13 (番外編)とある異世界の城にて
日本とは異なる、とある異世界の城にて。
「殿下、殿下はいずこにおられる!?」
「殿下、どこにおられますかー」
「殿下ー」
城に仕える兵士や女官。そんな人たちが慌ただしく叫びながら、城内を駆け回る。
「殿下ー?」
「殿下、ここにいらっしゃいますかー?」
「もしかしてタンスか壺の中かしら?」
探し回るのはいいけれど、なぜか途中からそんなものの中まで探し始める人々。
そんな中、1人の女官が壺の中で発見した。
「あら、これって50Gだわ。でも、この国ってとっくに"ネット通貨"が当たり前になってるから、今じゃ使いものにならないゴミね」
「あなた何言ってるの。50Gって本物の"金"が含まれてるのよ。換金したら、かなり高価なものなんだから!」
「ええっ、本当ですか先輩!」
「本当よ。でも、それは城に勇者が来た時の"お約束用"だから、私たち女官が勝手にとったら駄目なの」
「ええーっ、そんなー!」
「仕方ないでしょう。陛下がそのように決められたのだから」
女官の先輩と後輩の間で、そんなやり取りがされる。
と言っても勇者なる存在が、この城に来たのは今までに一度あっただけ。
しかも城に仕えている者のほぼすべてが、「そんなことあったかしら?」と、もはや記憶の彼方にある出来事だ。
「ところで先輩。昔と違って、今じゃ蛇口を捻れば当たり前に水が出てくるし、お醤油とかの液体調味料もペットボトルに入ってるんですよ。なのに、どうして重くて割れやすい壺なんて置いてるんですか?こんなの飾りにする以外、ただの邪魔な置物ですよ」
「それも陛下がお決めになられたの。勇者が来たら、壺やタンスの中身を漁ってアイテムを持っていくのが普通だから、こうやって普段から用意しておくのだそうよ」
「それって持っていくじゃなくて、"盗み"ですよね。勇者って、実は盗賊なんですか?それとも強盗?」
「似たようなものじゃないかしら?」
「うわー、勇者って最低」
何しろ古式ゆかしい勇者とは、家宅侵入して、そこにある物資を残らず略奪していく、泥棒も真っ青な悪党なのが常識だ。
そして勇者に奪われるためのアイテムを常日頃から仕込んでおくことは、この城にとって当たり前のことだった。
……少なくとも、指示を出した"陛下"は、それが常識だと思ってる。
「私のさらに先輩の女官様から聞いた話だけど、"緑の勇者"には特に注意が必要だそうよ」
「緑の勇者?」
「ええ。ただの勇者が中身を盗むだけなのと違って、"緑の勇者"は城や人の家にある壺を壊して、平気で中身を奪っていく悪党なのよ」
「それって、盗みの上に器物破損まで加わりますよね。勇者って、本当にひどい奴なんですね!」
「まったくね。もっとも勇者がこの城に来たところで、陛下がいらっしゃるから、コテンパンにされてお終いでしょうけど」
「ですよねー」
なんて話を、先輩と後輩の女官が続けていくのだった。
ただ、それでも彼女たちは城で働いている女官。
口で無駄話をしつつも、しっかりと探し人である"殿下"の捜索を続行している。
城の中に無駄に設置されまくっている壺を、一つ一つのぞき込んで確かめていく。
「……先輩、茶色く枯れた薬草が出てきました」
「それは昔陛下の命令で置かれた薬草ね。はあっ、硬貨と違って枯れたり腐ったりするものまで設置するなんて、陛下もとんでもない命令を出されたものだわ」
この薬草、かれこれ10年以上も前に、城の主である"陛下"の命令で設置されたもの。
その後誰も壺の中身を確認しなかったので、薬草はただの枯れ草となり果てていた。
こんなものを傷口に塗ったら、怪我が回復するどころか、ろくでもない目に合うのが目に見えている。
「……どうしましょう。こっちの壺の薬草は腐ってたわ」
「ううっ、臭い。先輩、そんなのさっさと捨てましょうよ」
「そうね。殿下の捜索が終わったら、一度城中の壺を確認した方がいいわ」
悲しいかな。
枯れた薬草はまだいい方。
腐ってしまって紫色になり、もはや原型を留めていない"元薬草"まで出てくる始末。
特に匂いが酷い。
陛下の命令で用意されたアイテムとはいえ、これでは生ゴミ以外の何物でもない。
「殿下ー、殿下はどこにおわすー」
そんな中、女官たちとは別に、兵士たちの声も響き渡る。
「壺の確認は後回しよ。早く殿下をお探ししないと」
「はい、先輩」
そうして2人の女官は、再び殿下捜索に戻るのだった。
もっとも、その過程でさらに調べ回った2人の女官だが、城にやたらと設置されまくっているタンスの中から、なぜかビキニアーマーなる変態装備を発見してしまった。
変態紳士諸君であれば垂涎物の装備だろうが、如何せん発見したのが女官の2人。
「……せ、先輩」
「いいこと、私たちは何も見なかった。陛下のご趣味に、私たちが口出ししてはいけないの」
あまりの露出狂コスチュームに、後輩の女官はドン引き。
先輩の方は真顔になって、後輩を脅すようにして黙らせる。
こんな趣味を"陛下"がしていると周囲に知られては、この国にとって一大事件だ。
「……」
だが、次に調べたタンスから出てきたのは、カジノでおなじみのバニーコスチュームだった。
これには、さすがの先輩女官も絶句してしまう。
「へ、陛下のご趣味って……」
「い、いいこと。私たちは、何も、見なかった。いい、わね……」
自分たちの仕えている陛下の趣味に不安を抱きつつも、震える声で先輩女官は、後輩を嗜めるのだった。
その後、この女官たち。さらに城中の兵士が殿下探しを続けたものの、結局目当ての人物が見つかることはなかった。
ただ、殿下の部屋には置手紙がされていて、
『しばらく留守にします。探さないでください』
と書かれていた。
そしてこの置手紙は、城の主である陛下の元へ届けられる。
「陛下、まさか殿下は家出されたのでは!?」
心配するのは、陛下に仕える臣下の1人。
「家出ねぇー。とはいえ、供回りの連中もつれて行ったようだな。普通家出って、1人でするものじゃないか?」
心配する臣下を他所に、陛下はそう答える。
「であれば、余計に質が悪いです。殿下の側近たちが、家出を阻止するどころか、逆に手伝うとはなんたること!これは一大事であり……」
以下、なんたらかんたらと文句を言う臣下だけど、あまりにうるさいので、陛下は途中からその話を無視することにした。
「まあ、俺だって10代の頃には家出したことがあるからなー。それに我が家の家系は、代々異世界召喚される体質だから、案外今頃別の世界でヒャッハーしてるかもな」
なんて宣う陛下。
その言葉に、さっきまで文句たらたらでいた臣下が、顎をあんぐりと開けて、黙り込んでしまう。
「陛下は、殿下の御身が心配でないのですか?」
「心配ねぇ?あいつの心配って、する必要があるのか?」
「……」
陛下に逆に尋ねられ、またしても黙り込んでしまう臣下。
「お供が吸血鬼の真祖に、"魔王種"レベル。変わったところでは"黒麒麟"なんてのもいたな。そしてその全部に1人で勝てる奴を、心配する必要があるのか?」
「戦闘面では、全く心配する必要がないですね」
「だよなー。あいつって俺にはまだ勝てないけど、強くなる速度が早いから、あと2、3年したら、俺でもきついかもしれんぞ」
「……"魔王陛下"より、殿下は強くなられるのですか!?」
「強くなるんじゃねぇ?」
今まで陛下と呼ばれてきた人物だけど、何を隠そうこの人物は、この世界において人間と獣人、そして魔族。
それら全ての頂点に立ち、世界全てを支配する魔王陛下その人である。
あと、おまけで物凄いオッパイ美人の大天使を見かけてしまったのが原因て、天界まで征服して、天使すら支配下に置いている。
『勇者よ、貴様に世界の半分をくれてやろう』
などと、妥協が必要な貧弱魔王とは格が違った。
もっとも見た目は、人間のただの中年おじさんにしか見えない。
しかし、息子は彼以上に強くなるかもしない。魔王という化け物の、さらに上を行こうとしている化け物がいるわけだ。
「陛下、もし殿下の方が強くなってしまえば、どうするおつもりですか?」
魔族が支配する世界においては、強い者こそが頂点に立つべきという考えが根強い。
現に今の魔族、そしてこの世界の頂点に立っているのが、この場に居る魔王その人であった。
しかし息子とはいえ、もし彼より強い存在が現れるとすれば……
「その時は引退して、後宮に籠って生活するぜ!」
臣下の心配をよそに、魔王本人は、そんなことをドヤ顔で言った。
「いい年した中年おっさんが、口にしていいセリフではないですな」
「グハッ」
魔王様。
強さ云々は置いといて、当人はとっくにいい年した中年オヤジ。
若い頃にはそれはそれはモテたのだけど、往年の美貌も鳴りを潜めて、今じゃただの中年おっさん。
デブではないけれど、顔が油でテカっていた。
そんなおっさんがエロ発言したら、ただのスケベ親父にしかならない。
臣下からの的確過ぎる発言に、心にダメージを受けてしまう魔王陛下だった。
あとがき
てなわけで、今回の話はシオンの実家、魔王城の話です。
本当はこの話をプロローグに持ってくる予定だったのですが、その後なんだかんだとやった結果、プロローグから外れてしまうことに。
でも、せっかく書いたのでもったいないと思い、番外編として登場です。
本編には全く関係ない話ですからね~。
そして話の中に出てきた『緑の勇者』ですが、
ゼルダの伝説……リンク……ヴッ、頭が……




