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戦いは星々の狭間で2 交戦

 眠りを破ったのはコクピット全体を叩き付けるような激しい震動であった。


 「あんちゃんッ! ミュー姉ちゃんッ! 起きてっ! あっちのガルガンティスが射ってきたっ!!」


 鉄人が飛び起きミューツが寝惚け眼を擦る。多々良は操縦席で厳しい表情をしモニターの向こうを睨み付けていた。


 「来る!」


 多々良は叫ぶと共に握ったレバーを壊れんばかりに右に倒し込む、脚元のスラスターペダルも同時に踏む。


 すると月影は肩から蒼白い炎を吐き出し回避行動を始めた。


 ゴウッ


 月影のすぐ脇、さっきまで居た場所を白い閃光が走り抜ける。

 直撃はせずともその余波は機体を揺さぶった。


 「きゃぁぁっ!?」


 未だ夢の狭間から覚醒に至る手前にあったミューツは震動に耐え兼ね倒れそうになる。


 それを後ろから支える鉄人、彼は厳しい表情で弟に問うた。


 「どういうこった!? ヤツら攻撃を仕掛けて来やがったのか!? 救助ってのは嘘だってのか!??」


 「判んないっ、判んないよあんちゃん! でも射ってきてるんだ! 反撃しなきゃ月影が墜とされちゃうっ!!」


 多々良が攻勢に転じんと左隅の小さなレバースイッチに手を掛けた刹那、ノイズがスピーカーを震わせ声が聞こえてくる。


 『こちらウィルミン思想体所属108小隊隊長ガニガス・ガグートスだ、正体不明機『月影』聴こえているか!』


「ガニガス殿! どう言う事ですかっ!? わたくしたちは只の救助を待つ漂流者ですっ、交戦の意思はありませんっ詳しい説明を要求しますっ!」


 『ッッ………』


 ミューツの詰問にスピーカーの向こうから苦渋に満ちたうなり声がする。どうやらガニガス自身の意思ではないようだが………


 応答はライフルの一撃でもってなされた。


 一閃!月影は再び燃料を燃やし紙一重でかわす。

 月影の背後にあったスナークの死骸が閃光に貫かれ既にぼろぼろであった身体が四散する。


 「ガニガス殿ォッッ!!」


 血を吐くようなミューツの叫び。


 『済まない、貴公らは……いや、貴公の搭乗する機体、『月影』を指令は正体不明、ガルガンティスを模倣した新型のスナークと断じたっ! スナークである以上そこに搭乗者などは居らず例え居たとしても既にその命は失われている………と、さすれば救助は無用、速やかなる敵性体の排除、及び研究の為の鹵獲を命じられたのだっ!! 

 ………………我々は軍人なのだ、上位下達は絶対なるものなのだ。例えそれがひとの道に悖る非道であろうとも……………

済まない、理解してくれとは言わぬが赤心より謝罪を』


 その言葉を最後に通信は切れた。相手側が通信を遮断したのだ。


 「……そんな、どう……シテ!?」


 救助されると喜んだ矢先にこの手のひら返しだ、ミューツは握り締めていたスピーカーに頭をくっつけ絶望にうちひしがれた。


 「何て言っていた? 彼方さん。まぁこの殺人光線の嵐だ、答えは訊かずとも判りもするがな」


 「月影は……スナークでアリ、………………スナークは………排除する、ト」


 途切れ途切れのミューツの呟きに「ふうん」と鉄人は頷く。

 

 この絶望的な状況下に於いても冷静な鉄人の反応は深く項垂れ悲しみの淵に身を沈めようとしていたミューツを踏み止まらせる力を持っていた。


 「鉄人さん、何か策でもあるんデショウカ!? 巡洋艦とガルガンティス十五機に攻め立てられそれでもわたくしたちが生き残れる策が!?」


 「策……ってほど御大層なモンでもねぇが」


 ちょん、と衝撃で宙を浮遊しているミニトマトを鉄人の指が叩く。


 ミニトマトはくるくると回転しながら操縦席の元まで跳んで行く。


 「多々良、どうだ!?」


 「オメガストームのヘルモード三戦目、幻影艦隊遭遇戦を思い出した」


 振り返り口を開いた多々良、器用に跳んできたミニトマトを指も使わずにくわえる。


 「確かありゃあデポン・テトラが最後に控えていたな、スコアは?」


 「殲滅まで五二〇秒! 得意なステージだったよ」


 「上等だ! スコア更新してみろっあんちゃんがご褒美くれてやる!!」


 「テンション上がるねっ! 期待してるよっあんちゃんっ!!」


 多々良の歯がぶちゅりとミニトマトを噛み砕く。紅い果汁を啜り彼は普段の穏やかな微笑みとは違った鬼神の如き表情で両の頬を吊り上げた。


 月影のスラスターが全開に蒼い焔を噴き上げる。武者の姿をした異形のガルガンティスは一直線にライフルを構えるウィルミンのガルガンティスへと肉薄する。




 「ぐぅ、撃てっ!撃つんだっ!隙間を作るなっ」


 ガニガスは焦っていた。混乱していた。恐怖していた。


 何だ!? 


 何だ!?


 何なんだ!?


 最初は突如受信した救助信号の要請対応、救助作業だと思っていた。


 受け持ち星域の見廻りを終え帰路に通信士が受信した救助信号。

 巡洋艦の指令はそこへ向かう事を渋った。しかしガニガスたちはミドガント星域の人員不足分を補う為に派遣された部隊だ。ここで信号を無視などすればそれは職務怠慢に他ならない。

 そう指令を説き伏せやった来た該当星域、果たしてそこに居たのはスナークの死骸と未知のガルガンティス、直ぐ様救助活動を開始しようとしたガニガスたちガルガンティス大隊に待ったを掛けたのは指令だった。

 曰く未知のガルガンティスは今後のウィルミン思想体のガルガンティス研究に重要な素材である、救助などしてしまえばその素材はミドガント基地に送られそこで解析され結果的にミドガントの戦力増強の一助になってしまう、ならば我らの物にし本国に送るべきだ。と。

 

 要は指令はこの製造元も明らかでない謎のガルガンティスを自分達の懐に容れてしまおうと考えたのだ。

 本国に送れば手柄になる。ともすれば軍内部で問題を起こしこのような辺境に跳ばされ腐っていた自分に本国の大本営は再び返り咲くチャンスを与えてくれるかも………と。


 無論ガニガスは反対した。

 それは連合体軍規に抵触する行為でありバレればミドガントとの国交に重大な問題を引き起こしかねない、ましてや機体にはふたりの民間人と軍人ひとりが搭乗しているのだ。彼らをミドガントに降ろせば彼らの口から事態は白日の元に曝されるのは火を見るよりも明らかだ。

 と。


 それに対し指令はヴァンプ特有の紅い瞳を爛々と輝かせ言った。

 我々が遭遇したのはガルガンティスを模したスナークであり救助信号はスナークの行った偽装である。まんまと敵の罠に嵌まった我々はやむをえず交戦、スナークを撃破せしめた。

 破壊後体内を開くとそこに現れたのは三人の痛々しい遺体、どうやらスナークに取り込まれ直後に命を落とした様であり救助信号はその中のひとりのインプラントをスナークが解析し発信していたようだ。

 と。 


 更にこうも。

 ガニガス隊長、貴公の娘御はお幾つであったろうか? ああ、五つ? ようやっと尻尾の柔毛も生え替わり人型に転じられるようになった時分であろう。今が可愛い盛りだ、その様な時期父と子が離れて暮らすのは不憫なものだと常々わたしも心を痛めていたのだよ。それに親戚の縁もない首都での生活は細君にも負担だろうに、特に貴公らの様な群単位での生活を送ってきたライカンスロープにはね。わたしの様なヴァンプでは計り知れない御苦労もあろうよ。なぁガニガス隊長、わたしだって本当はここで救助活動を行い助けてやろうとは思うんだ。だがな、貴公、天秤だ。こいつは天秤なんだ。片方の皿には貴公の愛しい愛しい妻子殿、また片方には誰とも知らぬみすぼらしい避難民、さぁ、貴公の天秤はどちらに傾く。


 顔を近付け腐臭のする口で悪魔の取り引きを迫る指令。


 ああ、コイツまた血を啜ったのか。と眉をしかめつつガニガスの心の天秤はゆらゆらと揺れ動く。

 片方には彼が最後に見た産着に収まった幼獣を胸に抱く焦茶のピンと尖った耳も可愛らしい妻の姿、また反対側には顔も朧な三人と一匹の姿。


 ゆらゆらゆらゆら


 天秤はどっち付かずに揺れ続ける。


 結局判断を下したのは指令の命であった。『指揮官最優先命令』、同じ軍に籍を置く軍人ならば拒否権を与えられないそれを持ち出されし渋々ガニガスは部下にこの気の乗らない『ガルガンティス型スナーク破壊作戦』を命じるに至った。


 無論部下も眉をしかめ上官であるガニガスに噛み付いた。同族のライカンスロープ、文字通り噛み付きはしなかったが言葉で噛み付いて来たのだ。

 何故救助者が居るのにそれを助けず殺すのか!? 確かに辺境は不満だが我々は軍人、殺すのではなく生かすために軍に入ったのだ。 ヴァンプの横暴はもううんざりだ、奴ら同星出身のライカンを未だに奴隷か召し使いだとでも思っていやがる、平等を謳ったら思想体だって結局はウィルミン家を筆頭にしたコウモリどもの独裁じゃないか。


 と。


 ガニガスは慌ててひとりの部下の口を塞いだ。

 不味い、最後の言葉は不味い。思想体出身のヴァンプ以外の知性種族すべてが思っている不満であるにせよ直接口にしてもし万が一ヴァンプの耳にでも入ればどの様な処罰が降るかも判りはしない。

 外面ではウィルミン思想体はウィルミン家を中心によく纏まった平等なコミュニティーなのだ。例えそれが仮初めであろうとも。


 ともあれガニガスは渋る部下の尻を蹴りガルガンティスのコクピットへと放り込んだのだ。


 気分のよくない仕事などさっさと終わらせてたまには酒でも呑もうじゃないか、俺の取って置きの酒を振る舞ってやる。エティゴのハリメェリツーだ! 辛口でいい酒だぞ! 宥めながら。


 だと言うのにどうだ!?蓋を開けてみれば死に体であると思われた異形のガルガンティスはぴんぴんとしており辺境に回されたとは言え精鋭であるはずのガニガス大隊は月影を名乗る機にキリキリ舞の有り様だ。


 ガニガスのガルガンティスも真っ先に狙われた。

 隊長機を一番に潰し隊の混乱を誘う。編隊を組んだガルガンティス戦における定石通りの手だ。教科書通りの戦術を教科書にも載らない斬新な軌道で再現してくる。

 拍手のひとつでも贈りたくなるがそれもかなわない。彼のガルガンティスは拍手をするための腕もなく、更には脚もスラスターもない只の鉄の棺桶も同然なのだ。

 彼に出来る事は唯一生き残っていた外部との接触手段で部下に指示を与える事とモニターで僚機が次々と凶刃に倒れて逝くのを指をくわえて見ている事だけなのだから。


 ライフルを向ければ察していたかの様に直近でかわされ懐に潜り込まれる。


 ならば近接、とブレードを抜き放てばそれこそが得意の土俵とばかりに向こうもブレードを手にする。


 また一機こちらのガルガンティスが墜ちた。近接で一合も交えずすり抜け様に右腕から背中のスラスターまでを切り払われた。


 幸いなのは向こうに殺す意図が無い事か。月影が狙うのは腕かスラスター、コクピットには指一本触れようともしない。

 だがそれだけに彼方の余裕が垣間見え此方の不甲斐なさが露呈する。


 不意に一機のガルガンティスの両腕を付け根から切り飛ばした月影が軌道を変化させる。

 ついでに今さっきまで交戦していた腕のもげたガルガンティスの頭を掴み真上へと放り投げ自分もその方向へとスラスターを噴かせた。


 宇宙に於いて上下の差などない、重力が無い分放り投げるのも容易だが、それでもガルガンティス一機の事だ、ガニガスはその膂力に瞠目した。

 ガルガンティスの指の構造は複雑だ。殴ったり手荒に扱えばすぐに指などもげてしまう。

 あのガルガンティスはそんな繊細な指で相手を掴み投げ上げてしまったのだ。


 しかし疑問が残る。何故月影は軌道を突如変えたのか? 無力化した筈のガルガンティスを放り投げたのか?

 今までの戦闘から無駄な動きをするパイロットには思えなかった。一見無駄に思える軌道もそれは計算されたモノであり後になって「この為の一手だったのか!」と歴戦のガニガスをして刮目させるものであったのに。


 疑問は直ぐ様氷解した。


 ゴバァッ!!


 緑の太い閃光が数条月影と部下の居た場所を駆け抜けた。


 チリチリと辺りに漂っていた破壊されたガルガンティスの破片が放電発光する。


 そんな。


 まさか!?


 動かないガルガンティスを必死に動かし背後に控えていた巡洋艦をモニターに映すとそれを拡大する。


 ああ、やっぱりだ。


 「畜生ッッ!!野郎ッ主砲撃ちやがったぁっ!!?」


 味方が居るのにだ。かぁっとガニガスの頭が沸騰する。


 ガニガスの叫びはマイク拾われ電波となって各ガルガンティスに届けられる。


 ウィルミンのガルガンティスはその声に月影への攻撃を止め自らの背後を振り返った。


 確かにヴァンプとライカンスロープは仲が悪い。だがそれを戦場にまで持ち出しライカンスロープごと目標を殲滅しようとは……


 『△●●◎◇☆』


 戦闘を止めたガルガンティスたちのコクピット内、スピーカーから解読不能な言葉が流れる。声は幼い、しかし落ち着いた何処かしら薄ら寒い響きにガルガンティスのパイロットたちは黙り込みその声に耳を傾けた。


 『△★◇■■、◎○◎@●$〒☆◇※』


 『ええ!? 翻訳ですか? そうですね、判りました』


 次いで聞こえて来たの女性の声、聞き慣れた環状銀河統一標準語でだ。どうやら最初にガニガスと通信した相手をの様だ。


 『タタラはこう言ってます。「貴殿方ではどれだけ攻めて来ようとも相手にはならない、大人しく自分を通して欲しい」……と』


 『£★◇♪▼$△☆◆◇、@☆□★■●☆◎@』


 『「しかし後ろに控えるあの巡洋艦は不快だ。貴殿方の旗艦とおぼしいが破壊します。それは勝者の特権であり敗者の貴殿方にどうこう出来るものではありません。そこを承知頂ければ」……とも言っています。

 ……ちなみにですが、今のタタラの言葉に従った方がよいかと。彼今ものスッゴク怒っていますんで』


 最後のはパイロット自身ではなく通訳した彼女の言葉だろう。


 「承知した。パイロット殿に伝えてくれ、(フネ)を潰されるのは痛いが身から出た錆だ。致し方あるまいよ。他の奴らも構わんな!?」


 返事の代わりにガルガンティスは右手を挙げた。……尤も腕が残っている機体のみでありはしたが。


 月影はひとつ頷くとガルガンティスの群を抜け巡洋艦に向かってひた駆ける。焦った巡洋艦が主砲も副砲もお構い無く全力射撃を敢行してくるが月影にとってはどこ吹く風、むしろ背後に控えるガニガスたちを気にしガルガンティス大隊と月影、巡洋艦が一直線に並ばないよう気を使うと余裕さえある。


 巡洋艦と異形のガルガンティス月影、彼我の距離が千メートルまで近付いた処で背にあった担架が刀を吐き出す。

 ガルガンティスの装甲を両断し刃零れした刀を捨て新しい刀を両の腕に持つ。


 巨大な長刀を交差し次いで大の字に振り上げ脚は艦橋を踏み締める。


 一気に双刀を両断すべしと。


 『はい、そこまでだ!』


 刀は止まる。後数寸の隙間を刀身と巡洋艦の間に残して。

 間一髪、巡洋艦の大破を救ったのはスピーカーから流れる短波の通信の声であった。


 『そこの正体不明のガルガンティス、アンタが救助信号を発信した相手だね? けど何でウィルミンの奴らと戦ってるのさ!? 事と次第によっちゃぁ承知しないよっ!』


 何時の間にやら周囲は数機のガルガンティスに囲まれていた。ウィルミンのガルガンティスではない、ミューツが地球にやって来た際に搭乗していた今は亡き『マシュール35式』の同型機だ。


 「デボラ!?貴女なのですねデボラッ!!わたくしですっミューツ・リュー・ミリュノフですっ!」


 月影の機内、スピーカーの声にピンと長い耳を興奮に染めミューツは彼女の副官であり親友の名をマイクに向かって叫んだ。


 『ミュー……ツ? その声ッッ!! ミューツかっ!? お前なのかっ!!?』


 スナークとの交戦の途中、スナークと共に消息を絶った戦友との思いも依らぬ場所での再会にデボラを始めミドガント防衛中隊の面々は喜びに沸いた。


 


 

 


 

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