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戦いは星々の狭間で5 弾丸

 医師との話し合いを終え医務室を出た後、多々良たちはエレノアに連れられ基地内を案内されていた。


 「ここがベンチにゃ、暖かい空気が溜まる場所でここでお昼寝するととってもキモチイイにゃ!」


 「こっちは倉庫にゃ、少し埃っぽいけど暗くって狭くってお昼寝にはサイコーのスポットにゃん!」


 「ホントは教えたくないんだけど、タタラたちには美味しいもの貰ったから特別にゃん、こここそあちし(・・・)がイチバンお薦めするベストスポッ…………」


 「おい、猫ムスメ」


 「にゃん? テツヒトどうしたにゃ!? 恐い顔が更に恐くなってるにゃん」


 鉄人の手ががしっとばかりに彼女の頭部を鷲掴みにする。


 「いにゃぁぁぁぁっ!? 痛いにゃん! テツヒト物凄く痛いにゃん!! 割れるっ割れちゃうにゃぁぁん!!?」


 砕けろとばかりに力を籠めるテツヒトの大きな手をぱしぱしと小さな手で叩くがテツヒトは一向に容赦せず握り続ける。


 「割れるがいいさ猫ムスメ、オマエのその昼寝しか興味の無いアタマん中、どうなってるか調べてやる」


 いい加減意味のない昼寝スポット巡りに鉄人はうんざりだった。


 「わ、わかったにゃ、今度はちゃんと案内するにゃ。だからアタマ離っ、離すにゃぁぁぁっ!!」


 エレノアの必死の懇願に漸く鉄人は手を離す。エレノアは痛みから解放された安心感からかぺたりとその場に尻をついた。


 「んにゃぁ、痛かったにゃ、テツヒトはちょっと凶暴にゃん」


 「大丈夫? あんちゃんのお仕置きは死ぬほど痛いからね、気を付けてね」


 多々良に手を引かれ立ち上がる。


 「充分理解したにゃん。で、あちしはどこを案内したらいいにゃ? 痛いのは嫌だからしっかり案内したいけど何処を案内したらいいか判らないにゃ」


 「まずはそうだな、ガルガンティスの整備やらをしている場所を見てみたい、それから食堂か、メシを自室で食えってのなら別に必要じゃないが、最後は俺たちが寝泊まりする場所だ」


 「ご飯はみんな食堂だから案内するにゃ。でも最初に整備場にゃ、こっちだにゃ」


 ようやくマトモな場所に行けると鉄人と多々良はため息をつき先行するエレノアの後ろに従った。


 


 「ここが整備場にゃ。ドワーフを中心に整備士がガルガンティスの整備をする場所にゃ。大体百人位のひとたちが働いてるにゃん」


 そこには整然とガルガンティスが並べられある機体は外装を全て剥がされ骨組みのまま、ある機体は装備の付け替えか背中の担架を降ろされていた。


 「マシュールだけではないな、他の機種もある」


 「マシュールはミドガンド最新鋭機、数を揃えるにしたってコストが馬鹿に出来ないにゃ、支援用とか遠距離射撃専用機、偵察機、作業用とかで古い機体も現役にゃん。実際あちしの役目も遠距離射撃、機体はマシュールじゃなくてティ・アンプルにゃ。ホラ、あそこにあるガルガンティスがそうにゃん」


 エレノアの指差す先にはマシュールとは違うがっしりとした機体、角で全体を構成し頭が皿の様にのっぺりとしたガルガンティスがあった。隣にはガルガンティスの身長程もあるバズーカが立て掛けられている。


 「ふむ、興味深いな、ミューツのマシュールとは全く違ったデザインだ。機動速度を捨て防御に主眼を置いた設計だな」


 「ミドガンドの設計じゃ無いからにゃ、これは確かムルームって小さなコロニーで造られた機体にゃ」


 機械屋魂をそそられたのだろう、鉄人はティ・アンプルを四方八方あらゆる角度から観察する。


 「カメラアイが双眼じゃなく単眼だな、いや、遠距離ならばそちらの方が有効か…………… それに手の作り物単純だ、小指から中指までをひとつにしている………… お?腿の裏に折り畳みのアームが!? なるほど支脚か、地に脚を着いての射撃の際これを展開して上半身のブレを抑えようと………考えたな」


 エレノアたち同行者の存在も忘れ夢中でぶつぶつと独り言を重ねる。


 「おい、そこで何をしているっ!?」


 整備場に響く大きな怒声、エレノアはさっと多々良の背に身を隠した。


 「おやっさんにゃ、整備士を纏めるドワーフにゃ、おっかないからあちしは苦手なんにゃ」


 どかどかと足音も荒く近寄って来たのは髭を壮大に蓄えた身長が多々良の肩下程度しかないがっしりとした老人。

 掴み掛からんばかりの勢いで縄張りに侵入した闖入者に食ってかかる。


 「誰だお前たちは!? ここは関係者以外立ち入り禁止だ、知らんのか!?」


 「このガルガンティス、遠距離射撃専用機と聞いたんだが」


 そんなドワーフの怒りも何処吹く風と鉄人は丁度よく現れた整備長に尋ねる。


 「そうだ、それがどうかしたのか?」


 ドワーフの怒声を耳にして身をすくませない相手は少ない、そして鉄人はそんな稀少な人間のひとりであった。

 整備長は少しばかり興味をそそられ問いに答えた。


 「ビット(・・)を放出するコンテナを背負っていないな、モニターに映る映像だけで射撃を敢行するのか!?」


 「当たり前だろう、見えれば射てる。常識だ」


 憤然と言い放つ。

 それを耳にした鉄人は大きな溜め息を吐き出す。


 「はぁ、現場を知らない輩の考えそうな事だ、コイツで出撃したパイロットは良くて五割、少なくても三割位しか目標に当てられんだろうよ」


 「む……」


 老人が言葉に詰まる、その通りだ、遠距離射撃の成功率は鉄人が答えた様に五割以下、二発放って一発当たれば御の字だ。


 「ならば貴様、的中率を上げられるとでも言う積もりか!?」


 噛みつく様に今度は老人が問う。命中率などここ数十年上がる事は無かった。遠距離射撃専用ガルガンティスと銘打たれ大々的に発表されても実戦に投入されると通常の機体をそう上回る数値を叩き出すガルガンティスなど居りはしないのが現状である。


 「ビットだ!」


 「ビット!? 貴様、さっきもそんな事言っていたな」


 「そう、ビット、小型の観測用の機械をばら蒔くんだ。そいつに目標の位置と親機との距離を計算させる」


 「どうなる!?」


 たったひと言ふた言の問答でドワーフは魅せられた。目の前の正体不明の男に。


 「当たる。ひとつではなく十、二十の眼で相手を捉えるんだ、弾道計算に齟齬が少なくなる」


 男の言葉は初老の整備長にとって目から鱗であった。


 「それに」


 「まだあるのか!?」


 鉄人がゆっくり頷く。


 「このバズーカ、弾丸は何を使っている!?」


 「弾丸だと!? 質量弾の事か。そんな骨董品使っておらん、ガルガンティスから供給されるマナをエネルギーとした荷電粒子砲だ」


 やはりな、と呟く鉄人は残念そうに首を振る。

 ミューツのマシュールもライフルは荷電ブラスターだった。

 つまりはこの環状銀河では現在射撃の主流は光学兵器であり実弾はミサイルや爆弾に限られているのだ。


 「弾丸だ。実弾の方がいい」


 「何故だ!? 実弾は重力や電磁波の影響を受け真っ直ぐ飛ばんぞ? それにスナークの装甲を破れても突き抜け被害も少ない。その点レーザーならば真っ直ぐ飛ぶしスナークの装甲も貫き肉を焼く。質量弾の利点が見えん!」


 「重力や電磁波の影響などビットの観測データを使った弾道計算でどうにでもなる」


 「採算を度返しすれば弾丸(タマ)自体に電子頭脳を乗せそれに計算させて小型のスラスターを付けても構わないしな」と鉄人は言葉を続ける。


 「着弾については……この世界には安価なナノ技術があるだろう」


 「確かにあるが……」


 「つまりはそう言う事だ」


 これで話は終わりだ。とばかりに整備場を後にしようとする鉄人を整備長が引き留める。


 「ま、待て、話は終わっておらん! ナノが何だと言うのだ!? 実弾でどうやってスナークを倒せるのだっ!?頼む、教えてくれっ!!」


 今にも土下座をせんばかりの勢いだ。


 スナーク打倒はこの環状銀河に暮らす知性種の悲願、その為ならば整備長はこの男に命をも売り渡したとて後悔は無かった。


 鉄人は彼の血を吐くような叫びを無視し歩む。

 整備場の片隅、床に転がった何かの部品を摘まみ上げた。

 いや、部品などではない、ゴミだ。

 この口五月蝿い整備長をして見逃しされたゴミ、清掃は効率のよい作業の基本である。さぞかし清掃を怠った整備士は後にどやされる事であろう。

 だがそれは鉄人には関係のない話、鉄人は整備長の元まで戻ると彼の手のひらに拾った物を置いた。


 「これは?」


 「弾丸は発射直後は鋭い円錐形をしている」


 ドワーフの手のひらには軟らかなパテの塊、彼は言われるがまま手にしたパテを円錐状にする。


 「この尖端ならばスナークの装甲も貫けるだろう」


 整備長は頷く。


 「そうだ、だがこのままでは貫いた勢いのまま後ろに抜けてしまう。スナークには効かないんだ」


 最早判りきった事実。かつてスナークが世界を席巻し始めたガルガンティス黎明期、パイロットたちはこの形の弾丸を頼りに蹂躙者へ挑んだ。

 その結果スナークの身体を射抜いても活動停止までは追い込めず無数の生命が星輝く空間へと散っていった。


 鉄人はパテの弾丸を手にすると反対の手にその尖端を押し付けた。


 「貫通した瞬間、弾の形状を変化させればいいだけだ。体内に押し留め勢いが貫く為ではなく撹拌する形状へと」


 ドワーフの整備長は驚愕の表情で鉄人の手のひらに見入る。


 そこにあったのは平らに先の潰れたパテの弾丸。


 この形ならばスナークの肉を穿つ事は無い、骨に当たれば跳ね返り体内をぐちゃぐちゃのミンチに変える。


 ナノならば予め設定されたプログラムに従いもっと凶悪な形にもなろう。


 「おお、おお、おおおおおおおぉぉぉっっ!」


 ドワーフは膝を着いた。


 感動に雄叫びをあげた。


 部下の整備士が見ている?


 そんな事は関係ない。唯々この革新的な閃きに打ち震えた。


 「多々良、行くぞ、もう充分にガルガンティスは観た。猫ムスメ、引き続き案内を頼む」


 「うん、……あんちゃん、あのおじさん放っておいていいの?」


 「わ、わかったにゃ、次は食堂だにゃ」


 「待ってくれ。頼む、待ってくれんか」


 引き留める声が後ろから聞こえる。


 鉄人は歩みを停める。


 「名を、名前を聞かせてくれんか!? お前さんの名前を」


 「黒沢鉄人だ」


 「クロサワ・テツヒト、そうか、お前さんが異星界からの稀人………」


 再び歩み始めた男の背中を手のひらのパテを握り締め老いたドワーフは何時までも見送っていた。





 

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