11 ハンティング
――キュンッ
微かな音をたてて、青い量子の閃光が飛んでいく。
それが平原の彼方にいる、人間の子供サイズのモンスター、"ゴブリン"の頭に命中して貫通した。
ゴブリンが地面にバタリと倒れ、貫通した頭から赤い血がドクドクと地面へ流れ出していく。
絶命したことは確実。
ピクリとも動くことがなくなり、一つの命があっけなく事切れた。
さて、僕たちはあの後冒険者ギルドで依頼を受けて、街の外にある平原にやってきた。
城門を抜けて、いざファンタジー世界の冒険だー!
ってノリで最初はいたけど、そんなもの10分も持たずに終わった。
単に平原が広がってるだけだからね、ハイテンションでいても、すぐに飽きるよ。
そしてギルドで受けた依頼だけど、簡単なゴブリン討伐をコンラットさんに勧められたので、それを受けてきた。
5体ほど倒して、討伐の証に右耳を切り取ってくればいいとのこと。
あと、冒険者ギルドのお約束と言えば薬草採集なので、それも同時に受けてみた。
薬草を探しつつ、見つけたゴブリンを討伐。
薬草の方はわざわざギルドに依頼を出しているだけあって、なかなか見つからない。けど、ゴブリンの方は簡単に見つけることが出来た。
「勇者様、その武器は一体何なんですか!?光でゴブリンを倒してしまうなど、今までに見たことも聞いたこともありません!」
「コレ?ただの"量子ライフル"だけど」
なお、見つけたゴブリンだけど、僕が元の世界でハンティングをするときに愛用していた、量子ライフルで射殺した。
昔は弓矢で獲物を穿ち、現代ではライフルで動物を狩る。ハンティングは、王侯貴族の伝統的な遊びだからね。
そして今回使用しているライフルは、鉛玉を火薬で打ち出すのでなく、僕の世界の十八番である量子テクノロジーを用いた、"量子ライフル"だった。
この量子ライフルは、レーザー銃のような感じで、青い量子の光が飛び出す。
物理的な攻撃力は実弾式の銃にやや劣るものの、内蔵されている量子バッテリーが軽量で、このバッテリーが空になるまで銃撃を続けることが出来る。
しかも、バッテリーは取り換え可能だ。
実弾の弾を大量の持ち歩かなくていいので、携帯性に優れていた。
そしてライフルのコアになっている量子回路が複雑なものの、それ以外の構造は非常に単純に設計されていて、知識さえあれば、誰でも簡単に分解・整備できるようになっていた。
魔王(父さん)なんて、
「軍用ライフルは汎用性が大事だ。高性能だったとしても、生産性が乏しくて、整備の難しいライフルなんて、戦場ではなんの役に立たん」
っと、言っている。
もっともコア部分の量子回路だけ複雑だけど、これに関しては、
「ただし敵に奪われた際、簡単にコピーされるようでは困る。日本なんて戦国時代に渡来した火縄銃を分解して、自分たちで作れるようになったからな。そんなことを敵にされてはたまらん。コア部分だけは、敵の手に渡っても、絶対に構造が解析されるようにするな!」
なんて言っていた。
いやー、父さんはいろいろ考えてるねぇー。
世界征服しただけあって、頭の中がかなり難しいことで埋められてる。
そしん話はともかくとして。
僕は貴族趣味よろしく、魔界では量子ライフル片手に、たまにハンティングをしていた。
今の僕は、それをこの世界のゴブリン相手にしているだけ。
ゴブリンってのは、僕の世界では無駄に繁殖しまくるばかりの"害獣"だった。
畑や水場を荒らし、すぐに数が増えて、街や村を襲う頭の悪いモンスター。
魔界でも地上でも、駆除対象の存在だったので、これをハンティングして狩るのは、犯罪でも何でもなかった。
この世界でも、ゴブリンの事情は同じようだ。
ギルドで討伐依頼が出るくらいだからね。
「リョウシライフル?」
「コンラットさんも撃ってみます?狙いをつけて引き金を引くだけなので、誰でも簡単に使えますよ」
ライフルの名前はともかくとして、向こう400メートルの距離に、まだゴブリンが3体ほど群がっている。
「さすがにこの距離では、弓でも届きませんよ」
「大丈夫です、量子ライフルだと射程内ですから。ほらっ」
――キュンッ
僕が狙いを定めてライフルを撃つと、平原の彼方にいるゴブリンに、量子の青い光が命中。
先ほど倒したゴブリンと同じように、頭を撃ち抜かれて地面に崩れ落ちる。
突然仲間が死んだことに、残り2匹のゴブリンが驚いているけど、どうし仲間がて死んだのか理解できてないようで、その場から逃げもせず慌ててるだけだ。
「……凄いですね、これほどの距離で命中させるとは」
「さ、次はコンラットさんがどうぞ」
僕の番はこれくらいにして、コンラットさんにも、ぜひともハンティングを楽しんでもらおう。
初めてライフルを使うコンラットさんのために、まずは狙いをつけるためのサイトの覗き方から教えていく。
「信じられません、これほどの魔道具が存在しているなんて」
僕がライフルの撃ち方を指導していたら、カリンお姉さんが物凄く驚いていた。
これ、"魔道具"じゃなくて、"科学"なんだけど。
ま、この成果の文明レベルからすれば、科学と魔法の違いなんて関係ないだろうけど。
――ヒュンッ
「クッ、外れた」
「惜しいですね、もう少し左を狙わないと」
そうしている間に、コンラットさんが量子ライフルを撃ったけど、残念ながらはずれ。
その後、3回ほど撃ったものの、残念ながら全部はずれてしまった。ゴブリンたちもこの場所にいてはまずいと悟ったようで、逃げ出してしまった。
「ムウッ、ライフルとは難しいですね」
「今日始めたばかりですからね。でも、2、3日撃ってれば、これくらいの距離なら、ほぼ確実に当たるようになりますよ」
「たったそれだけの期間でですか!弓矢では、いくら熟練しても、この距離を狙うなんて不可能なのに」
「弓矢とライフルじゃ、性能が全然違いますからね」
「ウウームッ、勇者様の世界とは、とてつもない武器があるのですね」
僕としては、あくまでもハンティング気分。
生きている動物を撃つのは、ストレス解消になって面白いよ。
血が流れる光景を見ると、自分の中にあるストレスが嘘のように消えていくんだよね。
ただし、ライフルで人間を撃つのはご法度。あくまでも、ハンティングという娯楽に限った話だ。
そして、討伐?依頼?戦闘?勇者の剣?
『何それ、オイシイノ?』状態だ。
僕たちの場合、ゴブリン相手では戦闘と呼べるものに全くならない。
ここは戦闘と言う名の蹂躙なんてしないで、ハンティングして楽しまなきゃね。
だけど楽しんでいる僕と違って、コンラットさんはライフルの性能に驚かされているよう。
「こんなに簡単に使えて、弓矢より遠くまで狙える。このような武器が大量に出回れば、我々騎士の存在理由がなくなってしまいますね」
なんて言っていた。
「ですが、このような伝説級の武器が、大量にあるわけないですよ」
ライフルの性能に驚いているのは、カリンお姉さんも同じだった。
けど、ライフルの事をなぜか"伝説級"の武器と勘違いしている2人。
この量子ライフルだけど、僕が首から下げている量子ドライブの中に、まだ複数あるんだけど。
しかも通常のライフル以外に、超射程のスナイパーライフルまである。
僕の故郷である魔界では、軍と一部の許可を得た人でないと銃を所持できない。
けど、地球のアメリカならば、ホームセンターで実弾式の銃が普通に売られている。
アメリカのゾンビ映画だと、登場人物が真っ先にホームセンターに向かうことが多いけど、あれはホームセンターにある銃火器を手に入れるために向かっているわけだ。
ホームセンターで買える、伝説級の武器。
うわー、ありがたみも何もない。
この辺りのことは黙っておくことにしよう。
事実を知ると、コンラットさんもカリンお姉さんも、驚きを通り越して、泡を吹いて倒れかねないから。
「シオン様、せっかくですので、ゴブリンの肉でスープを作りましょう」
「ええっ、リゼってばゴブリンを食べるつもり!?」
「お腹がすきました」
その後、ハンティングで仕留めたゴブリンだけど、リゼが火を起こしてスープにしてしまった。
包丁と鍋を取り出し、みるみる間にゴブリンの肉を解体していく。
なお、包丁も鍋も、スライムであるリゼの体内に収納されていて、それを体内から取り出していた。でも、事実はうまく誤魔化しておいた。
量子ドライブからいろいろ取り出せるので、そういう風にコンラットさんたちには、思い込んでもらった。
「リゼ様、随分と慣れていませんか?まるでプロの捌き方ですよ」
「ホホホッ、これくらい乙女の嗜みですわ」
そしてゴブリンだけど、リゼがあまりに手際よく捌くので、カリンお姉さんが驚いていた。
リゼは見た目と実年齢が違うから、いろんな経験が豊富だ。
ただ、その後出来上がったゴブリンスープだけど、
「筋が多くて、不味い」
「ううっ、肉が臭いよー!」
僕と絶は、あまりの不味さに食べるのを断念。
「モグモグ」
「パクパク」
コンラットさんとカリンお姉さんは、レストランの時と同じで、マズいスープでも普通に食べていた。
ただし顔には表情がなく、ただ食事だからと言う理由で、義務的に食べてる感じ。
決して、おいしいと思ってないだろう。
「ポリポリ」
ヤヌーシャは、ポッキー魔神ぶりを変わることなく発揮していた。
――ガブッ、ズシャズシャズシャ
ただひとつ付け加えるなら、この時ヤヌーシャの体から影がなくなっていた。
その影が僕たちから離れた場所で蠢き、ゴブリンの集団50体に襲い掛かっていた。
影の一部が、鎌の形になって地面から持ちあがり、それが情け無用にゴブリンの体を一刀両断し、屠っていく。
大量のゴブリンが逃げる間もなく、次々に命を刈り取られて行き、その場にゴブリンの死体の山と、流れ出す血によって赤い池が出来上がった。
――ズズズッ。ゴキゴキ、バキッ、ゴリッ
そんな血の池を、ヤヌーシャの影が飲み干し、さらにゴブリンの死体を貪り食らい、骨すら残すことなく食べ尽くしていた。
その後には、ゴブリンの肉の欠片一つ、血の一滴さえも残らない。
惨殺の光景の全てが、影によって完全に喰らいつくされ、後には何も残らなかった。
僕の友達って大魔族だから、当然ヤヌーシャも人間じゃない。
見た目に騙されてただの幼女だと思ってると、体を真っ二つにされて食われちゃうよ。もちろん、比喩でなく物理的に。
後書き
某異世界のゴブリン
「我々ゴブリン友の会は、仲間たちがただの雑魚モンスターとして処理され、食われて行く現状を見かねて、断固抗議するものである。我々に人権と……」
リゼ
「まったく、うるさい飯どもですわね。モグモグモグ」
ゴブリン
「ヒエーッ」




