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12 メイドと伯爵

 街の外でゴブリン相手にハンティングをして楽しみ、その後薬草の群生地を見つけて採集した。


 ハンティングは楽しかったけど、

「薬草の採集って、罰ゲームみたい。これって庭師の仕事……いや、庭師見習いがする仕事だよね」

 薬草を抜く作業は、雑草を抜くのと何ら変わらなかった。


 こんなのうちの城(魔王城)で働いてる、下っ端がやる仕事だよ。


 異世界召喚物の定番とはいえ、薬草採集なんて、所詮そんなものだった。


 でも、こうしてギルドで受けた依頼を完遂した僕たち。




 報告のため街に戻って冒険者ギルドへ行くと、

「おお、ゴブリンを20体も討伐したのか、すげえなっ!それにこの薬草の量はどうなってるんだ!?」

 強面山賊王マスター改め、ギルドマスターが、僕たちの成果を見て驚いていた。


「何か凄いんですか?」

「ゴブリン相手で1日に20体狩るのは大変なんだぜ。この辺りは平原だから、ゴブリンを見つけても、戦う前に逃げられちまうことがほとんどだからな」

「なるほど。確かにそうですね」


 モンスターと言っても、わざわざ自分から狩られにはいかない。

 剣や槍、それに遠距離攻撃できる弓でも、射程は100メートルに届かない。

 そんなに近づいていては、先にゴブリンが逃げ出してしまうわけだ。

 しかしライフルの射程なら、相手が逃げ出す前に、遠くから撃ち殺すことが出来た。



「それに薬草の量……一体何百本あるんだ?」

「さあ、どれだけあるのか僕たちも数えてないですね。大量にあったので、それを抜いてきました」

「薬草の群生地を見つけたのか」

「ですねぇー」


 なお、薬草に関してだけど、当初僕たちはなかなか見つけることが出来ずにいた。

 しかし年の功というわけか、リゼにはスライムが持っている独特の感覚があって、それで薬草の群生地を、いとも簡単に見つけ出してしまった。


「ホホホ、昔は薬草を好んで食べていた時期がありましたので」

 とは、その時のリゼのセリフ。

 もちろん、このセリフはコンラットさんとカリンお姉さんには聞かれてない。


「リゼ様は、もしかして高名な薬師なのでは?」

 まあ、その後何を勘違いしたのか、カリンお姉さんがリゼの事をそんな風に勘ぐっていた。

 魔法が使えて薬師なら、そのうち賢者様と呼ばれるかもね。


 そのリゼだけど、

「わたくしの体内にいる子供(スライム)に、薬を調合できる子もいますわよ」

 とのことだった。

 リゼだけでなく、子供まで有能すぎる。


 スライムって、万能生物だね。

 実は世界最強は、スライムなんじゃないかなー?



 なんてことがあり、その日ギルドで受けた依頼は、文句なしで大成功。

 新人冒険者が、初回の依頼で周囲を沸かせるのは、異世界物のお約束ってやつだね。


 そしてその日は1日の終わりと共に、街で活動拠点にしている城へ戻っていくのだった。





 さて、城に戻って、コンラットさんとカリンお姉さんとは別れた。

 僕たち4人で、城で厄介になっている部屋に戻ってきたけど、

「本日より勇者様御一行のお世話をさせていただきます、セラ、ツェリ、アンと申します」

 なんと僕たちの世話係として、3人の専属メイドさんが付くことになった。


 ただその正体だけど、

「これって、リゼのメイドたちだよね」

「ええ、私の子供たちです」


 なんとスライムメイドたちだった。

 姿形は、完璧に人間に擬態できるスライムメイド。外見だけでは、普通の人間と何一つかわらない姿をしていた。


 ただ、今まで城にいなかった人間が、いきなり僕たちの元に派遣されたことになる。

 いくらメイドの格好をしていても、突然不審人物が城に入り込んだのだから、周囲の人が気づくはずだよね。



「それならご安心ください。城の掌握を進めているので、メイドを数人潜り込ませるなど造作もないことです」


 僕たちの部屋に、さらに追加で執事さんが登場。

 黒髪黒瞳の、若いお兄さん。年齢は20代ってところだね。

 シャープな顔には精悍な様があり、ただの使用人と思えない雰囲気を醸し出している。


 均整の取れた体付きで、そして一番重要な点だけど、"背が高い"。

 ものすごく高い。

 190センチ超えてるね。


 ……畜生。僕に半分分けてくれ!



「伯爵」

 なお、この執事さんだけど、僕の知っている人物。

 友達の1人、"伯爵"だ。


 この前は僕の影の中に潜んでいたけど、今回は執事服を着て、僕の前に立っていた。


「城の掌握って言ったけど、もう全員"魅了チャーム"しちゃったの?」

「さすがに1日、2日で、そこまでは無理です。ですが使用人に関してはほぼ全て。明日からは、城に仕えている騎士たちを取り込んでいく予定です」

「おおっ、さすがは伯爵。仕事が速いね」


 伯爵は本当に仕事が出来る、立派な人だね。

 ま、人じゃなくて、正体は"吸血鬼(ヴァンパイア)の真祖"だけど。

 もっともリゼや絶、ヤヌーシャに比べれば、人間にもっとも近い種族と言えた。



 さて、この伯爵だけど、吸血鬼の能力よろしく"魅了(チャーム)"の魔術を使うことで、人間を精神的に支配する能力を持っている。

 ただの吸血鬼であれば、少数の人間の精神を操るだけだけど、伯爵の場合は真祖と言うこともあって、能力が格段に高い。

 一度に数百から数千の人間の精神を、操ることが出来た。


 もっとも普通に"魅了"して操るだけでは、人間の思考能力が低下して、何らかの魔術で操られていることが、すぐに露見してしまう。


 ところが伯爵の魅了(チャーム)は手が込んでいて、魅了しても、相手に精神的な影響が何もないように振舞わせることが出来た。

 ただ、ほんのちょっとした瞬間に精神操作の影響を発現させて、相手の精神を巧みに操る。


 書類仕事をしている時に、本当は没にしなければならない案件があっても、一瞬精神操作して、書類の内容を承認させる。

 イエスと答えなければならない時に、ノーと答えさせる。


 そんなほんのちょっとした瞬間だけ、相手の精神を狂わせることが出来た。


 この手法だと、普段は精神操作の影響が全く出ていないので、周囲の人間に全く気付かれることなく済む。




「使用人を掌握したということは……」

「それでリゼ殿のメイドたちを、城の使用人として潜り込ませました」

「おおーっ、さすが伯爵ー」


 僕たちがいない間に、城の使用人相手に、"魅了"の魔術で精神支配を施していた伯爵。

 使用人の人事を扱う人間まで精神支配してしまえば、メイドを城に潜り込ませることなど朝飯前だろう。


「ふふふっ、これで今日からわたくしの世話役(メイド)を、堂々と城の中で働かせられますわ。ああっ、これで不便な生活ともおさらばですわ」

 これまでは自分の子供(メイド)の存在を城の人間に気づかれないよう、室内で使うだけだったリゼ。だけど、今日からはそんなことお構いなしに、城の中を歩き回らせることができる。


 動き回れる範囲が広がれば、それだけメイドとして役立つことが増えるだろう。




 とはいえ、メイドに関してはあくまでもおまけ。

 僕たちの真の目的ではない。


「城の騎士だけど、魅了しても問題なさそうかな?」

「この城は、我々の世界と比べて魔術的な対策がほとんどとられていません。殿下が望まれるのでしたら、騎士どころか、国王を始めとする国の重鎮たちを魅了しても、気づかれることがないでしょう」

「いきなり国の上層部を精神支配できるとか、何それ?この国って、魔術的な警戒が杜撰すぎない?」


 伯爵1人いれば、初手でこの国のトップを陥落させることが可能。

 上を支配してしまえば、あとは魔術でなく権力で下を従わせることができる。そうなれば、簡単に国一つ落とすことが出来るね。

 なんて、ひどい話だ。

 僕の世界の場合、魔王城はもちろん、人間の世界でも魔術的な対策が取られていて、精神支配を判定する魔道具が存在している。精神支配の魔術を受ければ、大抵はそれで気づかれてしまった。


 市井でさすがにそのような対策は取られてないものの、城とか国の重要な施設、軍隊、官僚組織などでは、精神操作に対しての対策が徹底されていた。

 伯爵の魅了の魔術が巧妙でも、専用の魔道具に検知されて、バレてしまうことだってあった。

 もっともさすがに伯爵クラスの大魔族ともなれば、精神操作の仕方が巧妙なので、バレずに済むケースがあるけど。




「殿方は陰謀にご執心の様子だけど、わたくしは興味ありませんわ。ツェリ、お茶の用意をしてちょうだい」

「僕はコーラが欲しいなー」

「ポリポリポリ、オレンジジュース」


 僕と伯爵は、2人して陰謀の続きを話していく。


 だけど女の子3人組は退屈なようで、飲み物をメイドに注文していた。


「承知いたしました」

 そしてメイドの1人ツェリは、頭を下げると、自分の体の中に腕を突っ込む。

 体の中に突っ込んだ腕を、少しグチャグチャと動かしたかと思うと、体の中からティーセット一式を取り出した。

 それをリゼの前において、瞬く間にティータイムの準備を整えていく。


 さらにメイドのセラとアンも同じようにして、体の中からコーラとオレンジジュースを取り出し、絶とヤヌーシャに差し出していた。



 見た目は美人メイド3人組だけど、体の中から取り出した飲み物なんだよね。


「ワーイ、このコーラキンキンに冷えてる」

「ポリポリ、ゴクゴクゴク」


 でも、そんなことを気にせず、絶とヤヌーシャは飲んでいく。



「シオン様もいかがですか?あと伯爵も」

「いや、僕は遠慮しておくよ」

「私もです」


 スライムの体の中から出てきた飲み物は、さすがに僕も抵抗があるなー。

 伯爵にしてもそれは同じようで、僕たち2人は丁重にお断りした。



 そんなことより、この国の乗っ取り計画だ。


「国王と王族は権力の座から突き落とす予定だから、上層部の精神支配はなしね。周りの人間すべてに裏切られた時、この国の国王や大臣たちは、きっと物凄く情けない反応をしてくれるだろうから」

「殿下は、お人が悪いですね」

「そりゃあ、これでも魔界のプリンスだからね」



 クックックッ。

 と言うわけで、僕は将来のため、本日もこの国を乗っ取る計画を企てていく。

 ま、計画を実行しているのは伯爵と大公の2人で、僕は毎日勇者ゴッコして遊びながら、報告を聞いてるだけだけど。


 とはいえ、自分たちが知らないところで既に城の内部が侵食されているのに、国王たちは全く気付いてないんだろうね。

 なんて間抜けな連中だろう。


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