戦いは星々の狭間で9 演習 (後編)
月影とガニガス率いる大隊が交戦する宙域、そこから少し離れた岩礁地帯にティ・アンプルの姿はあった。
浮遊する小型惑星のひとつに腰を据え後方の支脚でしっかりと上体を固定しその手には身の丈程の長さを誇る長距離バズーカを前方へと保持していた。
皿状ののっぺりとした頭部、そこに着いた単眼が味方の惨状を遠方より映している。
「タタラ大丈夫かにゃ、心配だにゃん」
「余計なお世話ってもんだ。それよりもお前は自分の心配してろ、長距離砲の暖気は充分なのか!? いざって時に射てないんじゃそれこそタタラの機体が撃墜されるんだぞ!?」
「心配無用にゃ、暖気も充分、あっつあつで今にもオーバーヒート寸前にゃ、本気で直ぐに射たなきゃ冷却装置が故障しちゃうにゃん」
「仕方ねぇ、おい、猫ムスメ、バズに回すエネルギーをひと目盛り落とせ。壊す訳にもいかねぇ」
「了解にゃん」
エレノアは鉄人の指示に従いガルガンティス本体から供給されるエネルギー量をひと目盛り分落とした。
ブラスターは荷電粒子をレーザー状に集束させて射ち出す兵器だ。それでだけに機動後直ぐに発射などは出来ない。内部の荷電機関が充分に暖まりその状態で電力を圧縮、開口部を開き射出するのだ。
圧縮状態の電力を閉じ込め過ぎても内部が逝かれる厄介な特徴を有している。
「こりゃ本気で実弾兵器の開発もありだな、即応性を求められる兵器としちゃぁブラスターは扱いが難し過ぎるぜ」
「何か言ったにゃん?」
「ひとり言だ気にすんな、それよりも多々良が目的地の到達した。展開した観測機は既にデータを送っている。これからが本番だぞ! 猫ムスメ、ピリッとしろよっ!?」
「了解にゃん、テツヒトこそそんなちっちゃなモニター見詰めてばっかりいて絶好のチャンス逃したら引っ掻いてやるにゃん」
「へっ、言ってろっ」
鉄人の膝の上には小さなノートパソコンが置かれており、そこにはどんどんとデータが送られてくる。
敵の配置と距離、或いは個々の機動、ティ・アンプルは遠い岩礁地帯に身を置きながら戦場の全てを把握していた。
それは多々良搭乗の月影がウィルミン側のガルガンティスが放ったブラスターに当たった様に見せかけつつばら蒔いた観測機からのデータに依るものであった。
ガニガスは未だ気が付かない。雌伏の時間は終わり今まさに逆襲が始まる事を。
「段取り八割実行二割ってな、猫ムスメ、一機が多々良に狙いを着けた。ソイツが最初の獲物だ! きっちり墜とせよ」
「あったり前だにゃん」
ティ・アンプルには見えていた。月影の背後、ライフルを構えるガルガンティス。その距離は遠くとも映像を観測機のカメラが映し丸見えなのだ。
複数の観測機が距離と方位を送る。それを元に鉄人が遠距離砲の微調整を行う。エレノアは唯鉄人の合図に合わせて引き金を引いた。
圧縮されたプラズマの奔流が出口を求めてマズルを疾走る。遥か遠方を目指し光は真っ直ぐに伸びたのであった。
『見てろよ、今度こそ外さねぇ、仕留めてやるぜ』
『っざけんなライナスッ! テメェ次は俺の番だろうっ、俺がコイツを墜としてやるんだよっ!!』
『はぁぁ!? テメーこそすっこんでやがれっ! フォルケンの萎びたブラスターなんぞお呼びじゃねぇんだよっ!!』
『やるかよ性病ヤロウッ!?』
『上等だこのインポがっ、悔しかったら性病貰うくれぇオンナにモテてみやがれってんだフニャチンがっ』
遂には仲間同士言い争いが始まった。その隙を付き一機のガルガンティスが月影にブラスターを構えた。仲間たちが互いに噛みついている間に手柄を横取りしようとの魂胆であろう。
こすっからいガルガンティスが狙いを搾り引き金を引こうとしたその瞬間。
『ウアァァァァァァッッ!??』
何処からともなく飛んできた太いブラスターの光が機体の表面を焼いた。
機体は無事だ。しかしガニガスを含む全てのガルガンティスのモニターには件のガルガンティスの撃破判定が表示された。
「くっ!? ゼーミン、無事か!?」
『何とかな、しかし機体はうんともすんとも言わねぇ、どうやら撃破されたみたいで制御を奪われた』
「クソッ、何処から射たれたか見た奴はいるか!?」
『い、いいえ、俺たちその……目の前のガルガンティスに夢中になって………』
正確には『仲間との言い争いに』だがそんな事を訂正しても既に後の祭り、いつの間にか目の前に居た筈の月影すらも姿を消した。
それにここは小型の衛星が無数に漂う岩礁地帯、知らぬ間に誘き寄せられたのだ。
「全員密集隊形を執れっ、全周囲を警戒し逆撃にそな………」
ドパッ!
新たな命令を下す間もなく次なる獲物が光の前に墜ちた。
ガニガスのすぐ脇に居た機体であった。
「遠距離射撃に警戒ッ! 衛星を盾にせよっ、おそらくはもう一機のティ・アンプルだっ! 位置を確認した奴は共通通信で全員に位置を知ら…………」
またもや命令は途中で途切れた。衛星の陰に入った途端待ちかねたとでも言う様にそこへ月影が現れ手にした模擬刀を横薙ぎに振り抜いた。
更には大破判定を受け操縦不能に陥ったガルガンティスを隣の機体にぶつけ怯んだ隙に四肢を薙いだ。
瞬く間にガニガス大隊は三機を失う。
斬られるのはゴメンと衛星から離れればそこは悪夢の狙撃地帯。
大混乱の内に大隊は一機たりとも残さず全滅したのであった。
「ッヨーシ! 御苦労御苦労」
「にゃふふふふっ、サイッコーにいい気分だにゃん! テツヒト、もっと撫でるにゃん」
珍しく喜びを露にする鉄人に後ろからエレノアは頭を乱暴に撫でられ嬉しそうにする。ピンクの長い尻尾も上機嫌でゆらゆらと揺れている。
「さて、場所を替えるぞ、猫ムスメ、支脚を解除しろエネルギーはどれくらい残っている?」
「ムダ弾が一発も無かったからほとんど減ってないにゃん。後五十機は墜とせそうだにゃん」
「次は観測機が無い場所だ、慎重に行けよ?」
「巡洋艦をやるんだにゃ!?」
「そうだ! 本命だな。絶対に見付かるなよ、発見されたらこの機体じゃ逃げられねぇ」
「わかったにゃ、ところで巡洋艦にも何か対抗策を考えてるにゃん?」
「応よ! 飛びっきりのプレゼントさ、アイツらの涙流して喜ぶ顔が目に浮かぶぜぇ。クックック」
凶相を歪め舌舐めずりでもしそうな笑いで膝に置いたノートパソコンをポンと軽く叩く。
「テツヒトスッゴい悪い顔してるだにゃん、あちしは絶対に逆らわない様にするんだにゃ」
少し青ざめた表情で操縦レバーを倒すエレノアに従いティ・アンプルは衛星の地表を離れ途中浮かぶウィルミンのガルガンティスの群れを通過し指定された目的地へと至った。
目的地に到着すると鉄人は自前のノートパソコンの画面を確認、数度キーを叩くとうんうんと頷いた。策が嵌まったといった所か。
「これでいい、後は多々良が始めるのを待つだけだ」
「始まったにゃ」
ティ・アンプルの望遠レンズの向こうでレミュ級巡洋艦特有の大口径レーザーは針ネズミの様に連射を繰り返している。
それをひらひらとかわしつつ飛び回る月影は巡洋艦に比べるとあまりにも小さい。
だがそんな小さなガルガンティス一機が戦艦一隻をきりきり舞いさせているのだ。
果たしてそこにもう一機加われば事は如何に?
「まぁ仕上げはごろうじろってね」
「エネルギー臨界、発射するにゃ!」
巡洋艦は月影に夢中でティ・アンプルの存在に気付いていない。
エレノアは気負いもなく引き金を引いた。
ドウッ!!
巡洋艦の艦内を震動が駆け抜ける。
「どうした!? 今のは何だ?」
ヴァンプの指令は月影の応戦に夢中で僅かな震動などに気付いていない。代わりに副官が艦橋の一角に座る男性のダンピールに尋ねた。
「本艦直下より大口径のブラスターの直撃を確認。被害は倉庫区画を破壊、直ぐに隔壁を封鎖、判定官の判定は中破です」
「あちらのもう一機のティ・アンプルの仕業か……嫌らしい攻めをする」
此度の演習、思い通りに行かな過ぎる。相手はあの異形のガルガンティスだしガニガスの大隊は全滅、更には不可解な通信があった。
月影と巡洋艦が交戦状態に陥る直前、差出人不明のメールがあった。開封してみたところ初めて目にする文字が並んでおり通信士と首を捻ったが結局は何かの電波の混線だと結論に至り指令に伝える事なくダンピールの副官はメールの消去を通信士に命じた。
「あっ! いや、『判定』ではありませんっ、中破ですっ! 倉庫区画は破壊されましたっ!!」
「どういう事だ?」
この通信士は何を言っているんだ? そんな顔で副官は首を捻る。
そんな彼に通信士の男は泣きそうな顔で叫んだ。
「ですから先程の荷電ブラスターは演習用の非殺傷などではなくしっかりとした殺傷能力を持った高出力ブラスターだと言っているんですっ!!」
「なっ!!」
馬鹿な!? そう言葉を続けようとしたが喉から先には出てこなかった。あり得るのだ、そもそもこの演習はヴァンプの指令と民間人の少年のいさかいが発端で決まったのだ。
件の少年は姉を貶められ怒り狂っていた。それは彼女の姉が止めなければヴァンプを殴り殺していたであろう程に。
ならば、ならば今ここで殺害に及んだとして不思議はない、いや、むしろ好都合だ。
我々が死ねば後は何とでも言い訳は効こう、『ブラスターがミスで非殺傷になっていなかった』とでも言えばいいのだ。
彼らは事故に見せ掛け我々を指令ごと葬り去る算段なのだ!
ダンピールの副官の背中を冷たい汗が流れる。
ゴッ!!
艦内に響く濁音、こちらの主砲を掻い潜り接近した月影の放った一撃が艦を揺らした音だ。
「し、し、しっ士官室から食堂室までが大破ッ!! し、死傷者行方不明者多数っ……隔壁、閉じません…………」
己れの悲運に涙を流し通信士はそれでも伝える。
ゴガァッ!!
「第三機関部大破、…………………死傷者行方不明者三名、姿勢制御スラスターの停止を確認」
ドゴンッ!!
「格納庫中破、…………………死傷者行方不明者なし、隔壁閉じません」
ドォォゥッッ!!
「第四から第六主砲大破、……………死傷者行方不明者十二名、誘爆の恐れがある為主砲切り離します」
ゴォォンッ!!
「第一機関部大破、………………死傷者行方不明者四十六名、発電停止、酸素供給設備に不具合、非常電源に切り替わります」
艦橋の明かりが消え、次いで直ぐに赤い小さな明かりが灯る。
この時にして指令も漸く事の異常さに気が付いたようだ。
「どうした!? 明かりを点けろっ! あの忌々しい蠅はまだ俺の艦の周りを飛んでいるんだぞっ!? 何故だ!? 何故火線を緩めた!? 全主砲でさっさと仕留めないかぁっ!!」
「…………指令、主砲は動きません。第四から第六までは誘爆の危険があるために投棄しました。主電源、第一、第三の機関部も大破し最早抵抗は敵いません」
冷静に現状を伝える副官にヴァンプは怒り狂う。
「なん………だと!? 何だそれはっ!? 主砲が動かない!? 電源が落ちた!? 何だ!? 何だ!? 何だ!?何なんだそれはっ!?? それでは我々は…………………………」
「うあああああぁぁぁぁぁぁぁ~~ーーーーーーーーーーーっっ!!」
指令の言葉を遮り通信士の男が突如叫び出す。
涙でぐしゃぐしゃの顔もそのままに頭を幾度もコンソールに叩き付ける。
すわ遂に狂ったか!? そう思い通信士を覗き込むと副官は見た。 通信士の頭の下、モニターには『通信室大破、死傷者行方不明者六名、エニータ・プリュム、ジェーン・バーミンガム、トンミン・J・ウラバナム、サクロ・フィー、エマ・バーグマン、グレゴリオ・ポチョムキン、隔壁未稼働』と書かれていた。
サクロ・フィー、聞き覚えのある名だ、副官は思い出した。サクロ・フィーはダンピールの女性通信士で目の前の通信士、メジェ・フィーの妹であった。
仲のよい兄妹で休日にはふたりで出掛ける姿を暫々目にした。
「あんたがっ!」
メジェ・フィーが突然立ち上がる。額から流れる血の跡もそのままに鬼の形相で隣の副官を押し退けその後ろにいたヴァンプの男の胸ぐらを掴んだ。
「あんたが妹をっ、サクロを殺したんだぁっ!!」
「ちがっ、わたしじゃないっ、アイツが、あの子供がやった事で……」
普段であれば支配種のヴァンプにこのような暴言、赦される事では無い。だがこの場に居る全ての者がメジェ・フィーを支持した。
「わたしのせいではっ……へぶっ!?」
「お前だっ、お前たちだっ! お前たちヴァンプの我が儘が何時だって俺たちダンピールを殺すんだっ!!」
それはメジェ・フィーが暴力に訴え出ても変わらなかった。肉親ではなくとも親しい友、或いは恋人を彼らも失ったのだ。その怒りはこの艦内で唯ひとりのヴァンプに注がれた。
「た、たのむっやめっ……ぐぼっ!」
「痛いかよっ!? でもなぁ、サクロは痛いとも思う間もなく死んだんだっ!! いいよなぁ、痛いって感じられて」
「なにを……ぶびゅっ!?」
「死んだらなぁっ痛いなんて感じねぇんだっ! ありがたいだろう!? あんたはまだ生きてるっ、言ってみろよ?『痛くてありがとう』って!」
「きさっ……ぐぉえぇぇっ、きさまっ、このようなっ………へびゅぶっ!?」
「『痛くてありがとう』だっ! これ以上俺たちに指図しようとすんなっ!!」
「やべっ……ほん、しんじゃ………しゅぶりゃっ!?」
「『痛くてありがとう』だこの薄ら馬鹿がっ! 言えないなら死ねっ! 死んだらいいだろっ!!」
「いら……くへ、ありゅいが…………ぐぶっ!?」
「発音がおかしいっ! ちゃんと心を込めてっ!」
「いら、いらっ、くれぇ…………ありゅぎゃ………りょほぉ………びょぴゅっ!らん、れぇぇ!??」
「似合わないんだよっ! ヴァンプが『ありがとう』なんてっ、気持ち悪いんだっ礼を言うコウモリ野郎なんて吐き気がするんだよっ!!」
「しょん……なぁ…………ぱぴゅんっっ!?」
会議室の再現かと思われる暴力の嵐、そんな中不意に警報が鳴り渡る。
「せ、接敵ぃっ! 二機のガルガンティスが艦橋にっ!!」
気が付けば目の前、深い暗闇を映す強化ガラスの向こうに二機の巨人の姿があった。
一機は模擬刀を手にそれを腰だめに腰を沈ませ、また一機は大口径の荷電ブラスターを担ぎ銃口をこちらに向けている。
ついに艦橋も破壊される。そう全員が息を飲んだ。
「通信!? 目の前のガルガンティスか!?」
暴力に心は囚われていてもメジェ・フィーは熟練の通信士であった。直ぐにコンソールの赤い光点に気が付き通信ボタンをオンにした。
『ねぇねぇあんちゃ~ーーん、壊れてんじゃない!? さっきからずっと呼び掛けてるけど返事がないよ!?』
『壊れてる訳じゃねぇ、あちらさんが忙しくて通信に気付いていないんだ、いいから呼び掛け続けろって』
『なんか口が疲れたよ、エレノア代わりにお願い!』
『あちしかにゃん!? 何を言ったらいいんだにゃ!? 突然振られても困るんだにゃん……』
『何だっていいさ、どうせ向こうも暫くは自分たちの事に夢中で気付きゃしないさ』
『……だったらあちしが話そーが話さまいが関係ないんだにゃん』
『いやいや、聞いていなくても話し掛け続けるのが重要なんだ! ほら、猫ムスメ、何だっていいんだとにかくなんかマイクに向かって言え!』
『うぅ~ーー…… 皆さんこんばんわだにゃん、今週も始まりましたエレノアの《ラジオステーションとむ☆きゃっと》のお時間だにゃん、ここから二時間あちしにお付き合いよろしくだにゃん。
さて、早速ですが本日も特別ゲストをお迎えしているんだにゃ、知ってるひとは知っている、知らないひとはまったく知らないこの兄弟、異星界からのお客様、クロサワ・テツヒトとクロサワ・タタラのおふたりだにゃん。ハイ、拍手~~ーーーパチパチパチパチ~ーー
お兄さんのクロサワ・テツヒトはあちしのガルガンティス、ティ・アンプルの副パイロットだにゃん。口は悪いけど的確な指示と悪魔のような戦略が持ち味だにゃん。
弟くんのタタラは異星界産のガルガンティス、月影のパイロットだにゃん。スッゴく強くってウィルミンのガルガンティスもブレード一本でけちょんけちょんだにゃん。でも本当の売りはそのお料理テクニックなんだにゃ、あちしは野菜とかって苦手だったんだけどタタラの作った野菜はチョー美味しくってびっくりしたにゃ、野菜って甘くってサイコーの食べ物なんだにゃん。あちしのお気に入りはトウモコロシだにゃん、あれ?トウモロコシ?トウロモコシ?どれだったにゃ?まぁいいにゃ。放送終了後タタラが食べさせてくれるって話だからとっても楽しみなんにゃ。
あ、ラジオの向こうのリスナーさんたちは信じてないにゃん? お野菜なんて苦くって美味しくないよって思ってるにゃ?
でも本当なんだにゃん、今は量も少なくって大勢のひとの分はないけど、医務室の先生が量産するっていってたからちょっと待つにゃん。
何か話に聞くと今までにプラントだと美味しく作れないから大変らしいけど、先生には是非是非頑張って欲しいんだにゃ、
そんな訳でお便りが届いていますにゃ。R.N素直になれないオオカミちゃん、オオカミちゃんいつもお便りありがとうなんだにゃん。『エレノアさんこんばんわ』はいこんばんわだにゃん『毎週楽しみに聴かせていただいてます』ありがとなんだにゃ『今週のゲストはクロサワ兄弟のおふたりと聴いてすっごく楽しみにしてました。実は私、クロサワ・タタラくんの事がスッゴく気になっているんです。明るくって優しいタタラくん、出逢いはサイアクだったけど本当はもっと仲良くなりたいなって思ってるんです。タタラくんは赤毛のオオカミはどうですか?好みだったりしませんか?それともやっぱり歳上の巨乳エルフさんが好みなのかな?教えてくださいタタラくん、私貴方好みの女の子になりたいんです!
P.S素直になれなくってゴメンね?』
いや~ーータタラってばモテモテだにゃん。やっぱりショタって需要があるんにゃ? え? ショタは十歳未満? タタラは十六だからショタ適用範囲外? 雰囲気あってもダメ? そうなのかにゃん、ちょっとがっかりだにゃん。気を取り直して直接本人に訊いてみるんだにゃん。こんばんわタタラはティラーニャの事どう思ってるのかにゃ?
あ、名前言っちゃった、ゴメンだにゃん、素直になれないオオカミちゃん、お詫びにちゃんと訊くんだにゃ、タタラ、君のお好みは癒し系エルフさん?それともツンデレオオカミちゃん?大穴でガッツリ姉御肌の黒ウサギ?いったいだれなんだにゃ~ーーん?タタラくんお答えどぞ~ーー』
『あんちゃん、むこう側の艦内映像出ないんだけど、艦の制御支配してるんでしょ!? 直接見てみたら?』
『ダ~ーーメ、お前には刺激が強すぎる、あんなスプラッタ弟に見せる兄貴が居るかっ』
『あっ! やっぱあんちゃんたちの方には見えてんじゃん、ズールーイー僕だってみたいのに』
『うわぁぁぁんッッ!! あちし頑張ったのに無視は酷すぎるにゃぁぁ~~ーーーーーーーーーーーッッ!!』
突如少女の泣き声が艦内に鳴り響く。どうやらマイクに突っ伏して泣いているようで凄く騒々しかった。
『酷いにゃ、酷すぎるにゃ! なんでもいいってテツヒトが言ったからやったのに言い出しっぺのふたりが無視とか何のいじめにゃ!?
これじゃぁあちしが唯の痛い娘みたいだにゃん』
『そんなことないよ、確かに僕たちは聴いてなかったけど、巡洋艦のみんなが聴いてたよ! きっと! ………多分』
『本当にゃ?』
『多分な、通信はいつの間にかオンになってたしオマエさんの声はあっちに届いてたはずだぜ?「らじおすてーしょんとむ☆きゃっとのおじかんだにゃぁぁ~~ん(ぴろりん)←裏声」ってな』
『うわぁぁぁ~~ーーーんっ! 恥ずかしくって死ねるだにゃんッッ!! あちし死ぬだにゃん! 巡洋艦潰してその後死んでやるんだにゃん!!』
ティ・アンプルの腕が稼働し正確に長距離砲の先端を艦橋に向ける。パリパリとマズルの先で踊るプラズマが荷電の完了を告げる。
どうやら冗談などではなく本気でこの艦を沈めるつもりの様だ。
『ちょ、エレノア、落ち着きなよ、誰にでも黒歴史はあるんだから』
『うわぁぁーーーーん、タタラ、それってちっとも慰めになってないにゃぁぁーーーー』
『猫ムスメ、痛いヤツなんて何処にでもいるさ、ドン引きの相手に場所を問わずアニソンについて熱く講釈を垂れるヤツ、公園で子供に囲まれつつ必死になって持ち込んだ美少女フィギュアの屋外フォト撮るヤツ、ドマイナーなゲームキャラのステッカーをクルマ全体にベタベタ張り付けて自慢気に乗り回すヤツ、「そのキャラどこのヤツ?」って訊かれるとな、ソイツ「あれ? 知らないの!? 遅れてるなぁ」って見下すような目で見るんだぜ? 5~6年前のゲームキャラ、しかも脇役だってのにさ。
どうだ? 痛いヤツなんてお前だけじゃないんだ、仲間は探せば幾らでもいるさっ!』
『…………………………先ず最初に巡洋艦を潰すにゃ、次にテツヒトを殺すにゃ、最後にあちしが死んですべてを終わりにしてやるんだにゃん』
『あ、今のちょっと中二入ってた。「全てを終わりにしてやるんだにゃん(キリッ」って』
『……………………………………テツヒトとあちしの間にタタラも入れるんだにゃ』
『なんで~ーーーーーーーーーーーーーーーー!?』
『さようならだにゃん、ウィルミンのみなさん、でも安心して欲しいにゃん、直ぐにあちしたちも後を追うから死後の世界は案外賑やかになるかもだにゃん』
ティ・アンプルのバズーカはいよいよ臨界を突破する。この様な至近で放たれたら最早九死に一生すらもあるまい。
副官はご免だった、この様な死に方など。
無論スナークを相手に戦場を駆ける軍人だ。まともにベットでの死などは叶わない夢想だとは覚悟している。
それでもここで死ぬのだけは容認出来なかった、これでは羞恥の巻き添えを食らっての犬死に、否、猫死にではないか!
副官の脳髄は必死になって打開策を巡らせる。目の前のズゥ星系出身の少女の、決死の決意をいかに翻えさせるか。かつてない程に脳細胞は活発にシナプスを蠢かせていた。
「わ、わたしっいいと思いました、ラジオステーションとむ☆きゃっと! 学生時代を思い出しちゃいましたっ!!」
突然ダンピールの女性砲撃手がマイクに向かって叫んだ。
『何を言ってるんだこの非常時に?』と周囲の痛い視線が彼女を貫くが砲撃手は構わずに喋り続ける。
「受験勉強しながらよく聴いてましたから、その時の事思い出してなんか懐かしい気持ちになって……」
『………………』
スピーカーの向こうは沈黙が続く、しかし相手に砲撃手の声は届いているらしくティ・アンプルの腕が長距離砲を降ろし始めた。
砲撃手はなおもマイクに語り掛ける。
「R.N素直になれないオオカミちゃん、ふふふ、可愛いですよね、わたしも昔はいっぱいハガキ出したんです。目立って読んでもらおうって蛍光ペンで縁を飾ったりなんかして………一度だけ読んで貰った時は嬉しかったなぁ、夜なのにわたしはしゃいで跳び跳ねて、お母さんに『煩いっ!』って怒られちゃいました。
素直になれないオオカミちゃん、想いが届くといいですよねぇ、そーゆーのってパーソナリティーさんに『頑張れ!』って応援してもらうと勇気が湧くんですよね」
『………………………………ホントかにゃ?』
「はい?」
『本当にラジオステーションとむ☆きゃっと、良かったと思ってくれてるだにゃん?』
「当たり前じゃないですかぁ! ラジオはわたしの青春ですよ? 昔のわたしに嘘なんて吐きません!」
『ううっ、嬉しいんだにゃん。こんなあちしを支持してくれるリスナーさんが居るだなんてパーソナリティー冥利に尽きるんだにゃん』
ティ・アンプルが長距離砲を保持した腕と反対の腕で単眼を拭う仕草をする。ゴツい装甲の腕で単眼を擦ったお陰でレンズに深い傷が付いた。
マイクを握った砲撃手がチラリと副官を見てマイクを指差す。
相手は陥落寸前駄目押しをしろと言うことか。
副官は砲撃手と席を代わりマイクの前に座る。
「えーー……と、初めましてエレノアさん、R.N胃潰瘍です。ラジオ初めて聴かせて貰いました。でもエレノアさんの声が可愛くて一発でファンになっちゃいました。あれですか? 公開生放送とかってやらないんですか? あったら僕真っ先に駆けつけます! これからも楽しいお喋り期待してますっ」
『ニャハハ~ーー、照れるんだにゃん。公開生放送は今のところ予定はないにゃん、でも何時かはやってみたいって思っているんだにゃん』
よし、あと少しだ!
副官と砲撃手が頷き合う。
「エレノアさんこんばんわ、レミュ級巡洋艦一等通信士のメジェ・フィーです、あ! こーゆー時ってR.Nってのじゃなきゃいけないんでしたか!?」
『構わないんだにゃ、けど個人情報だしR.Nをお薦めするにゃん』
「すみません慣れないもので……で、ですね、こんなこと相談するのもあれなんですが、妹がですね、艦の爆発に巻き込まれまして死傷とかって連絡がありまして………もしこのラジオを聴いてたら連絡が欲しいんですっ! サクロッ!お兄ちゃんお前の無事を信じてるからなぁーーー。きっと還ってくるって……ううっ、またお兄ちゃんに元気な姿見せてくれるって……うぅっ」
『グスッ、妹想いのいいお兄ちゃんだにゃん。どっかの目付きの悪い意地悪兄貴に爪の垢飲ませてやりたいにゃ、サクロちゃん、この放送聴いてたらラジオ宛でも連絡くださいだにゃん、君のお兄ちゃんはずっと待ってるんだにゃん』
既に場は《ラジオステーションとむ☆きゃっと》一色に染まっていた。
「ホラ、アンタも何かひと言言いなさいよ」
「………ううっ」
砲撃手がズタボロのヴァンプを蹴りあげる。
ヴァンプ半ば心身喪失の状態でよろよろとマイクに向かい何度も言わされた言葉を告げた。
「……いっ」
『い?』
「痛くてありがとう」
『にゃっ!?』
ティ・アンプルが降ろしかけた遠距離砲を艦橋に向ける。
『わわっ! エレノアッ! やめっ……』
『馬鹿ッ!! こんな至近距離俺たちっ……』
止める暇もあらばこそ、艦橋は光に包まれたのであった。




