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戦いは星々の狭間で11 不機嫌な狼

 「ホラホラどうしたぁ!? ツキカゲに乗っていないとお得意の高速機動は難しいかぁ!? そんなよたよた飛んでたらマシュールが勿体無いぞっ! コイツ(マシュール)はもっと出る機体だっ、タタラッ、もっと踏み込んでみろぉっ!!」


 デボラのガルガンティスが舞うように多々良の周囲を周回しブラスターを次々と照射する。

 そのちょこまかとした機動に苛立ちも露にブレードを払うが既にそこにデボラの機体はなく、背後を捕られガルガンティスの背中を蹴りあげられた。


 「くっ、このっ!?」


 「タタラ、冷静に、デボラは熟練のガルガンティスパイロットです。彼女の言葉に熱くなって我を忘れれば相手の思う壺ですっ! 相手をよく見て軌道を予測し先手を取るのですっ!!」


 「でもミュー姉ちゃん、全然捕まらないんだよっ!? デボラさんすぐに逃げちゃうんだっ」


 「それでもですっ、心を落ち着けてひたすらに勝機を窺うのですっ! デボラでもどこかに必ず隙はある筈ですからっ」


 「隊長、タタラにばっかり気を執られてていいんですか!? こっちに私が居ることもお忘れなくっ」


 「……くぅっ、ティラ、腕を上げましたね。 しかしまだまだぁっ!!」


 ここは基地から数百キロの演習場、現在この地ではミューツ、タタラVSデボラ、ティラーニャの別れての戦闘訓練が繰り広げられていた。


 多々良は月影が兄。鉄人の手によって整備中の為、ミドガンド基地からマシュールを借り受けそこに搭乗している。

 パイロットと一心同体の機動を可能とする月影とは違ったマシュールの操縦性に多々良は苦心していた。特にスラスターが酷い、出力が貧弱な上にペダルを踏み込んだ瞬間と実際のスラスターの発動に僅かだがラグある。その上に少しでも無理な機動を執るとフレームがぎしぎしと悲鳴をあげる。

 多々良は今初めてどれほどに月影の性能に頼りきりの戦いをしてたかを悟りその悔しさにぎしりと歯を噛み締めた。


 「もっと、もっとだ、僕はもっと強くならなきゃミュー姉ちゃんを、あんちゃんを、みんなを護れないっ!! うあぁぁぁっっ!!」


 多々良のガルガンティスが背負ったブラスターを展開させ荷電光をデボラ機の軌道を予測した地点に放った。


 しかしそれはあっさりとデボラが身を捻る事でかわされた。




 一方、こちらはミューツ、漸く彼女の新しいマシュールもロールアウトし、彼女のパーソナルカラー、白銀も華々しくデビューを飾った。

 相手はデボラとティラーニャ、決して手を抜いてよい相手などではない、この基地のエース、『白と黒の戦姫』の片割れ、黒の戦姫の異名は伊達ではないのだ。地力で言えばミューツなど彼女の足元にも及ばない、ガルガンティスの搭乗時間は同じでもデボラにはミューツにはない才能があったからだ。

 

 それに、若手ながらも努力で経験の差を埋めてくるティラーニャ、彼女も侮れない。デボラの様な光る才能は持ち合わせていないがその手練手管の引き出しは無数に存在する、ともすればベテランパイロットのお株を奪う様な目を見張る戦い方をしてくる。


 そう、ちょうど今の様に。


 「今の機動は驚きました。そこでブラスターを撃ってくるとは……」


 「私だって成長しているんです、ぼうっとしていたらすぐに追い付き追い越しますよ!? おね……隊長ッ!」


 話している間にもティラーニャの機体はミューツのブラスターを掻い潜りブレードを下から斬り上げる。ミューツのガルガンティスは右側脚部中破の判定を下した。


 「そのようですね、でもっ!」


 中破し無用の長物となった右足をその場でくるりと回転する事で脇をすり抜けようとしていたティラーニャのガルガンティスにぶつける。怯んだ隙を見逃さずブラスターの引き金を引く、至近距離で光がはぜた。


 「きゃぁぁぁぁっっ!?」


 今までのミューツには無かったダーティな戦術にティラーニャは見事に嵌められた。


 「……左肩、一部スラスター大破、メインモニターまで……隊長、随分とお行儀の悪い手段を覚えて来られたのですね」


 ティラーニャは煩く鳴り渡る警報のスイッチを煩わしそうにカットする。


ミドガンド防衛隊隊長言った重い肩書きを気にしてか今までのミューツは過剰とも思える程に清廉な戦いに拘っていた節があった。 

 それはもう、時にはそれが元で危険を自ら呼び込んでしまう程に。

 しかし異星界から帰還したミューツは変わった。活きるために、護る為に生き汚く例え後ろ指指されるような手段でもそこに活路が見出だせるならば執るようになった。

 それはミューツの危うさを心配していたティラーニャにとって喜ばしい変化である。

 しかし、ティラーニャは心のどこかでその事実に悔しさを感じていた。

 その変化は誰の為に? 汚れても後ろ指指されても護ろうと心に誓った相手とはいったい………?  


 ティラーニャは気が付かない、今までの彼女ならば、ミューツにここまでの決意を与えた相手に嫉妬したであろう。

 だが、今の彼女はそこまでの決意を秘めて護ろうとする相手に対してのミューツのその想いにこそ妬心を抱いている事に。


 「フフフ、幻滅ですか!? でも学んだのですよ、生き残らねば護り続ける事は出来ない、例えどれ程足掻いても全ては生き残ってこそだと」


 「その覚悟、お見事ですっ! ならば私もっ、一部大破とて動ける限りはっ!!」


 「そう、その思いです、生き汚なくも抗い続ける事先にこそ勝機はあるのですよっティラーニャ!」


 「うあぁぁぁぁぁぁ~ーーーーッッ!!」


 結局はティラーニャはミューツに手玉に取られティラーニャの機体の大破判定で戦いは終わった、同時にデボラと多々良の方も多々良の敗北で演習は終了した。




 「ですからねタタラ、ペダルは最初はそうっとやさしく、スラスターのゲージが赤くなったら目一杯ふみこむのです」


 「でもミュー姉ちゃん、月影はそんなことしなくたって最初から全開で踏み込めたよ?」


 「月影は特別です、あんな無茶な操作で壊れないガルガンティスなんて普通じゃないんです。いいですか? ガルガンティスは繊細な兵器なんです、もっと労ってそれでいて大胆な操作を心掛けねばスナークなど倒せはしませんよ?」


 「………うん」


 「タタラは素直でいい子ですね、その調子でもっと頑張ればきっともっと上達するでしょう」


 「えへへ」


 演習が終わり基地へと戻る艦の格納庫、ハンガーに固定されたガルガンティスのコクピットで多々良はミューツの指導の元にシミュレーターを行っていた。

 これはガルガンティスの制御頭脳を外部のシミュレーターに直結し、実際にガルガンティスのレバーを倒しながらもガルガンティスは動かずモニター内部のガルガンティスを動かすといった訓練用の設備である。


 「おいミューツ、お前のマシュールの制御維持機構にエラーメッセージがあるぞ、タタラに構うのもいいが自分の機体位はしっかり調整してやれっ」


 そこにツナギ姿も凛々しいデボラが声を掛ける。どうやらミューツの機体に不備が出たようだ。


 「おかしいですね、さっき確認したときはオールグリーンでした。タタラ、引き続きシミュレーターを、わたくしはちょっとデボラのところまで行ってきます」


 「了解、今の戦闘を繰り返していればいい!?」


 「いえ、出来るなら色々なシュチュエーションをおこなったほうがいいでしょう……しかしタタラはまだシミュレーターを扱えませんね。それにアドバイザーも必要でしょう……と、ちょうどいいところに………ティナぁ!」


 ミューツが自分の代わりを探して辺りを見回すとガルガンティスの足元に赤毛の妹分の姿が。


 「な、なんでしょう? おね……ミューツ隊長」


 「貴女今空いていますか?」


 「えっ!? あ、は、はぁ、ちょうど自分の機体の整備も終わりこれからチェック表を渡しに行くところです」


 ……などと真っ赤な嘘、実のところ自機の整備などとっくに終わらせチェック表を渡しに通り掛かったところ、頭の上からキャッキャウフフと仲睦まじい姉弟の楽しそうな声が耳に入りじっと眺めていたのだ。


 「でしたら少しタタラのシミュレーションの指導をしてくれないかしら!? 忙しければそちらを優先してもらっても………」


 「いいえっ(⬅食い気味に)、忙しくはありますが緊急を要する訳でもありません。おねっ、隊長がおっしゃるならば、ええ、隊長が(・・・)どうしてもと(・・・・・・)おっしゃるのならばっ(⬅強調)、隊長の為にも(⬅嘘)お引き受けしましょうっ!!」


 「そ、そう……っわぷ、ティラ、そんなに尻尾を勢いよく振らないでっ、顔に毛がっ、うぷっ!」


 「し、失礼しました。それではシミュレーター立ち会いの任ティラーニャ・ソノン少尉、交代させていただきます」


 顔を真っ赤にしそれでも綺麗な敬礼で引き継ぎに応じるティラーニャ。しかし尻尾は未だ大きく振られていた。


 「よ、よろしくね、ティラ、くれぐれもお手柔らかに」


 ミューツは口に入った毛を摘まみ出しながらそれに答えた。


 かくしてタタラはティラーニャの指導を受けつつシミュレーションを続けるのであった。



 

 「ああ、今のは避けられたでしょう!? 何やってんのよ!?」


 「……………うん、ごめん」


 「ほらっ、そこっ! チャンスよっ! ブラスターで………って違うわよっブレードじゃなくてそこはブラスター!」


 「…………………あっ、逃げられた」


 「囲まれたわよっ、ブレードに注意しながら隙をついて離脱、ブラスターによるダメージはこの際多少はやむおえないわ、…………って違っ、ブラスターじゃなくてブレードよっ!」


 「……………………………」


 「そんな機動じゃフレームが耐えられないわっ! ホラッ、姿勢制御に異常、股関節断絶、ああっ! 外装保持フレームまでっ……」


 「………………………………………もういいよっ!!」


 ついに多々良は耐えきれずレバーから手を放した。

 腰をあげ開け放たれていたハッチからティラーニャの脇を抜け外へと飛び出す。


 「ちょっと! まだシミュレーターは動いているのよっ!?」


 「今日はもうおしまいっ! 横であれこれ口を出すなら君が直接動かしたらいいんだっ!」


 苛立ちも露に多々良は格納庫を抜け行ってしまった。


 「………あ!」


 そこでティラーニャは漸く気が付いた。自分がどれ程熱くなり多々良を相手に無理な機動を注文していたかを。


 多々良はまだ素人だ、軍人ですらない、こうしてマシュールを借り戦いに身を投じる決意をしたのも生きる為だ。


 そこにはミドガンド指令ラトゥーレと多々良の兄、黒沢鉄人との契約があった。


 黒沢兄弟は正式に軍には属さない、あくまでもミドガンドが彼らを保護する対価として防衛隊に協力する事と、食料生産計画への援助をする。

 それが話し合いの末決定された事だ。


 だのにティラーニャは月影の性能を多々良の実力と過信し過度な戦術を押し付けてしまっていた。


 「私……また………」


 ティラーニャの紅い瞳から一粒の涙が零れる。


 彼女はその真面目な性格から同期のパイロットからも煙たがれる事が暫々あった。

 そしてその性格が今如実に顔を出してしまったのだ。


 「どうして、どうしてうまくいかないのよぅ」


 好意を寄せる相手にこそ嫌われてしまうこの性格がティラーニャは嫌だった。


 ティラーニャはガルガンティスのコクピットの中、蹲り嗚咽を洩らし続けた。


 ピィィ~~ーーーーーーー


 警報が鳴る。


 モニターの中、ガルガンティスは仮想敵(アグレッサー)の集中攻撃を受け大破した。




 



 

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