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「リアさん綺麗です~!」

「ほんっと、リアは美人よね」

「もうっ、エマさんもマーサも!…そんなことないよ」



緑がまぶしい草の上をゆっくりとした足取りで3人は歩いてゆく。

マーサとエマはリアの後ろについて歩く。

リアは、高いヒールの靴を履いているためか何処か足取りがゆっくりになっていた。


「……今日は、我がまま言ってごめんね…二人とも」

「何言ってるんですか!こんな日に我がまま言わないでどうするんですか~!」

「そうよリア!大体リアはいつも控えめ過ぎるのよ」


振りむけないが、友人である二人の表情が手に取るようにわかってリアは苦笑する。

残暑、爽やかな風が大地に吹きわたっていた。真っ白なドレスが風になびき、ベールがふわりふわりと尾を引くように揺れる。後ろについたたっぷりのドレープの裾が地面について汚れないようにエマとマーサはその裾をもって歩いていた。


「しっかし…リアって本当に変わり者よね」

「え?」

「普通、豪華絢爛なお城でしたいっていう女子が大半でしょ?しかも、それが許されるお相手なのに」

「そうですねぇ~。でも、リアさんらしいって感じもしますけど」

「ははは…そうかな」



ゆっくりと前へ進む。所々、石があって躓きそうになるがなんとか避けつつ歩いた。


つい、ひと月ほど前までは今歩いている場所が戦場であり、草木も枯れ、荒れ果てた土地となっていたとは思えないほど豊かな緑が広がっている。空を見上げれば快晴。真っ白な雲がふわふわと浮いている。



「おや、やっと来ましたか…」

「シュアルツ殿…お待たせいたしました」

「兄さん!命の恩人のリアに向かって何て事を…!」

「エマ、落ちついて。………あの、……」

「あぁ、彼ですか?あそこに居ますよ。珍しく緊張してるみたいですけどね」



グランディア帝国の礼装を身にまとったシュアルツは、微笑みながら丘の上を指さした。

リアのエメラルドの瞳に黒い姿が入る。


「……貴女には本当に驚かされましたよ。まったく…エスタール女史は大変なものを残していかれた。その所為で、私も今では只の雑用ですからねー」

「あ、…ごめんなさい。私…皆さんの今後の事を考えもせずに…」


シュアルツの言葉に、顔を真っ青にするリアを庇う様にエマが二人の間に立ちはだかる。


「っ兄さん!花嫁に向かってなんて事を言うの!?大体、私達の世界から魔法が消えたから兄さんは生きているのよ!?」


エマの言葉の通り、リアによってこの世界の魔術は全て失われた。それは、魔術の源が消滅したことを意味しており、魔術石はもちろんのこと魔術師達の魔力も無くなったのだ。今、この世界で魔術を使えるものは誰ひとりと居ない。



あの戦いで、多くの人が魔術により命を失った…筈だった。魔術の消滅と共に放たれた魔術の波は、魔術を吸いつくして消えていくと共に、魔術により負った傷を癒しそして魔術により失われた命を再生したのだ。人間だけでは無く、動物や草花までもである。


勿論、魔術以外によって命を失くした者の魂は帰ってはこなかった。



「………シュアルツ殿」


リアは真直ぐな瞳で、見つめる。


「私は……魔術を消滅させた事を後悔はしていません。もしかしたら、沢山の人に迷惑をかけてしまったかもしれない…だけど「はいはい…、わかってますよ」


リアの言葉を遮り、シュアルツは苦笑する。


「今のこの美しい世界があるのは…貴女のおかげです。私達人間は、魔術に頼りきってしまっていた…、この世界に魔術という現象が現れた意味を忘れていき、私欲化してしまった。それが、今回の事に繋がったんです…。もっと、世界を澄んだ目で見るべきだった…誰もがそう想ったはずです」


あの後、トゥルーサ帝国とグランディア帝国は終戦の調印を結んだ。両国ともに長引く戦いで国は疲弊していたのだ。今では、商人の交流も始まり、以前のように二国間をつなぐ道も開通するのも遠い未来ではなくなっている。



「さぁ、こんなところで長話も無用です。また、城での披露宴を楽しみにしてますよ」

「ありがとうございます」


「リアっ……本当におめでとう!」

「リアさん、お城でお待ちしてますね~!」


「うんっ…!二人も、ありがとうっ…!」



手を振る三人に背を向けてリアは駆けだした。

純白のドレスを両手でたくし上げ、走る姿は滑稽だろう。せっかく土がつかない様に二人に裾をもってもらったのにそれも台無しだ。


緑の生い茂る草の上を走り、時折美しく咲き誇る花を見ながら進む。

鳥達のさえずりも聞こえる。


ドキドキと高鳴る鼓動をなんとか押さえながらも歩みを進めた。


目の前に立つ黒い礼装姿の彼の前まで。


ローベルトは、黒を基本とし金刺繍が細部に施された贅沢な礼服を身につけていた。洗練された立ち姿は、世の女性なら誰もが目を惹くように美しかった。


「リア」

「ローベルト様」


低くも優しい声が耳元に伝わる。

リアが目の前に立った時、ローベルトはその場に跪き、リアの白い手袋をはめた指をすくい取りゆっくりと手袋を外した。

金をベースとし、エメラルドとダイヤモンドが美しく施された細めのデザインの指輪をリアの指にはめると口づけをそこに一つ落す。



二人を残暑の風が優しく包む。



「大切なものを……探していた」

「大切なもの…ですか?」

「あぁ、戦いで負けて帰ってきたあの日から」


ローベルトは立ちあがると、リアの腰と背に腕を回す。

リアはエメラルドの瞳でじっとローベルトを見つめた。その視線に、ふっと笑みをもらしながらローベルトは言葉を続ける。


「何をしても、どんなに時間が経とうとも思いだせなかった。だが、時折脳内にちらつくものがある」

「………?」

「エメラルド色が、暗闇の中にみえた」

「っ…………!」

「あの日、死にかけた俺を助けてくれたのは……リア、お前だったんだな」

「は、はい…」

「あの日がなければ、リアが…魔術を使ってくれなかったら…今、ここにはいなかった」

「っ…ローベルト様」


頬を伝う涙は止まらない。

彼が生きていることが嬉しくて、愛しくて、たまらないのだ。

生死の境目に居た彼の姿が今も蘇り胸が苦しくなる。

もし、彼が死んでいたら?

もし、この世にいなかったら?




「ありがとう、リア。………愛してる、共に生きてくれるか」

「はいっ……っ、私も愛してます」



触れる様な口づけから、何度も何度も角度を変えて深くなる口づけにリアは再び涙を流す。



お母さん

エルメ



私は、いつも夢みてました。


暗くて、辛くて、寂しい世界はどこか私にはくすんで見えていて。


もっと綺麗な、幸せな世界が見たいって。



「っ…ローベルト様っ」

「ん?」


「世界はっ…こんなにも、青く澄んでいたんですね」

「あぁ……そうだな。俺も、今まで気づかなかった」



二人は、笑って抱きしめ合った。

お互いの体温がどちらのものか解らなくなるほど、つよく、つよく。



きっとこれから沢山悩むことも、苦しむこともある


それでも、あなたとなら生きてゆける


だって一人じゃ、ないから






夢見た世界は青く澄んでいた











おわり























長い間、お世話になりました。

至らない点が多々あったと思います。


思いつきで始めた小説ですが、なんとか完結することができてよかったです。

コメントや感想を下さった方々、そして最後までこの物語を読んで下さった皆さまには心から感謝の気持ちでいっぱいです。


本当にありがとうございました。


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