまう。


「所詮はただの人間ですからね」

 ――コクコク


 頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、互いの顔を見合わせている僕たちと違って、リゼとヤヌーシャの2人は訳知った風でいた。


 絶って、この世界の人間相手だと、すごい存在だったりするのかな?

 まあ、別にいいや。

 どう扱われようと、絶が僕の馬であることに変わりないから。



 その後、僕は絶の上に飛び乗って跨る。


 少しだけ、少しだけ思うことがあるのだけど、絶は体躯の立派な麒麟なので、僕の2倍以上の高さがある。

 正確には、3倍近い。

 背が高いんだよ!


 いつも飛び乗ってるので、絶に乗るのに問題は何もない。

 けど、それでも僕より圧倒的に背が高い!


「……クッ」

「ウフフッ、私の胸で慰めてあげますわ」

 く、悔しくなんてないのに!


 絶の上に飛び乗った僕の後ろに、続けてリゼも飛び乗ってきた。

 そして背後から、僕の背中にわざとらしく胸を押し付けてくる。

 背中にとてもいい感触が伝わってくる。

 天然物ではないものの、それでもリゼの胸は形がよく、背中に当たる感触がとても気持ちいい。

 特に、押し付けられた感触は、得も言われぬものがある。


「ポリポリポリ」

 そしてヤヌーシャも、絶の上へ飛び乗った。

 位置は僕の前だ。


 この場所だと、ちょうど僕の顔にヤヌーシャの黒髪が当たる。ムズムズしてくすぐったいれど、それがなんだか心地いい。



「それじゃあ出発しましょうか、コンラットさん、カリンお姉さん」

 僕は幼女2人に前後に挟まれ、さらに女黒麒麟の絶に跨る。


「勇者様は、聖獣様に跨られるのですか。まるで、伝説のようだ」

「素敵……」

 コンラットさんと騎士の人たちは、憧れの視線。

 そしてカリンお姉さんは、うっとりとした顔で絶を見ていた。


 どうせなら、僕の方を見てくれないかな。

 特に、その形のいい胸と一緒に……


「シオン様、邪な考えは抱かないように」

「イデデデッ。リゼ、耳を引っ張らないでよ!」

「ムウッ」

「ゲフッ!ヤヌーシャも腹パンしない……」

『シオンのエッチー』

 3人娘から、なぜか総スカンを喰らってしまった。



 僕、何も悪いことしてないのに。

 僕の外見は、小さいとか女みたいだとよく言われるけど、そんなの関係なく、ただの普通の男なんだよ!

 男なんだから、ついついオッパイに視線が行って何が悪い!


 はあっ。

 リゼたち3人が、このことを全く理解してくれないのが悲しい。


あとがき



「前後を幼女に挟まれて、さらに絶ちゃんに馬乗りになるだと!

 なんという破廉恥プレー。


 クッ、このリア充野郎が!


 お、俺の目から血涙が流れ出すー。

 嫉妬の炎よ、あの不逞なリア充野郎を焼き尽くせー!」





 えっ?

 ただ作者の僻みです。心の声です。

 それがどうかしましたか?



 ……爆ぜちまえ!

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