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禍福はあざなえる縄とよく似ている14 捕虜

 ヴァンプたちは殊勝にも己が手首を拘束し粛々と竜族の戦艦、その格納庫へと隊列を組み乗艦してきた。

 彼らの前には多々良たち竜戦艦の乗員の他にもデボラを始めとするミューツ救出の先発隊の姿もある。


 「クロサワ・タタラ殿、アオ・メイシャン殿、そしてデボラ・ショウホープ殿、この度は我らの降伏を受け入れ乗艦を許可していただき真に感謝している。ウィルミン特務部隊総勢八十二名、これより世話になる」


 「うむ、我が身もこの艦に招かれた身に過ぎないが貴殿の降伏を受け入れ相応の待遇は保証しよう。ミドガンドガルガンティス大隊隊長代理、デボラ・ショウホープだ」


 ウィルミン側の艦長が不自由な腕で敬礼をし礼を伝える。

 しかし艦の乗員を含めどこか不敵な佇まい。デボラはあれほどの目に合いながらも未だ完全に折れないその気骨にいっそ感心すらした。


 デボラがメイシャンに彼らの処遇を問うため振り向くとミドガンドの隊の中から鉄人がデボラを押し退けのそりと前に出る。


 長身の鉄人は目立つ。「何をする気だ」といぶかしむ人々の視線も無視しそのままウィルミンの列へと進むとひとりのヴァンプの捕虜の肩を掴み前へと引き出す。

 されるがままのヴァンプの男。しかしその目は鉄人を睨み付け未だ気迫は挫けていない事を如実に表している。


 「……ふむ」


 鉄人はそんな彼の顔をじっくりと観察する。


 「ヴァンプってヤツぁ案外気骨に溢れたのも居るもんだな、最初に見たのが派遣隊の指令だったからもっと軟弱な情けない連中だと思ってたんだが……

 おい、お前さん、俺たちのティ・アンプルを追っ掛けてた野郎だな? そのツラモニターで見覚えがある」


 「それがどうした!? 俺たちはもう降伏したんだ、危害を加えると連合憲章に抵触するぞ。それでもいいってんならもう一度ベル・クアールで相手になってやる。今度はお遊びなんかじゃねぇ、貴様のポンコツガルガンティスなんぞ一撃で沈めてやるぜ!」


 ヴァンプの男の強気な様子に鉄人は切れ長の目を精一杯見開き驚きを露にする。次いで口許を押さえくつくつと笑う。その笑いは次第に大きなものとなり最後には格納庫いっぱいに響く可々大笑となった。


 普段、多々良に比べると感情を押さえ寡黙な鉄人のこの振る舞い、彼をよく知るミドガンドの一同は驚き呆然とした。


 鉄人はまだ笑い収まらない様子でいぶかしむヴァンプを引き寄せるとその肩をバンバンと叩く。その仕草は一見親しげでありつい先だってまで殺し合いを演じた(かたき)の敢闘精神を讃える様にも見えるが何処か芝居掛かっておりそれが感の鋭いデボラを不安にさせた。


 「いや、いや、たいしたもんだ。屈しても心は折れずか、全く持ってヴァンプってヤツぁよう…………」


 するりとヴァンプの肩を叩いていた手とは反対の腕が動き相手の懐に潜り込む。


 「あっ!?」


 ヴァンプは焦り鉄人から身を離そうとするが時既に遅く素早く引き戻された鉄人の腕には手のひらにはナイフが握られていた。

 すっぽりと手のひらに収まる程の電磁ナイフ、刃渡りはそう長くはないが荷電し刃を走らせれば鋼鉄も裂ける立派な兵器だ。


 「抜け目なくてずる賢くて実にたいした奴らだ。降伏ってのは俺たちの国じゃぁ戦闘行為の一切を停止して相手の支配下に入ることを言うんだが、どうやらあんたらにとっちゃぁ相手の懐に潜り込んで隙あらば背中からブスリって意味らしいな?

 いやはや、ところ変われば品変わる、銀河規模ともなるとその意味合いまで違ってくるとはな、ひとつ勉強させてもらった」


 「くそっ!」


 男は悪態をつき鉄人の腕を振りほどくと拘束した腕を振り上げ殴りかかる。

 鉄人はそれを優々とかわし踏み出した脚を掛け男のバランスをす。しかし男は転倒しないいつの間にか鉄人が彼の襟首をガッチリと掴んでいたのだ。


 鉄人は振り向き男から取り上げたナイフをデボラに放ると多々良を見る。それに頷いた多々良、メイシャンを呼び指示を与える。

 

 一同が会するこの場所、格納庫、その扉がゆっくりと動き出す。ヴァンプたちが潜った入り口とは違うガルガンティスの様な大型の物体を収容するためのハッチだ。

 やがてハッチは完全に開き止まる。その向こうには黒々とした闇を湛えた星空が広がっている。


 鉄人は男を引き吊り歩き出す。鉄人と多々良、ふたり以外の全員が男の運命を察しその恐ろしさに身体を強ばらせる。

 

 「やめろっ! やめてくれっ!! もうアンタたちに逆らわねぇっ、本当だっ、頼むから助けてくれっ! 何でもするっ、何でもくれてやるっ! だから……なぁ、助けてくれよぅ、誰かっ、誰かぁぁぁ~~ーーーー!!」


 男の必死の嘆願、だがそれに応じる声は何処からも挙がらない。ヴァンプたちも顔を青ざめさせ男と視線が合わないように俯いている。叶うなら耳も塞ぎたいだろうが余計な事をして鉄人の目にとまりたくはないのだ。


 やがて鉄人はハッチの縁まで辿り着く、手にした男を前へと突き出す。


 「じゃぁな」


 それだけが告げられ男は星の海へと放たれた。男の叫びはすぐ真空に遮られ聞こえなくなった。


 「さて、御一同、他にも物騒なものを懐に仕舞っていたら出す事をお勧めする、尤も、諸君らも彼の様に身ひとつで宇宙遊泳と洒落込む貴重な体験をしてみたいと言うのならば手を貸すに吝かではないが」


 そう指を指す先には先程の男だった死体が漂っている。その身体からは既に水分が抜け落ちまるで干物か何かの様だ。元々体格のいい男であったが為にその変貌ぶりは見るも無惨。

 呼吸が行えなかった為か首筋に掻きむしった痕も痛々しくその表情は苦痛と絶望が入り交じった凄惨なものであった。


 その様なものを見せ付けられてはヴァンプの闘志とて挫かれる。

 元より抵抗の意思などない者は粛々とメイシャンが捕虜の収監区画とし提供した倉庫へと連行され、凶器を携帯していた者も簡単な事情聴取の後に同様の区画へと押し込まれた。


 因みに倉庫内はメイシャンが溜め込んだゴミで溢れかえっており、捕虜たちはそこへ入る前にまず片付けから始めねばならなかった。

 結局彼らが掃除に勤しみ戦闘時以上に疲労困憊となりようやく床に就いたのは環状銀河標準時間にして明け方の事であった。




 翌日、捕虜たちは寝入りばなを叩き起こされ竜戦艦よりミドガンド高速艦へと身柄を移された。


 デボラたちの話し合いの末、竜戦艦でウィルミンを目指し全滅寸前まで追い込まれたデボラ率いる救出部隊はミドガンドへと帰還する事が決まったのだ。

 ウィルミンに向かうのは多々良を始めメイシャン、サクラ、山羊のアマタタカハラ以来の面々、それに鉄人とティラーニャ、エレノアの未だガルガンティスが健在な三名。


 捕虜の移送も終了し、ミドガンドへと戻る隊員たちが作戦の成功を託し別れを惜しむなか、そっとデボラがティラーニャへと近づき彼女の肩を掴んだ。


 「ティラ、くれぐれもよろしく頼む、多々良を始めどうにも常識のタガが外れた無茶ばかりする連中ばかりだ。あいつらがやり過ぎないよう手綱をしっかりと握れるのはお前しかいないんだ。頼むからミューツを助け出して問題も最小限に留めて無事戻ってきてくれ」


 そんなデボラの期待に満ちた言葉にティラーニャは泣きそうになる。よもやここまで信頼されていたとは………………ではなく、この問題児の集団を任されたからだ。


 「えっ!? 無理ですよ、私なんかじゃ荷が重すぎますって、お願いですからデボラお姉様もウィルミンまで同行してください、指令の許可は得ているんでしょう!? なら捕虜は小隊長たちにお任せしてお姉様もウィルミンまで同行したって……」


 「ふ、『お姉様』か、その言葉を拘りなく言えるようになったんだ。今までのティラなら固っ苦しく『副官殿』なんて敬礼をしていたのにな……

 ティラ、お前は知らないだろうがミューツもアタシもお前が士官学校に入学して以来どこか壁を作られていたように接してきて内心淋しく思ってたのだ。

 成長したなティラ、そんなお前なら安心して任せられるよ。それじゃぁなティラーニャ、よい報告を本国でまっているぞ!」


 「デボラお姉様……… そんないい話風に纏めたってダメですよ。って、どこ行くんですか!? 話はまだ終わってませんよっ。ちょ、まっ、待ってって、こらぁっ! 逃げるなぁぁ~~ーーーーッッ!!」


 ティラーニャの叫びも虚しくデボラはそそくさと立ち去りさっさと高速艦に乗り込んだ。


 高速艦は総員の乗り込みを確認すると最早この場に留まる必要などは無いとばかりに抜錨、挨拶もそこそこに宙域を離脱した。

 ティラーニャは全力航行で漆黒の海を遠く離れて行く高速艦をいつまでも睨み付けていた。






 

  


 


 


 


 

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