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戦いは星々の狭間で12 お見舞い

明日投稿出来ないので今日は二話投稿します。

 今日もまたシミュレーターを使用しての訓練であった。


 黒沢多々良は少し気まずそうに格納庫へと顔を出した。

 理由は先日のティラーニャに対しての言動だ、彼女は未熟な多々良を心配してこそあの様に熱くなってしまったと言うのに、多々良は言われた通りに出来ない苛立ちにティラーニャに当たってしまった。


 冷静に思い返してみれば彼女の指摘は充分に的を射ていた。

 それなのに自分ときたら………


 「はぁぁ……」


 自己嫌悪が足を鈍らせるそれでも歩を進め何時しか多々良はガルガンティスが並ぶ格納庫へと辿り着いてしまっていた。


 「おはようっ! おや? 顔色が優れないな、どうした? 体調管理もパイロットの必須スキルの内だぞ!?」


 「おはようございますデボラさん、すみません、でも心配しないでください」


 「おはようございますタタラ、本当に大丈夫ですか!? 具合が悪いなら先生のところへ行って今日はお休みしてもいいんですよ!?」


 「おはようミュー姉ちゃん、ううん、大丈夫、少し寝付けなかっただけだよ」


 体調は万全とは言い難いがそれを理由に敵が並ぶ手加減をしてくれる筈などはない、憂鬱な気分で多々良は次の相手に顔を向けた。


 「オハヨーにゃ! うわっ、本当に酷い顔してるにゃん! タタラ、先生に診てもらったほうがいいにゃん、テツヒトがその顔見たらびっくりするにゃん」


 「にゃん?」


 「にゃん!」


 「エレノアだにゃん!」


 「そうだにゃん。あちしはエレノアなのだにゃん!」


 「ティラーニャじゃないにゃん?」


 「当たり前にゃん、ティラーニャよりプリチーキュートなあちしはラブリーエレノアちゃんにゃん!」


 「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 「ちょ、沈黙が長すぎるだにゃん! 何だかちょっぴり傷付くんだにゃ!」


 「ティラーニャは今日は休みだ。代わりと言っては何だがエレノアが今日は演習に参加する」


 「ぶふっ、ティ、ティラはっ、ぶふふっ、きょお、今日は、お休み、ぶはっ、お休みをとりまし………………ぶぷぷっぷふふふふふふっ」


 どうやらミューツは多々良とエレノアのにゃんにゃん会話がツボに嵌まった様だ、堪えてはいたがついには腹を押さえ笑いながら蹲ってしまった。


 代わりにデボラが前に出て多々良の疑問に答えた。


 「んんっ、先にミューツが言ったようにティラーニャは今日は休みだ。体調如何ではなくライカン特有の……その、なんだ……………あの日だな」


 どこかで最後は言い難そうに告げるデボラ。


 あの日?


 多々良は首を傾げた。あの日などと言われても判らない、黒沢家にはミューツがやって来るまで女っ気は全く無かった。女性と言えばよく顔を出す婆ちゃんこと小田渕タカ(81)くらいなものであった。


 多々良は思う。

 もしかしたら多々良の言動が原因で気を病んで体調不良に!? それとも多々良と顔を会わすのが嫌になりボイコット!? 

 考えれば考えるほどに不安は募ってゆく。


 「……あの、ミュー姉ちゃん、デボラさん、僕ティラーニャのお見舞い行ったら駄目かな!?」


 出した結論は直接ティラーニャの顔を見てみようとの案であった。


 只の体調不良ならばそれもよし、ボイコットならば話し合う。とにかく自分の非を認めて彼女に謝罪を乞い赦して貰おうと考えたのであった。


 「タタ、ふひっ。ティラーニャは大丈っ、ぶふふっ、ライカンスロープなら誰にでっ、ぶひひひほひっひっ」


 ミューツの発作は未だ続いていた。


 「………いいだろう、タタラ、ティラーニャの見舞いに行ってこい! 仲違いしたんだろう!? こういった場合は男の方から頭を下げるものだと決まっている。クロサワ・タタラ、本日貴様は休日とするっ、退室してヨシッ!」


 「ありがとうございますデボラさん! クロサワ・タタラ、ティラーニャ・ソノンの見舞いに行ってきますっ!」


 うさ耳も勇ましい女丈夫に礼を告げタタラは踵を返し走り去った。その決意に満ちた後ろ姿をデボラは眩しそうに見つめていた。


 「でもっ、ぷぷぷっ、よかったのデボラ!? ぶはっ。ティラーニャは今………ふひひひひっ」


 「そうにゃん副官殿、ライカンスロープのあの日って大概みんな不機嫌になるにゃん、ティラのところに顔を出したタタラが落ち込むのは可哀想にゃん」


 「いや、アタシはそうなるとは思わんな、むしろあいつらの関係はより深まると見た」


 「にゃん!?」


 「ぶほっ!?」


 確信に満ちたデボラの言葉にエレノアとミューツは首を傾げるのであった。


 「ミューツ、いい加減その不気味な笑いを引っ込めろ、聞いていて気持ちのいいものではないぞ」


 「隊長、頭オカシイみたいにゃん」





 その日は朝から憂鬱だった。先日多々良に言われた言葉はティラーニャの胸を深々と抉った。


 部屋に戻っても繰り返されるのは多々良のあの言葉、自分が悪いのは判っている。つい熱中し過ぎてしまい多々良に無理な注文を押し付けてしまったのだ。

 普段の彼女ならば落ち込みはしても気持ちを切り替え翌朝には颯爽とガルガンティスを駆るのだが………


「これは……アレ(・・)ね」


 ライカンスロープならば誰にでも月に一度は訪れるあの日、その日一日は感情の制御も効かなくなり今の感情が大袈裟に現れるのだ。


 欝ならばより一層落ち込み躁ならば周囲がドン引く程に明るくなる。


 故にこれが訪れたライカンは大抵気持ちが落ち着くまでひとり部屋に籠る。


 それはティラーニャも例外ではなかった。


 起床後すぐに自分の状態に気が付いた彼女はデボラに通信を入れた。本来ならば隊長であるミューツにとるのが順当だが今ミューツの声は聴きたく無かった。聞けば思い出すからだ、あの自分と交代するまでの少年とのさざめくような笑い声を。


 デボラはすぐに察しティラーニャの本日の休養を認めた。


 防衛隊の副官は豪快なふりをして隊員の心の変化に敏感だ。

 ティラーニャは礼と謝罪を告げ通信を切った。


 そして今、ティラーニャはいよいよやって来る身体の変化に身を委ねる。不自由になる。それでも逃げられぬのならばそっと蹲って時が過ぎるのを只の待てばよい。


 しかしそうは問屋が卸さなかった。


 ピンポ~ーーン


 チャイムが鳴る。


 来客を告げるチャイムだ。


 いったい誰だろう!? 扉にはあの日(・・・)を意味する印が掲げてある。ライカンスロープだけではなく女性ならば誰もが月に一度は掲げる印、環状銀河全域に通用するこの印を解さない者が居るとするならばそれはよっぽどの無礼者か或いはこの銀河の風習に疎い他所の星からの来訪者かだ。


 「も、もしかして……」


 この基地にそこまでの無礼者はいない、エレノアも大概無礼だが彼女も女性、この印の重要性は重々心得ている。ならば選択肢は残ったひとつ。


 「て、テツヒトさん!?」


 いやいや、そうじゃないだろう!? 狼のお嬢さんよ。ボケも大概にして欲しい。


 「そ、それじゃぁ………タタ……ラ?」


 その問いに答えるように扉の向こうから声が響いた。


 「ティラーニャ居ないの!? 留守? おーいティラーニャ~ーー!?」


 再びのチャイム、今ティラーニャの心は千々に乱れる。

 逢いに来てくれた嬉しさと今の自分を見せたくない苦悩。

 出るべきか出ざるべきか、それこそが問題だ。


 しかし彼女に悩む猶予は与えられなかった。


 「………先生のところへ行ったのかなぁ」


 そんな声と共にかつりと踵を返す音。


 ティラーニャは慌てて扉に向かった。


 「まっ………ぎゃわんっ!!?」


 走り出したが着ていた服がいけなかった。身体の変化に対応するために緩いだぼだぼの着衣を身に付けていたのだ。

 爪先が服の端を踏み扉に向い倒れ込む。幸か不幸か神の御業か悪魔の仕打ちか指の先が扉の開閉スイッチに触れ更には体型まで変化し始めた。


 「あ! ティラーニャ、あの………………あれ!?」


 結果、その部屋で多々良を出迎えたのは。


 「……クウ~ーーン」


 「い、犬!?」


 だった。

 

 


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