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禍福はあざなえる縄とよく似ている13 黒いガルガンティス

 デボラの駆るガルガンティス、マシュールが手にしたブラスターの引き金を絞る。


 忠実なる彼女の兵器は主の殺意に応えその銃口から白光する熱線を発する。

 それは当たれば分厚い合金すらも穿つ破壊的なエネルギーの塊だ。


 しかし彼女が的とする黒のガルガンティスは優々とそれを避けさらには互いの装甲が触れ合う程に接近、手にした小型のナイフを振り抜いた。


 「ぐぅっ!」


 ナイフはブラスターライフルを両断。漏れ出た荷電粒子が小爆発を起こし一瞬マシュールのモニターを白色に染める。


 視界を奪われたまま咄嗟にデボラは操縦桿を握り込み無手となったマシュールの腕を振り上げさせた。


 その腕は何者にも当たる事はなくすかされたが黒いガルガンティスの追撃をかわす事には成功した。

 漸くに視界が回復したモニターに映るのは少し距離をおいた敵性の巨人。


 『いやぁ、あの状況で反撃が来るとはよぅ、一瞬焦っちまったわ。やるねぇアンタ』


 余裕の態度で通信をしてきたのは相手方のガルガンティス、そのモニターに映るのは青白い肌が特徴のヴァンプの男であった。


 「ふん、ひと拐いごときに誉められたとて嬉しくも何とも無い、すぐにその薄ら笑いの表情、恐怖に染めてやるさっ」


 『おおっ! この期に及んでそんな大口叩けるなんてアンタ大したオンナだなぁ。どうだい、俺の牝になりゃぁこんな戦場に出なくてもいい暮らしさせてやるぜぇ!?』


 ヴァンプの男はモニター越しに舐める様な視線をデボラへと向ける。


 『見てみろよ、もうお仲間は二機が残るのみだ、そろそろ白旗あげたって不名誉たぁならんさ、判ってるんだろう!? アンタらじゃぁおれたちの相手にゃぁならんのはさぁ』


 確かに奇襲には失敗した。

 

 ウィルミンへと向かう航路の半ば、幸運にもミューツを拐った戦艦を発見したデボラたちは高速艦の利点である速度を大いに生かし奇襲作戦を敢行した。

 然れども迎撃に現れたガルガンティス大隊の戦闘力は奇策などものともせず返り討ちに合う結果となる。


 既にデボラ率いるミドガンドのガルガンティスは七機中四機が失われその実力差を痛感するに至った。

 

 大破されつつも人死にが出ていないのはミドガンド勢の幸運などではなく唯単に黒いガルガンティスの隊が遊び半分で彼女たちを弄んでいるからに過ぎない。


 不躾な視線とねっとりと粘着く様な口調に耐えかねデボラは通信を遮断する。切り際にひと言を添えて。


 「せっかくのお誘いだが慎んでお断りさせていただこう。貴様の×××ではアタシが満足出来そうにないしな、テメーは故郷(クニ)に帰ってママとでも××××してやがれっ、××掻き坊やがアタシみたいないいオンナ口説こうなんて夢見てんじゃねぇぞ、この××××の××野郎っ!!」


 図星を突かれたのかヴァンプの男は怒り狂った様に猛攻を仕掛けてくる。


 冷静さを欠いた攻撃は精彩を失い何処か雑である。

 しかしその様な操縦でも黒いガルガンティスはウィルミンの精鋭機、素早さもあり一撃も強力だ。


 「ッッアァッ!!」


 ブラスターの暴発で指のもがれた右腕では替えのブラスターを持つこともブレードを扱う事も出来ない。デボラは不馴れな左腕でブレードを振るい何とか敵の攻勢を凌ぐが防戦一方となり状況は芳しくない。


 味方側の健在なガルガンティス、ティラーニャとエレノア、鉄人組に助勢を乞おうにもあちらもまたそれぞれに黒いガルガンティスを相手に苦戦を強いられている。

 

 「ッ!! しまっ……」


 ちらりと大口径ブラスターを放つティ・アンプルに視線を逸らしたのがいけなかった。


 一瞬とも言えぬ僅かな隙を突かれ黒いガルガンティスが左腕に構えた盾を押し出しデボラのマシュールを押し込んだ。

 体勢の崩れたマシュール、その左腕の付け根にブレードが食い込みぐるりと刃が回転、黒いガルガンティスの脚部がマシュールの腹を蹴りあげその勢いのままブレードが跳ね上げられた。


 ブズッ


 そんな音と共にデボラの目の前のモニターに左腕大破の警告灯が灯った。


 ついに残った左腕までが失われたのだ。


 モニターに大写しになった黒いガルガンティスがニヤリと嘲笑(わら)った。

 普段なら隙が大きすぎ反撃の余地を与える為に素人しかやらないような大振りの構えをとる。

 この一撃でデボラごとマシュールを両断するつもりなのだろう。


 胸に渦巻くはこのような名も無き戦場で果てる無念、そして親友の乗る艦を目の前にしながらも助け出せなかった、必死に手を伸ばしそれでも届かなかった無力感。


 最早抗う事すらも許されない鋼鉄の棺の底でデボラは己が不甲斐なさに歯軋りした。


 「ミューツ、スマンッ!!」


 ダダダダダッ!


 突然にブレードを構えた黒いガルガンティスが横合いからの無数の礫に身を打たれデボラへの斬撃を中断させる。


 そう、それはあたかも道化師が四肢を出鱈目に振り回し踊る様によく似ていた。


 しかしその身を穿つ礫は笑いをとるための玩具じみたものなどではなく、その一粒一粒は殺意を含んだ必殺の兵器の塊であった。


 デボラのすぐ目の前で彼女を害そうとしたガルガンティスはその(はらわた)に収めたヴァンプもろともに爆散、真空に漂う無数の宇宙塵の仲間と果てた。


 危機を脱し呆然と逆転した立場で虚空を漂うデブリを眺めるデボラ、偶然にそのカメラの前に漂ってきたのは小さな涙滴の形をした小さな金属製の塊。

 見覚えがある。デボラの予測が正しければこれこそが彼女の窮地を救った礫の正体であろう。


 彼女は知っている。この僅か三十センチ程の鉄片がどれ程の殺傷力を秘めているか、これを無数に浴びたガルガンティスがどの様な末路を辿るかを。


 しかしその開発者はその新兵器の完成を待たずにデボラたちとミューツを追う旅に出た筈だ。ならば何故その未完成の兵器がここに?


 彼女は呟いた。故郷に置いてきた筈の未完の兵器の名を。


 「…………機関砲、120ミリガトリングガンが何故ここに!?」


 『ホ~~ーーーーーホッホッホッホ、最ッッ高ですわっ!! なんと言う破壊力! なんと言う制圧力! 発射時の重く響く轟音すらも愛おしいですわっ、真空の空間に隔てられこの迫力を皆様に直接お届け出来ないのが残念ですが、せめて通信越しにお聞きくださいませなっ、これこそが皆様の死出を告げる鐘の音ですわっ!!』


 幼い声に似合わぬ物騒な言葉に続いたのはスピーカーよ壊れよとでも言うような轟音、彼女の告げる鐘の音とやらはスピーカーの音域の許容量を易々と越えガリガリと鼓膜を揺らす不快な音にしかならなかった。


 しかしその効果はやはり絶大、ティラーニャとエレノアに対峙していたガルガンティスを薙ぎ払いついでにとばかりに後方に展開しウィルミンの戦艦を護衛していた黒いガルガンティスをその鋼の秋雨の餌食とする。


 火線の出所はとマシュールの首を振り視界に収めるとデボラは自らの眼を疑った。


 「バカな!? あれは竜族の戦艦、何故彼らが我々に助力を!? わからん、全くわからん、あの竜はアタシたちの味方なのか!?」


 そこにいたのは環状銀河惑星起源の知性種生命体全てが星の海原へと進出した際にその船のお手本とした竜族の戦艦、しかも国家が保有するであろう最大規模の大型戦艦に匹敵する大きさの竜戦艦であった。


 ある筈のない未完の兵器がこの場に存在し、それを所有しているのがミドガンド籍の艦船ではなく環状銀河の遥かな遠方に居る筈の竜戦艦、そしてそれは本来彼女の種族とは全く無関係のウィルミンとミドガンドの抗争に介入をしている。

 疑問ばかりが増え一向に答えの光明の一筋すらも見出だせない。

 そしてそれはウィルミンの部隊も同様であった。


 『竜の戦艦に発する。我々はウィルミン思想体特務部隊、詳細は機密ゆえ伝えられぬが本艦は作戦中である、本作戦の意図は決して貴公の属する星域を害するものではない、速やかに武装を収めこの場より撤収願いたいっ。

 繰り返す。本作戦の意図は決して貴公の属する東域を害するものではない、速やかに武装を収めこの場より撤収願いたいっ』


 竜はその機動性能、火力から一隻で通常の一個艦隊に匹敵するとも言われている。ましてやあれほどの大型艦だ、その戦闘力は想像を絶するであろう。

 その事はつい先程までミドガンドの追撃隊を翻弄していた黒いガルガンティスをいとも簡単に無力化させた事からも明白。

 ウィルミン勢も突如現れた竜戦艦が敵対しないよう必死なのだ。


 しかし謎の闖入者はその願いをけんもほろろに一蹴する。


 『貴殿方ウィルミン思想体の皆様が如何様におっしゃられましょうともヒメの主の怒りを買ったことに間違いはございません。悔恨の焔に身を焼かれつつ己が蒙昧さを死の深淵に堕ちるまでの短い時間で噛み締めるがいいですわっ!!』



 艶やかな光沢の艦の装甲の隙間から突き出た黒鉄の銃身が回頭しガトリングガンの銃口がウィルミンの艦船へと向けられる。

 六本の束ねられた銃身が回転を始め先端が火を吹くと次々と120ミリの弾丸が吐き出される。


 「待てっ! あの艦にはまだミューツが乗っているんだっ!! アイツごと沈めるつもりかっ!?」


 思わずデボラは叫ぶ。

 

 しかし一旦吐き出された弾丸は獲物を穿つまでは止まらない。制止の声も虚しく愚直なまでに唯まっすぐに空間を駆け抜けた弾丸の雨は僅か数秒の射撃で目標をガリガリと穿ち砕き粉微塵にした。


 果たしてミューツは無事なのか!? 漂うデブリの中、けぶる靄の向こう、息を殺しモニターの中に映ったのは無傷のウィルミンの軍艦。

 竜戦艦は僅かに目標を逸らし艦船のすぐ隣に浮かんでいた小惑星を標的としたのだった。


 「はぁぁ~~ーーー……」


 ほっと安堵の息を吐き出すデボラの耳に届いてきたのは彼女もよく知る少年の冷えきった声であった。


 『今のは威嚇です。妙な行動を起こせば次は戦艦を直接狙います』


 「タタラッ!? 何故タタラが竜戦艦に!? いや、テツヒトの新兵器を竜族の艦が保有しているのを考慮すればアイツがこの場に居るのも不思議ではない。

 そうか、あの竜はタタラの指揮下にあるのか!

 おい、タタラ! あの(フネ)にはミューツが乗っているんだっ、ヤツらと交渉するにしてももっと穏便な方法をとれっ! あんな無謀な手段ではヤツらとて何を考えるかも判らんっ!!」


 『その声、デボラさんですね。僕は何があろうともミュー姉ちゃんをウィルミンから取り戻します。ウィルミンに姉ちゃんが辱しめられるのならばいっそ殺してでも、奪い取る。

 ウィルミン(そちら)もまだやるのならその覚悟で来てください。僕は貴殿方を生きて帰らせるつもりなどありません。この何処とも知れぬ宙域の片隅で誰に知られる事もなく死してもなお漂うデブリとなる覚悟のある者は反抗を続けるといい』


 「……タタラ」


 デボラは目の前の戦艦に搭乗しているであろう少年の背筋も凍る声を耳にし己が身から血の気が引いていくのを実感した。多々良の本気をデボラは知っている。姉を愚弄され身ひとつでヴァンプに殴りかかったあの時、多々良は己が身の危険など全く考慮に容れていなかった。言わば捨て身となった彼の本気(・・)がいかに本気(・・)であるかを。

 その場合囚われの親友の身は多々良の言葉通りウィルミンの軍艦もろともに果てる事となろう。


 「…………テツヒト、タタラを止めろ、最早アタシの言葉などアイツの耳には届かない。最悪の事態を回避出来るのはお前だけだ」


 『…………出来んな、俺も弟と同意見だ。ミューツが奴らの手に落ちるのならやむを得ん』


 最後の望みとティ・アンプルに搭乗する鉄人に絞り出すような懇願を行うが相手からはいっそ無情とも思える答えしか返って来なかった。


 鉄人は知っているのだ、弟が姉を見捨てる事など無いのだと。しかし交渉は常に非情に徹した方が有利に運ぶ。多々良とてその心中は狂える程の自責に蝕まれているであろう。しかしそれを表には出さず冷徹にウィルミンに対して脅しをかける。

 ならば兄としてそれを支持しなければなるまい。例え味方から非難されようともそこにしかミューツを取り戻す手がないのであれば。


 『ふん、竜を従えたからといい気になってるようだが我らはウィルミン軍総統直属の部隊、我らと事を構えれば全軍を挙げミドガンドを……』


 『撃て』


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!


 『ぬおおぉぉぉっ!??』


 追い詰められそれでも強気に放たれたウィルミン戦艦の艦長の言葉は言い終わる前に無数の弾丸によって遮られた。

 今度はガトリングガンは狙い過たず戦艦の鼻先を捉え装甲に覆われた艦首を砕く。そのままゆっくりとガトリングガンは首を振り戦艦を少しずつ鉄屑へと変えてゆく。


 『やめっ、やめてくれっ、わかったぁっ、わかったからっ頼むっ降伏するっ! お願いだぁぁぁっ~~ーーーッッ!! おねがいしますからぁぁぁ~~~~ーーーーーーーーーッッ!!!

 もっ、もう、ていこっ、しないから………たのむから……ひっ、たの……ねがいしま、す。ひぐっ、ぐすっ、…………たす………け、なん、でも……しま……ずっ、からぁ………ひっく』


 艦長の懇願はやがて悲鳴に変わり遂には嗚咽混じりの嘆願となった。


 するとガトリングガンの攻撃がぴたりと止む。


 竜戦艦から多々良の冷えきった声が響く。


 『メイシャン、僕は攻撃停止の命を出していないよ。どうして止める!?』


 どうやらこの射撃中断は多々良の意図した事ではなかった様だ。焦りを帯びた少女の声が答える。


 『も、申し訳ございませんっ、機関砲の給弾が間に合わず途切れてしまいました。暫しお待ちくださいませっ、すぐ続行いたしますわ』


 『四十秒』


 『畏まりましたっ!!』


 モニターの隅にびしりと敬礼を行う竜族の少女、ウィルミンの軍人たちは自らの降伏が受け入れられた訳ではなく再び四十秒後に地獄が始まる事を知り怖れ戦いた。


 しかし四十秒の猶予が与えられたとも採れる。


 蹲りやって来る死に怯えていた艦長はその涙も鼻も垂れ流したまま僅かな四十秒に賭けた。


 『降伏するっ! 降伏するっ! 捕虜でも奴隷でもなんでもいいっ!! お願いだから助けてくれぇっ!!!』


 最早指揮官の威厳もへったくれもない唯の叫び、ウィルミンの艦橋からも避難の声は挙がらない。死の淵に立たされた乗員誰もが艦長と意見を同じくしているのだ。

 

 しかしモニターの前に立つ少年の返答は素っ気ないものであった。


 『降伏も捕虜も望みません。此方の要求は唯ひとつ、僕の姉、ミューツ・リュー・ミリュノフの返還です。受け入れられない場合は彼女ごと貴艦を殲滅します。

 これは先程伝えた筈ですが!?』


 艦長はコンソールにしがみつき血を吐くような声で応じる。


 『…………き、貴殿の、姉君は既に高速艦で本国へと輸送中だ。我々はここで貴殿らの足留めを命じられたのだ。………だが頼むっ、頼むから我々の降伏を受け入れてくれっ。貴殿に今後一切の敵対をしない事を誓おう。

 貴殿の姉君の救出にも艦の総員を挙げ協力させていただく』


 『………………………………ならばこの場で油を売っている猶予は最早ありませんね。さようなら艦長さん、次の一撃でそちらの艦の動力部を撃ち抜きます。

 そちらの艦が爆散するか航行不能になるかは知りません。

 ですが僕はウィルミンを焦土にせねばならなくなりました。急ぎこの場を去りましょう』


 『そん……な………………』


 その凍りつく程に非情な通達に艦長は崩れ落ちた。駆動部を撃ち抜かれ例え爆散を免れたとしてもおよそ艦の五分の一を失った戦艦での航行など出来はしない。

 ここは環状銀河西域と北の境界、云わば辺境域だ。

 このコロニーも無い星域を通過する艦と言えば宇宙海賊が精々だ。大破した戦艦で漂流する難民などは格好の獲物だろう。

 海賊の中にはウィルミンの圧政から逃げ出したダンピールや屍食鬼も多数居る、果たして彼らに見つかったヴァンプがどの様な運命を辿るのかは想像に難くない。

 四肢の腱を断たれいっそ死んだ方がマシな責め苦を負わされる。多少の怪我などは数瞬にして治るヴァンプの頑強さは反面この様な場合に厄介だ。

 死を望みながらもその生命力故に永い時を苦痛を友に過ごさねばならなくなる。


 いっそ戦艦の爆破に巻き込まれここで命を落とした方がマシ、そんな思いも脳裏に掠めるがやはり死にたくはない。


 「待てタタラ、この場で彼らを皆殺すと言うのならその身柄、我らミドガンドが譲り受けたい」


 生きて母国の土を踏める望みを失い悲嘆に暮れるヴァンプたちに一筋、希望の糸を垂らしたのはつい先頃まで彼らが玩具の様に弄んでいたミドガンドの副官、デボラ・ショウホープそのひとであった。


 「コイツらは特務部隊と言った、ならばウィルミンでも一級の軍人どもであろう。ならばウィルミンにしても唯磨り潰されるのは惜しい筈だ。捕虜とすればミューツとの身柄交換にも使えるやも知れない」


 殲滅ではなく捕虜にする、その言葉はヴァンプたちの希望となった。

 

 その願いに少年はどう答えるか、ヴァンプたちはじっと息を殺し自らの運命を決するひと言を待つ。


 『デボラさん、大丈夫です!』


 一体何が大丈夫なのか!?


 すぐに殲滅するから大丈夫なのか? デボラの願いを聞き入れ捕虜にするから大丈夫なのか?


 『給弾は終わったようです、そんなに慌てずともすぐに終わらせますから。一緒にミュー姉ちゃんを追いましょう!』


 後者であった。


 「いやいやいやいや、だからそうじゃないっ、コイツらを捕虜にしてミューツと交換するようウィルミンと交渉しようってアタシは言ってるんだっ!! アタシもコイツらは憎いがまだ利用価値があるんだ、ならば殺さずに有効に使おうって言ってるんじゃないか!」


 デボラは慌てて彼らの有用性を多々良に伝えるが少年は小首を傾げ一向に理解しようとしない。


 『でも、デボラさん、彼らの何処にミュー姉ちゃん程の価値があるんですか? 交換ってのは互いに同等の価値を見出だしたものをやりとりするものでしょう? 

 彼ら全員が束になったってミュー姉ちゃんの爪先程の価値もあるとは思えないんですが…………』


 デボラは頭を抱えた。どうにも今の多々良には話が通じない。無論デボラとて親友と敵の捕虜、等価かと問われれば首を振るがそう言った話ではないのだ。

 環状銀河の戦時の取り決め、いわゆる連合憲章により降伏した相手への過剰な追撃は厳に戒められており捕虜は相応の金銭での返還、もしくは互いの国家の交渉による返還が義務付けられている。

 ここで無力化した相手を殲滅でもしようものならばミドガンドは各国から白い目で視られる事となるであろう。

 多々良と鉄人はミドガンドの客分の身でありこの法を遵守する必要などは無いと言い張れるがデボラたちはそうはいかないのだ。


 頭の固い多々良と未だ撃ち足りぬと駄々を捏ね戦艦から銃口を外そうとしないメイシャンを口を酸いくして宥め、すかし、説き伏せ、ヴァンプの捕虜を何とか竜戦艦に収容してのはそれから数時間後の事であった。


 


 

 


 

 

 


 

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