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禍福はあざなえる縄とよく似ている11 戦艦梅翔

一話書き上がりましたので投稿させていただきます。

 「さて、これからの事なんだけれど」


 昂った気持ちを抑える為、多々良はまだ残っていたお茶をひと飲みし呟いた。

 

 デボラの通信はミューツが拐われた事、そしてミドガンド帰還後、環状銀河西域防衛に支障がない規模での奪還隊を組織しウィルミンへと向かう事、多々良は指令の許可を得た後に合流せよとの旨を伝え終了した。


 多々良が知るウィルミンの知性種と言えばヴァンプとライカンスロープだ、他にもヴァンプの眷族であるダンピールなどが居ると話には聞いた事はあるが、直接相対したことはない。


 ライカンスロープはまだいい、彼らは粗野な面もあるがティラーニャやガニガスの様な規律正しい実直な者も居る。

 しかし多々良の印象ではヴァンプは最悪だ、最初に会ったのが派遣部隊の指令であったのもあるが、他の人々に話を聞いてもヴァンプを褒める者などはひとりとして居なかった。

 ウィルミン思想体が何を思いこの様な凶行に及んだかは判らないが十中八九ヴァンプ主導の行為だ、そんな悪辣な彼らに囚われミューツは無事なのだろうか、考えるだに不安と焦燥が多々良を苛む。


 「まずはミドガンドを目指す、ここからだと大体どの掛かるのかな? 来るときは高速艦を使ったから四日ほどで来れたけど……」


 「星船、高速艦みたいに、速くない、全力航行、しても、二週間、通常で、一ヶ月、かかる」


 「そんなにっ!?」


 ミドガンドはウィルミンの様な大型の戦艦を所有していない、理由は維持費、対スナーク戦の戦艦の有用性などが挙げられるがその最たる理由として防衛範囲の広大さに対する人員の不足がある。

 現在ミドガンド防衛基地を中心に防衛基地はこの西域に七つ存在している。

 これは防衛基地の数としては極めて少ない数であると言えよう。それは他の宙域に比べこの西域の人口が少ない事と資金力の不足がある。

 これの打開策としてミドガンドは高速艦の開発に力を注いだ。

 高速艦には巡洋艦などの様な高火力が存在しない代わりに移動力に特化した性能がある。

 この速度とガルガンティス隊の練度で広い宙域をカバーしているのだ。


 対して星船は居住性能、長期間航行を重視している。通常の艦船には想像もつかない程に艦内は広く快適に造られ、更には倉庫、食料を生産するプラントすらも完備されている。

 その犠牲として兵装などは皆無、僅かに兵器と呼べるのは隕石やデブリから船体を守るために備え付けられた防護膜だけである。

 

 その様な設計思想の元に建造された艦船に速度など期待しようもない、高速艦の速度に慣れた多々良にとっては絶望的な事実であった。


 「……どうしよう!? まさかそんなに速さに違いがあるだなんて……やっぱり月影単機でミドガンドに行ってサクラたちには後から来てもらうしか……指令に話しておけば僕のいない一時的にしろ保護してもらえるだろうし」


 そんな悩む多々良の肩をちょんちょんとつつく小さな指先。


 振り替えると何故かドヤ顔のメイシャンがそこに居た。


 「……………?」


 「……………………………!」


多々良はメイシャンを無視し思考に埋没する。


 「ううん、そうだな、そうしよう! サクラたちにこの船を任せるしかないね、また海賊が来ないか心配だけど、サクラには魔法もあるから大丈夫だろうし…………」


 最良ではないが次善の手段を講じる多々良の肩を再びメイシャンがつつく。


 振り替えると何故か親指で自らを指し示し「まかせろっ!」といった雰囲気をみせるメイシャン。


 「……………??」


 「………………………………!!」


 「まずは増槽だね、さすがに月影のエネルギーじゃミドガンドまで到達する前にすっからかんになるだろうし……てか、あんちゃんじゃないのにそんな難しそうな事出来るのかな!? でも、やらなきゃいけないし、よしっ! 僕だって伊達にあんちゃんの弟じゃないんだっ、やってやれない事じゃないさっ。

 最悪増槽を抱えて空になったタンクにそこから注げばいいんだから」


 「ってご主人様ぁぁ~~ーーーッッ!! 何故にそこまで無視なさるのですかぁっ!?? このご主人様の忠実な(しもべ)アオ・メイシャンならばその様な問題一発で解決出来る妙案がございますのにぃぃ~~ーーーーーッッ!!」


 「え、だって、メイシャンの策でしょ~~ーー!?」


 多々良とて先程からメイシャンが何かしら多々良の気を惹こうとしていたのは気が付いていた。

 しかし、メイシャンなのである。この短時間の付き合いでも彼女がどれ程のトラブルメーカーであるかを理解した多々良は敢えてメイシャンに話を振るのを控えていたのだ。


 「まぁ、随分と信用が無いようでございますね。このような困難な局面にこそヒメの叡知が輝く出番だとご主人様ならば永きに渡る主従関係の中で重々にご承知かと思っていましたのにっ」


 ぬけぬけと言い放つ、無論多々良は重々承知などしていなかった。そもそもにしてたった数時間前までは全く知らない赤の他人でしかなかったのだから永きに渡る主従関係などと言う事実とて無い。

 どうやらメイシャンと多々良では時間の流れまでが違っている様だ。


 「それで、メイシャンはどうしたらいいと思いますか? 簡潔に五文字以内で答えてください」


 彼女の機嫌を損ねない為にと多々良は一応メイシャンにも話を振ってみる。

 メイシャンは得たりと得意満面の表情で艦橋の硝子を指す。


 「アレですわっ!」


 「ぶー、六文字です、一文字オーバー、ちゃんと五文字以内で」


 「…………アレですわ」


 メイシャンの指の先には硝子の向こう側に見える星船と並走するメイシャンが乗っていた大型艦があった。


 メイシャンはあの艦に乗ってミドガンドまで行こうと言ってるのだろう。

 しかしアマタタカハラの星船程でもないが、大型戦艦は足が遅いと言うのは常識なのだ。


 多々良はその事を指摘しようとするも口を開く直前でメイシャンに制された。


 「仰りたい事柄は充分に理解しております。しかしながらそれは竜たる種の実力をご主人様がご存知無いからの事、ヒメに乗れば高速艦で数週間を要する距離もひとっ飛び、ご希望のウィルミン星域にだってちょちょいのちょいっ、あっとゆう間のこんこんちきで辿り着いてみせやがるですわっ!」


 「いや、『メイシャンに乗る』んじゃなくて『メイシャンの戦艦に乗れば』でしょう!?」


 興奮の余りの言い間違えかと多々良がメイシャンの言葉を訂正するもメイシャンはキョトンとする。ついでにサクラまでが多々良を不思議な目で見てくる。

 これでは自分の方がおかしいのかと多々良は戸惑った。


 「戦艦? いえ、『ヒメに乗れば』ですわ、生憎とヒメ、戦艦などは所有しておりませんので」


 これには多々良も慌てる。では彼女の乗っていた大型艦はいったい何なんだと言うのだろう!?

 

 「タタラ、あれ、メーシャン」


 とフォローするサクラ、彼女の指先は件の大型艦を指している。


 「はい? あれメイシャン?」


 しかし多々良にはサクラの言葉は通じない。むしろますます頭にクエスチョンばかりが増える始末だ。

 

 「うん、あれ、メーシャン、竜、からだ、ふたつあるの、ひとのかたち、竜のかたち、ふたつでひとつ、それが竜」


 「竜? それってあの戦艦の事を言っているの!?」


 サクラが『竜』と指し示したのは大型艦であった。

 しかしそれは多々良の常識で言えば戦艦以外の何者でもない、実際にミドガンドで扱っている高速艦を誰も竜などとは呼ばない。そもそもにして多々良の知識では竜とは蜥蜴や蛇に似た架空の生き物なのだ。

 エルフやライカンスロープの居る世界で竜の存在を否定するなどナンセンスでしかないのは承知しているが余りにも多々良が想像していた竜とは違いすぎる。


 「蜥蜴ッ!? 蛇ッ!? その様なものと同列に扱われては困りますわっ! 今でこそ竜は環状銀河の知性種生命体として認知されておりますが嘗て他の知性種が地上に居を構え大気圏を脱する手段を模索していた時分より数多の宙域を股に掛け支配していた覇者であるのです、それを言うに事欠いて蜥蜴の親類!? 蛇の又従兄弟!? ないわーー、ご主人様それはないッスわーーー」


 どうやら相当に気分を害したらしくメイシャンは普段の口調も忘れ憤慨している。


 これはさすがに自分に非があると多々良は平謝りに自らの思い違いを詫びた。


 情報を整理するに『竜』とは大気圏外での活動も自力で可能とする大型艦によく似た(・・・・)知性種生命体であるらしい。

 しかもブレスをはじめとする各種兵装を所持しておりそれも工業製品同様に付け外しが出来るとの事、さらには内部も艦橋があり、船室があり、兵器庫、食堂、倉庫、ガルガンティスまで置いておける格納庫まであると言う。


 ここまで来れば最早それは艦船なのでは? とも多々良は思うのだが、艦船とは竜という存在を他種族の人々が外宇宙へと進出する際に模して建造されたものであり元祖は竜の双体の片方だと言うのがメイシャンの主張であった。


 とにもかくにもメイシャンの片身である大型艦を使用しミドガンドへと向かう事が決定した。


 星船はメイシャンの先導で戦艦の後方へと連結される。星船が戦艦へと接近すると幾つものワイヤーが伸びその外装をがっちりと掴んだ。

 

 多々良はメイシャン、サクラ、そして山羊を月影に乗せ戦艦へと向かった。


 「うっわぁ」


 戦艦の格納庫は星船ともミドガンドの艦船のそれとも違った雰囲気を醸していた。


 何と言うかそう、それはまるで……


 「…………汚い」


 汚かった。至るところにゴミが散乱し埃が舞っている。


 格納庫はミドガンドの高速艦も同様なのだが、直接真空の空間と繋がっている、そこにはある種の障壁が存在しておりガルガンティスなどの個体は通しても酸素などの気体は宇宙へと漏れ出さない造りとなっているのだ。

 おかげでゴミや埃も大気と共に外へと放出される様な事にはならず溜まったままなのだ。


 「こ、これはその……やはりひとりでは掃除も行き届かずゴミを外へと捨てる訳にもいかず、仕方がなかったのですわっ、だってこの辺りゴミの回収場所もないんですものっ」


 必死に言い訳するメイシャンであるが、それにしても酷い。

 内装が格納庫とは思えぬ程に華麗なせいで余計汚さが目立つ。赤の柱には壊れたガルガンティスの腕や足が立て掛けられ精緻な彫刻が美しい壁面はうず高く重ねられたゴミの袋によってその半分以上が埋もれていた。

 足元に転がっていたジャンクフードの残骸、メイシャンはさりげなさげに隠すがゴミをゴミの山に隠して何の意味があろう。


 艦橋はさらに酷い有り様である。


 艦橋へと通じる扉が開かれた瞬間、メイシャンは顔を真っ赤に染め猛然とダッシュ、天井から吊り下げられた小さな布切れを毟り取り着衣の袖口へと隠した。

 隠す瞬間、多々良が目にしたのは毛糸で編まれた暖かそうなパンツであった。


 「さあさ、どうぞお入りくださいな。ヒメの艦内、中枢部にようこそでございますわ、どうか腰をおろしてお寛ぎになってくださいましな」


 先程のパンツなど無かったかの様な顔でメイシャンは多々良たちに薦めるがいったいどこに座れと言うのだろう?


 艦橋は足の踏み場も無いほどにゴミが散らかっており、まるで獣道の様な細い通路があるのみなのだ。通路は長年の酷使でぺったりと厚みを失った煎餅布団を経由し艦橋のモニターまで続いている。そのモニターにしても本来の扱いなどはされた様子はなく周辺に娯楽関係の映像チップが山となっている。

 

 「ぴゃっ!?」


 突然にサクラが小さな悲鳴をあげ多々良の腕へと抱き着いた。


 その足元を見れば五センチほどの赤毛のネズミに似た生き物がキィキィと耳障りな鳴き声をあげ食べかけで放置されていたスナック菓子の袋から飛び出しするりと艦橋の出口から走り去っていった。


 「ええ……と、今のはヒメの艦の乗組員でございまして…………」


 誤魔化しにしても苦しい言い訳をメイシャンは放つ。


 既にサクラは涙目だ。


 「タタラ、サクラ、もう、ここ、居たくない、星船、戻ろう? 星船に居て、メーシャンに、引っ張ってってもらえばいい」


 「おねーしゃまぁぁぁっその仕打ちあまりにも酷すぎますぅ~~ーーー、是非ともこのメイシャンと共に思い出に残る船旅を御堪能くださいませ~~ーーー」


 「イヤ、ここ、居たら、きっと、タタラも、サクラも、ヤギさんも、びょうき、なる。それにあんまりいい思い出、なりそう、ない」


 「しょんなぁぁ~~ーーー」


 サクラに拒否されたのがショックだったのかメイシャンはがっくりとその場で膝を突いた。振動で積み重ねられていた雑誌の山が雪崩を起こした。


 「ふぅ、気は進まないけど掃除しよう、しばらくはこの艦にお世話になるんだし、それなら少しでも住環境はよくしたいからね」


 もう半分以上泣き顔のサクラとメイシャンをなだめ、てきぱきと指示を与える。


 この様な時に手をこまねき只目的地までの道程を漫然と過ごさずに専念出来る事柄があるのはそれが例えゴミ屋敷ならぬゴミ戦艦の片付けであろうとも多々良にしても有り難かった。

 手を動かしていればミューツの身を案じ気がおかしくなる程に鬱々とせずに済むのだから。


 まぁ、メイシャンに礼を伝えようとは心の底から思わないのだが。        


 それからのミドガンド到着までの数時間、多々良たちは掃除をして過ごしたのであった。そう、ミドガンドでの一悶着が起こるまでは。

 



 

 


 

  



 


 

 

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