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禍福はあざなえる縄とよく似ている8 宇宙海賊

 やがて船は多々良が百足型のスナークと交戦したとおぼしき場所へと到着する。


 しかしそこにはミューツたちミドガンド防衛隊の姿は見えず唯一その付近に漂うガルガンティスとスナークの破壊された装甲の欠片が漂うのみ。


 「……ううん」


 多々良は顎を撫でながら唸る。

 そもそもにして惑星アマタタカハラに墜ちたのはミューツをはじめとした防衛隊の皆が目撃している。

 ここまで来ずともアマタタカハラの大気圏を脱した時点で多々良の乗った星船が捕捉されたはずだ。


 ミューツは言った。絶対に多々良を見捨てないと、姉を信じろと。

 多々良はミューツを信頼している。

 あの姉が誓いを破るなど考えられない。ならば多々良を救う以上の大事件が勃発したのかも知れない。


 「サクラ、これから伝える座標に目的地を変更して欲しいんだ」


 「うん、わかった」


 この船の操舵はサクラひとりに委ねられている。

 多々良にはアマタタカハラの船、いや、艦船自体を動かす技術などはなく、山羊もまた経験がないであろう。


 この星船の操舵は艦橋中央にある円盤にマナを通す事で可能となる。ここにサクラという魔法使いが居たのは何とも幸いな事であった。


 サクラが多々良の伝えた座標を円盤の端にマナと共に入力する。

 すると船はゆっくりと方角を変え動き出す。


 防衛隊にいったい何があったのか?


 多々良は焦りを覚えつつもそれを隠しじっとガラス越しの漆黒を眺める。焦りは余計な失敗を生む、何時であったか鉄人が言った言葉だ。

 「何時でも余裕を持て、危険を鼻唄で切り抜けられる男になれ。あたふたと慌てちまったら出来る事だって出来やしねぇぞ」

 思えばアマタタカハラでは余裕が無かった。鼻唄など唄うほどに心にゆとりもなく空回りしていた様にも思える。

 兄の言葉は何時だって弟を想っての言葉だ。それに従い多々良は食事の用意をし始めた。空腹では余裕も何もあったものでは無いのだから。


 「ごはん?」


 目敏く気付いたサクラが山羊を連れ近寄ってくる。


 「ああ、うん、もういい時間だしね、遅くなったけどお昼……いや、もう夕飯になるのかな? ともかくお腹減ったでしょ!?」


 多々良が手にした包みから目を離さずにサクラは何度も頷く。

 その口の端からは涎がつうっと糸を引き床に落ちた。


 「サクラは操縦見ていなくて大丈夫?」


 「うん、中央頭脳、危険、あったら教えてくれる。それまで、大丈夫!」


「そっか、それじゃぁ食事にしようか」


 「うん! ヤギさんも一緒に食べようね、多々良のごはん、とってもおいしいのよ」


 随分と仲良くなったようでサクラはヤギの首を抱くと嬉しそうに山羊に告げる。


 「あ、山羊さんはやっぱり野菜とかがいいのかな? だったら食糧庫漁って野菜か何か見つけないと……」


 「ヤギさん、多々良のお料理、食べてみたいって、言ってる。お肉でも、食べられるって」


 「ベエ、ベエエ」


 「そ、そう」


 アマタタカハラの偶蹄目はどうやら雑食の様、或いはあの過酷な環境下に於てはそう進化せざるおえなかったのかもしれない。


 「それじゃ料理したいんだけど、調理室とかってどこにあるんだろう? サクラ、艦内の案内図とかで描かれてたりしない!?」


 「まって、…………うん、出てる、こっち、案内する」


 と、サクラがモニターを確認し回廊へと続く扉を開いたところで警報が艦内に鳴り響いた。


 ビー、ビー、ビー、ビー、ビー、ビー。


 「な、なにっ!?」


 すわ、またスナークが舞い戻って来たのかと硝子の向こう側に目をやれば遠く宇宙の漆黒に灯る光点がチラホラ、どうやらとある一点に数隻の船がブラスターを射出しているようだ。


 「サクラ、望遠か何か出来ない!? 遠すぎてよく見えないんだ」


 「…………ごはん」


 未だ未練がましく食欲を優先させようとするサクラを説き伏せ硝子に目の前の戦闘を拡大させる。


 「……違った、ミドガンドの船じゃない」


 安堵と失望の混じった溜め息が多々良の口から洩れる。

 

 攻められている戦艦は巨大でありこの様な艦をミドガンドは有していない。また、攻める側の艦もつぎはぎが目立ち改造やニコイチ、サンコイチといったどうにもバランスを欠いた形状をしており一部には未塗装や色合いの違った装甲が張り付けてある、無論この様な艦もミドガンドには存在していない。


 おそらくはデボラより耳にした宇宙の無頼、『宇宙海賊』というものなのであろう。


 大型の艦を狙い周囲を囲みスラスター部に攻撃を集中するそれはまるで獣の狩りにも似ている。


 狙われた艦は宇宙海賊の旗艦と思しき船より発せられている青い光線によって反撃を封じられている様子、おそらくあの光は他の艦を牽引したりする際に用いられるトラクタービームであろう。


 大型艦が反撃をしていないのはトラクタービームを照射する直前に緊急整備命令でも出したからか、艦が整備と判断したせいで全ての武装に安全装置が働いたのだ。

 

 多々良は相手が宇宙の無法者ながらその手管には感心した。


 「サクラ、船を停止させて、惰性であっちの小惑星の裏側に。こちらに気付いた様子は無いけど一応こちらに類が及ぶ可能性は考慮しよう」


 てきぱきとサクラに指示を告げ自らは開けっ放しだった回廊への扉へと歩を進める。


 「タタラッ、どこ、いくの? まって!」


 多々良の思惑に感付いたサクラがその腕を取り引き留めようとする。

 多々良はその腕を優しく離させサクラの頭を撫で告げた。


 「あの大形艦を助けに行ってくるよ。困ってるだろうし、海賊なんて放っては置けないしね」


 「ダメッ! あぶないっ! かいぞく、ふね、たくさんいる。そんなきけんなことしちゃ、ダメッ!!」


 一度振りほどかれた腕を今度は多々良の胴体に回し、ついでに脚も巻き付けサクラは多々良の行動を阻止しようとするが。


 「ヤギさん、サクラをお願い。もし危なくなったら船ごとここを離れさせて」


 「ベエェ」


 少し困り顔で山羊にサクラを預ける。

 山羊もそれを承知したようで、サクラの着衣の首辺りをくわえると多々良より引き剥がした。


 「ヤギさんっ、はなしてっ、タタラ、あぶないトコ、いこうとしてる、サクラ、行かせないっ!」


 山羊の拘束を振りほどこうと暴れるサクラにそっと多々良は屈み目線を合わせる。


 「サクラ、僕は困ってるひとを見捨てて知らん顔してもいいってあんちゃんから教えられてはいないんだ。そりゃぁどうやっても無理な事まで面倒みろとは言われてはいないけど。

 幸い今の僕には月影がある、助ける力があるんだ、助けられるんだから僕は行くよ」


 「…………僧正様、言ってた、こまってるひと、いたら、助けてあげなさい、って、そうすれば、またどこかで、サクラ、こまってる時、だれかがたすけてくれることにつながるって」


 「さすが僧正様、サクラは僧正様が言った言葉が間違っていると思うかい!?」


 サクラは暴れるのをやめ、俯いたまま首を横に振った。


 「そうだね、だから僕は行くよ」


 「タタラッ!」


 「うん?」


 「絶対、もどってきて、サクラ、待ってるから」


 「もちろん!」


 最後に多々良はサクラを安心させようとにっこりを笑い格納庫へと続く回廊を飛び出していった。


 閉まる扉を見詰めサクラはひとり呟いた。


 「タタラ、こまってるひと、みんな、たすけようとする。サクラも、たすけられた。いつか、サクラ、タタラを、たすけてあげられるくらい、つよくなりたい」


隣に立つ山羊がサクラの決心を応援するかの様にひと声鳴いた。




 格納庫の開口部が開き月影がスラスターを噴かし飛び出る。


 既に四本の長刀は全て先の戦闘で失われている、射撃を苦手とする多々良は出来るだけ艦へと接近しようと戦艦に向けられたブラスターの閃光を掻い潜る。


 ぐねぐねと常人ならば失神しそうな軌道で宇宙海賊の艦船の群へと突っ込みそのうちの一隻の後部動力機関をめがけ背負った担架から引き出した大口径砲で狙い打つ。

 

 しゅぽっと先端から飛び出すペットボトル程の大きさの実弾、それは装甲を易々と穿ち内部で爆発、更に内部でなにがしかの可燃性物質も熱にやられたのか誘爆さえも起こし艦はふたつにへし折れるも


 完全に機能不全と陥った海賊艦は発砲を止めた。


 それと共に通信が月影へと向かい入ってくる。


 『ザッッ……ッメェ! いきなり何しやがるっ!? ザザザッ……レたちが……ザッ……と知っててケンカ……ザ、ザザッ…………』


 ノイズが酷くたいして意味の無さそうな通信に多々良は眉をしかめ次なる獲物へと襲い掛かった。


 対鑑には不要と温存していたらしいガルガンティスの群が海賊艦から出てくるがどれ程の数が居ようとも連合体のマシュールにも及ばない旧型ガルガンティス、それも整備も杜撰な機体など月影の敵ではない。

 反対に斬りかかってきたガルガンティスの得物を奪いお得意の接近戦へと移行した。

 長刀とは違う重い武骨なツーハンデットブレードを縦横無尽に振るい次々と艦船を行動不能に追い込む。


 『ザッ、……って、ちょっと待てっ! オレたちは別にオマエ……ザザッ…………』


 ブッ


 無理矢理回線を繋げ通信してきた海賊の言葉を切り捨てる。


 元より無頼の話など命乞いだろうと交渉だろうと応じるつもりなどはない、彼らはどの様な理由であろうとも連合体の知性種生命体から奪い犯し殺し生き永らえてきたのだ。

 

 宇宙海賊の旗艦と思しき月影は接近する。


 既に目標を目の前の大型艦からちっぽけな赤黒いガルガンティスへと移した旗艦は怒濤の反撃を試みる。


 全ての砲口が突然の闖入者に向けられ無数の火線が発せられる。月影はそれをひょろひょろと何処か頼り無い、だが確実に見切った機動でかわし手にしたツーハンデットブレードを振り上げる。


 行く手を遮るガルガンティスの四肢を裂き背を蹴り更に加速すると旗艦の腹、死角へと潜り大型艦を拘束しているであろうトラクタービームの発生機関にツーハンデットブレードを突き立てる。


 機関から照射されていた青い光が二、三度の瞬きの後に消えた。


 それと共に捕らえられていた大型艦が息を吹き返し主砲を海賊の旗艦へと向ける。

 

 同時に全方位に向け通信が開かれる。

 

 『よくもヒメの珠の肌に傷を付けてくださいましたわねっ! まさにゲスの極みっ! 乙女の敵ッ!! 悪逆非道な破廉恥漢は十万億土の彼方に消え去るがいいですわっ! 喰らいなさいぃっ!! 怒りの乙女ブレェェ~ーーースッッ!!!』 


 主砲から放たれた光の奔流はまるで龍がのたくる様に無軌道に空間を蹂躙する。

 その光は圧倒的な熱量を持ち、宙域のあちらこちらで海賊の艦船が『乙女ブレス』なる珍妙なネーミングの極光に触れ次々と融解、否、沸騰してゆく。


 『汚物はぁぁっ、消毒ですわぁぁっっ!!』


 「うわぁっとっ! あっ!!」


 光は助太刀の月影にも容赦なく襲い掛かる。


 予想の困難な光を避けサクラたちの搭乗する星船は無事かと確認すれば、そちらに高速で向かう艦船が一隻。

 特段サクラたちを見付けた訳では無さそうだが星船の隠れている小惑星を盾に光から逃れようとしているのは明白、星船は遠からず発見されてしまうだろう。


 「サクラッ!!」


 慌てて月影を反転させ件の海賊船を追いかけるも間に合うかどうかは五分五分、それでも多々良は最大限にスラスターを噴かし追い掛けた。


 『このヒメから逃れようなんてっ!!』


 大型艦も気が付いたのだろう。主砲を逃げる艦船の尻に狙い定め光を放つ。


 「駄目だっ!!」


 多々良の血を吐くような叫びも虚しく光龍はうねりつつ小惑星へと向かう。


 小惑星を光が包み込もうとした瞬間、光の円が現れその中に複雑な紋様が走る。次いでその中央からぶわりと膨らむ光の色は白。

 まるで大型艦の主砲のエネルギーと戯れるかの様に絡み合い、混じり合い、やがて空間に溶けるかのように双方の光が消え去った。


 「サクラッ!? 応答をっ! 無事なら返事をっ!!」


 『タタラ、サクラも、ヤギさんも、平気、ドラゴン、ブレス、こっちきたから、びっくりしたけど、魔法、使ってうちけしたから。

 それより、タタラこそ、平気? 痛いこと、ない!?』


 「うん、こっちもなんとかね、宇宙海賊も船ごと消えちゃったよ」


 予想よりも落ち着いたサクラの声にほっと安堵する多々良。

 しかしこれを聞き声をあげたのは大型艦の主であった。


 突然月影のモニターに割り込んで来たのは翡翠色の髪と瞳をしたサクラよりも幼い見た目の少女、頭頂には日本の枝分かれした短い角がぴょこんと生えている。

 その服装は何処と無く中華雰囲気を帯びている。


 『魔法! あのっ、貴殿方は、間違っていたら申し訳ございませんが、もしやアマタタカハラからいらっしゃった方々なのではありませんでしょうか!?』


 『そう、サクラたち、アマタタカハラから、きた。たすけようとしたタタラ、撃った。そんなこと、しちゃ、ダメッ!』


 『も、申し訳ございません。なにぶんよもやあの様な手段で捕獲されようとは思いもせず、頭に血が昇ってついブレスを見境なく放ってしまいました。まさかまさか御助勢いただけているなどついぞ思いもせず。

 心より反省いたしております故何とぞご寛恕いただけませぬでしょうか!?』


 『って、言ってる。タタラ、どうする? あぶない思いしたの、タタラ、だからタタラ、決めて』


 大型艦の彼女はその口調から随分と反省もしているようだ。何より無事宇宙海賊の襲撃から救いだす事が出来目的も達せられた。これ以上問題を拗れさせる必要もあるまいと多々良は口を開いた。


 「これからは周りにも気を付けてね、君の艦の兵装は随分と強力な様だし、周囲に味方が居たら今回の様に巻き込まれる危険も充分にあり得るんだ。

 まぁ、今度の事はお互い勉強したと思っておこうよ」


 『寛大なご処置、痛み入ります。そうですわね、ここは様々な知性種生命体が集う宙域、つい里に居た頃の癖で力任せに放ってしまいました。

 貴方様方のご助言、ゆめゆめ忘れぬよう日々研鑽に努めたく思う所存でございますわ』


 「ず、随分と物騒な所に住んでいたんだね!?」


 『ええ、そりゃあもう、ヒメがおいた(・・・)をする度に兄が先程のブレスなどかわいいと思える程の恐ろしい折檻をくだされたものです。

 ヒメはそれが嫌で嫌で……思い切って里を飛び出したものの、先の様な無頼漢に襲われる日々、世間様の風と言うものが如何にドラゴンに厳しいかを痛感する毎日でございました。

 そこへ颯爽と現れた貴殿方、まるでヒメには幼き時分母様に読み聞かせていただいた物語の中の皇子様が本を抜け出し憐れなヒメを助けに参ったのだと…………』


 「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」


 彼女が語り始めた長話の中に気になる単語を耳にし、多々良は口を挟んだ。


 『は? いかがいたしまして皇子様!?』


 「い、いや、別に皇子様じゃないけど……ってか君、ドラゴンって!?」


 『はぁ、ヒメの種族ですわ、ああ、申し遅れましたね。恩人に対しヒメともあろう者が失礼を。

 改めて、ヒメは東海……いえ、環状銀河標準言語で言うと環状銀河東域でしたか、そこを治める東海竜王広徳王が末妹、アオ・メイシャンと申します。どうぞよしなに』


 

 

 

 

 


 

 



  

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